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    Ydnasxdew

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    Ydnasxdew

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    テッドくんに心を開くウェド

    #WT

    Crystal Blue東ラノシア、ブラッドショア。

    異常繁殖したクラブの駆除の依頼を片付けた俺とウェドは、一緒に仕事をした他の冒険者たちとコスタ・デル・ソルで夕食を摂り、ビーチに程近い宿の部屋へ入った。
    自分たちで斃したクラブを使った料理はそれはもうすごい量だったけど、ここにいる男たちの胃袋はそれを凌ぐ大きさのようで、シェフが拵えたいろいろな種類の蟹料理があっという間に消えていった。
    一日共に戦った仲間と囲んだ食事だったから、というのもあってか、俺もなんだか楽しくなってしまっていつもより食べ過ぎた気がする。二人部屋の宿で同室がウェドだって知ってたから、酒は控えめにした。……酔ってなんか変なこと言っちゃったら嫌だし…。

    外の共用浴場でシャワーを浴びて、部屋へ戻って簡素な寝台にダイブした。
    今夜は泊まりだけど、明日の昼には完了の報告をしに冒険者ギルドへ帰らなければならない。
    仕事じゃなければウェドとビーチでのんびり休日を過ごせるのに、なんて思いながら、ちょっと考えてしまった。
    …仕事じゃなくても、もし俺が誘ったらウェドはなんでもない一日を一緒に過ごしてくれたりするのかな…?

    頭の中に映像が流れ出す。

    きらめく陽射しの下、大きな南洋植物の葉の陰に座り、本のページをめくる長い指…

    波打ち際に俺を呼んで、水を掛けてくるちょっと意地悪な笑顔…

    日の沈みかけたビーチの岩陰で、俺を真っ直ぐ見つめる青い瞳。その手が俺の腰にするりと滑り込んできて……

    「テッド、戻ってたのか」
    「はぇっ⁉︎あっ!ぅわっああ!」

    呼びかける声にハッと現実の世界に引き戻された。
    両手にヤシの実を持ったウェドが部屋の入り口に立っている。俺は慌てて飛び起きようとして、盛大に寝台から転がり落ちた。

    「……ええと、大丈夫かい?」
    「うう…大丈夫……」

    思わずとんでもない方向に向かって行っていた妄想を覗かれてしまったような気がして恥ずかしい。今まともにウェドと目を合わせたら、大袈裟じゃなく顔から火を吹きそう…。

    「ここへ戻ってくる途中でコスタの女の子たちがこれをくれてね。ヤシの実に溜まった水はとても身体にいいからって…君もどうかと思って余分にもらってきた」

    差し出された大振りなヤシの実に刺さったストローから中身を吸ってみる。
    青くささとほんのりとした甘さが鼻に抜け、俺はびっくりして口を離した。

    「ぅえっ、これ…なんていうか、面白い味だね」
    「匂いやらえぐみが少しあるからな。俺は故郷ではよく飲んでいたから平気なんだが、苦手そうなら気にせず残してくれよ」
    「ううん、不思議な感じだけど不味くないよ。ミルクの方は何度か飲んだことあるけど、水は初めてかも」

    もう一度口に含んでみる。
    …うん、やっぱり不味くはない。ちょっとクセになりそう。

    ウェドは俺の様子を見て小さく微笑むと、自分はストローも使わずに実に開けた穴から直接水をあおった。
    普段は人目もあって食事のとり方も割と上品だから、ウェドがこういう時に時々垣間見せる豪快なところを見ると、少しどきどきしてしまう。

    他愛もない話をしていたら心地よい眠気がやってきて、俺はウェドにおやすみを言って寝台で毛布にくるまった。

    …どれくらい眠っていたんだろう。
    ふと鳥の鳴く声に目を覚ますと、外はまだ暗くて…部屋にウェドの姿が無かった。
    慌てて荷物を確認すると、ウェドの鞄はまだ寝台の下に置いてあるままだ。帰ったわけじゃなさそうだとわかって安心し、ホッと胸を撫で下ろす。

