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    Ydnasxdew

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    現WT 運命の日

    東の空が、薄桃色に染まっている。
    朝が来る。出発の朝だ。そして、これが別れの朝になるかもしれない。

    ウェドはテーブルの上に置いたままの航空券を見つめていた。テレビから聞こえてくるワールドニュースの声は、ただ不安の残った寂しい部屋を誤魔化すだけのものになっている。


    -------

    「大事な話があるんだ」

    そう切り出したウェドの瞳は、いつになく自信なさげで、不安気に揺れていた。
    かわいた唇を舌で舐め、無骨で長い指を組み、隣でオレンジジュースを飲んでいるテッドへ気まずげな視線を向ける。

    「な…なに?突然……」

    少しの沈黙。テッドはなんとなく居心地が悪くなり、手を膝の上で組んで背筋を伸ばす。

    「…俺、来週の月曜スペインに帰る。ビザの更新があって…」
    「は、なんだ、ビザかぁ…!」

    テッドは止まっていた息をほっと吐き出した。力の抜けた身体がソファに沈み、微かに音を立てる。

    「そんな、今生の別れみたいな……びっくりしちゃったじゃん。荷物もあるだろうし、空港まで一緒に行くよ」
    「違うんだ」

    低く遮った否定の言葉が重い。
    テッドは隣に座り俯いたウェドの顔を、心配そうに覗き込む。深い深呼吸のあと、ようやくウェドが顔を上げ、テッドを見た。

    「このまま日本で研究を続けるか、父さんのところへ行くか、どちらかになる。これは俺の人生の、今までで最大の分かれ道だと思う。だから、笑わないで…誤魔化さないで、聞いて欲しい」

    テッドは真剣な青い瞳に圧倒され、ただ黙って小さく頷く。再び膝に置かれた手のひらを、ウェドの手が包む。大きな褐色の手は、テッドが知る限り初めて、目に見えて震えていた。

    「日本に来て、君と出会ってからずっと、君のことが好きだった。初めは君が気がつかないことに落ち込みながらただただアプローチしてたけど…一緒に過ごして、日本を、君を知るにつれ、怖くなった。俺が本気だって…一生、君の隣に居させて欲しいって思ってることを君が知ったら、今のこの幸せな関係が、終わってしまうんじゃないかって。でも…だから、これが良い機会だと思った」

    言葉もなくただ目を見開いているテッドの手を、ウェドは自分の胸へ押し当てる。
    美しく整った相貌の、長いまつ毛の先から一筋、涙が頬を伝った。

    「愛してるんだ、テッド。君との時間を失うのを、こんなに心が恐れているほど、君が好きだ。…もし君が俺を赦して、受け入れてくれるなら、俺はここへ戻る。これから例えどこへいっても、必ず君のところに。それで…俺は、それが叶わないなら、二度とここへは戻らない。君のことを…忘れるために、俺は、君から逃げる。」

    「…ウェド、俺」

    「ごめん。自分勝手だよな。こんなの卑怯だ。わかってる…でも……ごめん」

    テッドが改めて何か言おうとしたのを、ウェドは唇で塞いで止めた。
    柔らかな感触。伝わる身体の震え。
    ゆっくりと身体が離れていき、硬直したテッドを置いてウェドが立ち上がる。

    「出発の日までに、返事が欲しい。それまではもう空港のホテルを取ってあるから…」

    そう言って背を向け、コートに袖を通して足早に玄関へ向かう。

    言ってしまった。もう戻れない。どのみち、友達以上の心地良い関係は、今この瞬間で終わったのだ。
    ウェドは初めての恋の終わりの気配に、ひどく痛む胸を抑えた。

    「じゃあ…さようなら、テッド」

    -----------

    朝日が薄いカーテンを貫き、ウェドの影が部屋の中へ長く伸びる。
    ニュースの声はまだ続いている。今のウェドにはもう、それが何語で話されているものなのかもわからなかった。
    机の上の航空券を手に取り、コートの内ポケットへ差す。

    搭乗開始まで、あと3時間ほどだろうか。
    あれから、テッドからの連絡はない。
    朝は苦手だが、こんなにもつらく、苦々しい朝は生まれて初めてだった。

    テレビを消し、カードキーを抜いて、手荷物を引く。
    ガチャリ、と閉まった扉の鍵の音が、低く、重く、ウェドの心にのしかかる。

    ウェドは小さく息を吐くと、空港の出発ゲートへ向かって歩き出した。
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