それは淡く揺らめく陽炎のように無謀な恋だな、というのは自覚があった。
デュースは自分の人生を振り返ってみても、明確にここまで『好きだ』と思える相手に出会ったことがなかった。デュースが恋した相手は同性な上、更に種族が違っていた。いや同性間の恋愛はどこの国でも一般的に認められているので問題ではない。
その相手と言うのは、デュースとは違う寮で、学年は一つ上で、あまり良い噂が無くて、デュースよりも背が一回りも高い人物で。とんでもない気分屋という事以外は、正直デュースは知らなかった。
オクタヴィネル寮のフロイド・リーチ。ウツボの人魚で、デュースがひっそりと想いを寄せている相手だ。
初めて彼を見た時の事をデュースはよく覚えていない。ハッキリと一個人として認識したのは、エースと色変え魔法の練習をしていた時だ。自分の失敗した魔法を、フロイドが無邪気に楽しそうに笑うものだから、デュースはそれがひどく印象に残ったのだ。
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