    俺を起こした鳴き声の主は、ウェドがいつも連れている雌鷹のアンバーだった。
    部屋の入り口のコート掛けに留まり、俺の顔を見て翼を広げて見せている。

    「…ウェドのところに連れてってくれるの?」

    声をかけてみたけど、アンバーは身体を震わせて翼をたたむと、ふっくらした羽根に顔を埋めてそれっきり眠ってしまったようだった。

    …あっそ、俺が自分で探せってことね。

    宿の小屋を出て砂浜へ降り立つと、心地よい夜の海風が俺の髪を撫でていった。

    遠くにうっすらとコスタ・デル・ソルの灯りが見える以外、真っ暗だ。
    あたりを見まわしてみると、少し離れた桟橋の方に人影があり、そっちから何かが聴こえてきた。
    …歌、かな?不思議な節のついた旋律が、風に乗って俺の耳に届く。
    さくさくと砂を踏んで近づくと、その影は俺の足音に気付いて振り返った。
    ふと景色が明るくなり、雲に隠れていた月が照らしだした顔は、他でもないウェドのものだった。

    「……ああ、君か」
    「ちょっと目が覚めちゃって。そしたらウェドがいないんだもん、びっくりして探しにきちゃった」
    「はは、それはすまなかったな。ありがとう」

    ウェドは腰掛けていた位置を少しずらして、俺を見上げた。隣に座れってことだろう。俺もそれに応じて、あけてくれた場所に腰を下ろした。

    「…歌みたいなのが聴こえた。なにしてたの?」
    「まぁ、いろいろ」

    一輪の白い花をくるくると手元で玩びながら、曖昧な笑顔でごまかされた。…ウェドはいつもそうだ。知識や技術は惜しみなくいくらでも教えてくれるけれど、自分のこととなると適当にはぐらかしてくる。

    「…俺には話したくない?」

    いつもだったら、これ以上は聞かない。
    なんとなく嫌われてしまう気がして、怖かったから。

    でも今夜はどうしてか、一歩踏み入ってしまった。…月の光の中にいるはずのウェドが、何故かとても暗い影に溶けている気がして。
    今手を伸ばさないと、もう会えないような…そんな不安が胸を締め付けてきた。

    「ウェド、俺…もっと知りたいんだ、あんたのこと」

    口にしてしまってから、ちょっと焦る。
    めんどくさいやつと思われたかな…?
    ウェドは少し驚いたような顔で俺をじっと見つめている。

    「あっ、え、えと…その、これからも一緒に仕事することもたくさんあるだろうしっ!知ってれば俺が役に立てることも、ある、かも…しれない…し……」

    慌ててそれらしい理由を言って取り繕ってみたけど、すごく不自然だったと思う。
    話してる途中で自信がなくなってきて、声は小さくなってくし、顔は熱いしでもう散々だ。

    そんな俺の頭に、ぽんと温かい手のひらが置かれた。
    顔を上げると、優しく微笑む青い瞳と目が合った。

    「……そうだな」

    ウェドは遠く水平線に目をやると懐かしそうに目を細める。

    「俺は南洋諸島に程近い小さな島の生まれなんだ。島は一年中暖かくてね、ここは俺の故郷に少し似てる」
    「ヤシの実水とか?」
    「ははっ…ああ、ヤシの実水とかな」
    「どんな暮らしをしてたの?」
    「質素なものだったよ。海の女神である大精霊の加護のもと、男たちは森で獣を獲ったり、海へ漁へ出たり…俺は漁師の家系だったから、子供の頃からよくじいさんの漁を手伝っていた。女性は俺たちに恵みを与えてくれる大精霊の遣いで、精霊からこの世へ送られる命の運び手と考えられていたから、安全な村で装飾細工や織物を仕事にしていた」
    「…だからいつも女の人に優しいんだ」
    「大精霊からの最大の恵みは命だ。女性にしかその役目は担えないんだぜ?俺たちにとって彼女らほど尊いものはないよ」

    それを聞いて納得した。ウェドが優しいのはもともとの本人の性格もあるだろうけど、故郷の信仰を捨てずにずっと貫いてるからなんだ。

    「今歌ってたのは?ウェドの故郷の歌なの?」

    ふ、とウェドの表情に影がおちた。
    調子に乗って踏み込み過ぎたかな、と不安になる。
    ウェドは迷うように何度か口を開きかけてはやめ、小さく息を吐き、ぽつりぽつりと語り始めた──


    *****

    14歳になった夏のことだった。俺はいつものように小舟に乗って刺突漁へでた。
    妹が自分も連れて行ってくれってごねるのを、お土産に海底でよく取れる綺麗な石を持って帰ってきてあげるからって宥めてね。…ああ、そう。俺がいつも首に下げているこれさ。島の特産品だった海底クリスタルなんだ。父さんはこのクリスタルや、魔獣の牙で作った装飾品なんかを商品に、エオルゼアからやってくる商船と取引してた。

    …その日は今まで経験したことないくらいの不漁だった。あたりが暗くなってくるまで粘ったが、小魚はおろか貝やら甲殻類やらの一匹も取れやしない。海には珊瑚とクリスタルの欠片ばかりがきらきらと輝いてた。俺は妹に約束した土産だけ握りしめて、島へ帰ろうと櫂に手をかけたところで異変に気付いた。…島の、俺たちの集落がある場所から火の手が上がっていたんだ。

    俺は小舟を浜へつけ、大急ぎで村へ駆け戻った。そこで見たのは、ごうごうと燃え盛る家々と、ドロッとした液状をした妖異が逃げ惑う村人を次々と無惨に殺していく光景だった。

    徘徊する妖異の目をすり抜けて、火の燃え移り始めた我が家に飛び込むと、妹が俺のじいさんに縋り付いて泣いていた。…じいさんが死んでるのはすぐにわかった。胸に大きな風穴が空いていたし…あたり一面血の海だったからな。
    俺はパニック状態の妹の手を引いて、必死で逃げた。もうどこが安全かもわからなかった。とにかく小舟へ乗ろうと、崖下にある浜へ向かう道を走った。
    でもダメだった。俺たちはどこからともなく現れた妖異どもに囲まれてしまった。
    …せめて妹だけでも逃したくて、俺は漁で使う槍を片手に戦った。自分でもよくあそこまで動けたと思うよ、人間追い詰められた時にはとんでもない力を発揮するもんだな。
    周りを囲んでいた妖異をあらかた退けて呼吸を整えていたら、背中に庇っていた妹が苦しみ出した。なす術もなく狼狽える俺の目の前で妹は……妹は、妹ではなくなった。あっという間に溶けてぐちゃぐちゃになって、妖異に姿を変えたんだ。一瞬前まで可愛い妹の姿だったそれは、あまりの出来事に放心した俺に容赦なく襲いかかってきた。…この頬の傷は、その時妹から付けられたものだ。

    俺は妹の名前を叫び続けた。正気に戻ってくれと、元の姿を取り戻してくれと願った。

    その間も、妹は俺を殺そうと襲いかかってくる。俺は咄嗟に槍を突き出した。
    何かを刺した感覚がして、目の前の妖異がドロドロに溶けて崩壊していった。
    その全てが地に落ちる寸前、ごぼごぼと水の中で話したような妹の声がした。「おにいちゃん」と、俺を呼ぶ声が。

    …そうさ。俺が殺した。

    ………俺は妹を、この手で殺したんだ。

    *****

    「──俺のいた島では、人間は死した時に肉体と魂に分かれ、身体は大地へ還って次の命の礎となり、魂は母なる大精霊のもとへ還り再びこの世へ遣わされる日を待つと信じられていた…いや、今でも俺はそう信じてる。だが死したその時に人の身体を持たなかった魂はどうなる?…俺は地に溶けようとする妹の残骸を掬い、呑み込んで……俺自身と共に精霊のもとへ連れて行こうと、真っ暗闇の海に身を投げた」

    耳元でどぷん、と何かが波間へ沈み込む音がした気がして、目の前に広がる海が急にとてつもなく恐ろしいところに思えた。
    俺が経験したわけじゃないのに、身体中が冷たい水に包まれたような感覚に身震いする。

    「──けれど、俺はこうして生き延びることになった。親父が…俺の乗ってた交易船の船長が、俺を引き上げて命を救ったんだ。あれ以来、実際に故郷の島へ戻ったことはないが…聞く話によれば、俺があの島の唯一の生き残りらしい。……この歌は、肉体から離れた魂が迷わず精霊のもとへ還れるよう導く鳥の歌さ」

    ウェドは手に持っていた白い花…ニメーヤリリーの花を、遠く月明かりの輝く波間に投げ入れた。

    「そしてこれは俺がこっちへきてから知った鎮魂の花。旅路の無事を願う意味もあるんだろ?…妹の魂の無事を願わずにいられないんだ。俺の中にあいつの魂が残ってるはずないってことくらい、さすがに今の俺にならわかる」

    ゆらゆらと光に包まれながら遠く離れていく白い花を、ウェドは愛おしそうに見つめている。
    俺はその横顔があまりにも綺麗で、悲しくて、いとしくて…つい、ウェドの手に自分の手のひらを重ねた。

    「……ごめん」
    「なにを謝るんだい?俺のほうこそ悪かった。自分の不幸話なんて、本当は人にするもんじゃない」

    ウェドは軽く肩をすくめて、俺の顔を覗き込む。月に照らされた瞳に、海の青がきらめいてみえる。

    「君は不思議な男だな。いつも俺を真っ直ぐに見つめてくる。…以前ある人に言われたことを思い出したんだ、孤独や寂しさは重過ぎる荷物だから、みんな分け合うんだって…何故だろうな、君には打ち明けたいと……そう、思った」

    低く、静かに話すその声が俺の脳を震わせる。
    それ、どういう意味…?
    俺のこと、他の人とは違うって思ってるの…?
    俺が混乱していると、ウェドは重ねたままだった俺の手を取りそっと離した。

    「いや、本当にすまない…その、話し過ぎたな……気を悪くしないでくれ、君に何かを期待しているわけじゃない…いや、言い方が悪いな、違うんだ…」
    「ううん…話してくれてありがと。嬉しい」

    珍しくしどろもどろになるウェドの姿がなんだかおかしくて、自然と離された手が寂しくて、そんな苦しさを抱えたまま生きているウェドが悲しくて…俺はいつものウェドみたいに、曖昧に笑ってごまかす。

    まだバツの悪そうな顔をしているウェドの頬に指を滑らせ、俺はそっと触れるだけのキスをした。

    「…っ…⁉︎」
    「俺のこと、信じて話してくれたんでしょ。ありがとう、ウェド」

    あまりにも感情が昂ってつい大胆なことをしてしまったけど、今更ものすごく恥ずかしくなってきて、俺はいたたまれず勢いよく立ち上がった。

    「テッド」
    「あ、あー!なんかちょっと涼しくなってきたかな⁉︎あんまり海風にあたってたら風邪ひいちゃうなー⁉︎」
    「ちょっ…テッド」
    「俺慌てて出てきたから薄着なんだったー!す、すぐ戻らなきゃ!じゃ!おやすみウェド!先に戻るね!!」

    ばっと踵を返して走る。
    少しウェドから離れたところでちらと振り返って様子を見ると、ウェドは突然奪われた唇に触れて俯いていた。
    その顔が、ちょっと赤いように見えたのは……きっと俺の気のせいだと思う。
    さっきまでウェドに触れていた手が熱を帯びている。
    今夜の俺はなんか変だ。普段はしないようなことたくさんしちゃったし、嫌われたらどうしよう…
    後悔の波が押し寄せてくる。

    俺は部屋に戻るなり寝台へ飛び込み、毛布を頭から被ってギュッと目を閉じた。

    *****

    あまりの不意打ちに言葉を失った。
    唇に残る、温かくて柔らかな感触。
    時折みせる、あの大人びて強い光を帯びた眼差し。

    ああ、君は。
    君はどうしてそうも、俺を惑わせるんだ?

    触れていた手がまだあたたかい。
    その手で、口付けのあとを確かめる。
    かっと身体が熱くなるのを感じた。

    泣きたくなるような優しさが、心を満たしていく。

    テッド。
    君のその光は、俺の身には過ぎたものだ。

    *****

    耳元でバサバサと音がして目を覚ますと、目の前に大きな嘴があった。

    「ぉわっ、うわぁ!」

    びっくりして咄嗟に腕で頭を覆うと、その嘴の主…アンバーはぷいっとそっぽを向いて隣の寝台へ飛び移った。
    それを目で追った先で……ウェドが寝ていた。
    珍しいこともあったもんだ、ウェドのしっかり眠っているところを初めて見たかもしれない。

    夜中にたくさん喋らせちゃったしな、と反省しつつ、同じ部屋で眠っても朝になるといつも姿を消しているウェドが今朝はまだ隣にいることにちょっと心が躍る。
    ……そういえばちゃんとした寝顔、見たことないな。

    そーっと寝台の横にしゃがみ、うつ伏せで横を向いた顔を覗き込んだ。
    穏やかな顔だ。乱れた前髪の隙間から、長いまつ毛が覗いている。そこから視線を下ろすと、頬の上を長く通った古い傷が目に入った。
    切ない気持ちになんとも言えなくなっていると、のそりと何かが動く気配がした。
    …ウェドの肩の上に餅のように座り込んで、羽を膨らませたアンバーと目が合った。

    「…なんだよ、別に起こすつもりないしぃ…」

    不満げに口を尖らせてみせると、アンバーはまたしてもぷいとそっぽを向いて羽根に顔を埋めた。
    くっ、この女……二度寝を決め込むつもりだ……。

    時計を見るとまだ時間には余裕があった。
    何か朝ごはんを作ってあげたら、ウェドも喜んで元気を出してくれるかもしれない。
    俺は南の島の朝ごはんに思いを馳せながら、そっと部屋を出て扉を閉めた───
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