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    Ydnasxdew

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    Ydnasxdew

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    トモ・ロウ、テッドくんの元に現る

    Determined生温い風が頬を撫でた感覚に、テッドはふと目を覚ました。
    窓の外を見ると、まさに陽が砂漠の向こうへと消えていくところだった。
    いつの間に眠ってしまったのだろうか。はっきりしない頭を振り、小さくも豪奢なテーブルの上にある水差しを取ろうと歩みを進めると、右脚に嵌められた細い足枷が小さく音を立てた。

    ウェドがあの暗い海へ姿を消してから、もう一週間ほどが経つだろうか。
    無理矢理ウルダハのリドア家へ連れ戻されたテッドは、生活するに困らない程度の設備の揃った部屋の中に文字通り繋がれ、連絡手段も何もかもを奪われて軟禁されている。
    食事を摂らないわけにはいかず、運ばれたものは口にしているが…今のテッドにはわかる。飲み物や食べ物には、テッドを動けなくさせるに十分なだけのなんらかの薬品が盛られている。頭がぼうっとするのはそのせいだ。
    初めの三日ほど、暴れ、抵抗し、なんとかして逃げ出そうと躍起になったのが失敗だった。
    あんなことさえしなければ、あの夜よりも前のようにまだ誰かと連絡を取ったり、監視はついても外出して何か情報を得ることくらいできただろうに…

    (どうしてこんなことになっちゃったんだろう。なんで俺はいつも…!)

    目を閉じるたび、最後に見たあの絶望に染まった美しく青い瞳が瞼の裏に蘇る。
    おそろしい銃声。弾けるように傾いた身体。落ちてゆく手はもう届かない。
    自分の左手薬指に目が留まる。そこに嵌っているはずの指輪は、兄に奪われたままだ。

    泣いていても仕方ないのはわかっている。けれど、無力感と虚しさと悲しさに涙が込み上げて止まらない。
    再びベッドに身を沈め、枕に顔を埋めた…その時だった。

    「泣くな、少年。…いや、少年って年じゃあないんか、すまん」
    「っ⁉︎誰…っ⁉︎」
    「シッ…まぁ泣き声でこっちの声を悟られんのなら好都合やな。そのまま泣いているフリをしろ、返事はせんでいい」

    どこからともなく突然降ってきた声に、テッドは飛び起き身を強張らせる。
    低く、小さく…しかしテッドにはよく聞こえるその声は男のもので、窓の方からするようだった。

    「おいは名乗れはせんが、君にこれをどうしても伝えんとならんと思ってここへ来たモンだ」

    テッドは窓の外へさりげなく視線をやりつつ、鼻を啜って泣いているフリを続けて男の言葉を待つ。

    「安心してええ。ウェドは生きてる。だが『今はまだ』という状態や。悪いことに、無理をして行動を急いだせいであの蛇野郎に居場所を知られて追われている」
    「それって…!」
    「シーっ……おいたちも今は無闇に動けん。いけすかない奴や、しっかり根回ししおってからに…助けよ思ても、こっちまでお尋ね者にされちゃあ、いよいよ打つ手がなくなってまう」

    男は一つくぐもったため息をつくと、早口に話を続けた。

    「ウェドは追っ手の目を欺く為に敵さんが書いたシナリオに乗って、君が裏切ったと思い込んだフリをした。だがそのあとアイツは君との合流を焦り、しくじった。おいが見るに、怪我の具合も良いとは言えん。認めるのは癪やが、あの蛇男の手腕を考えれば、とっ捕まるのも時間の問題やと思う」

    テッドは泣き真似をするのも忘れ、ぎゅっと目を閉じる。あの男…アルダシアの冷酷な笑みが思い出され、首元を冷たい汗が伝っていくのを感じた。

    「…おいたちは下手に動けんが、お偉いさんも君の兄さんも、君には手ぇ出せんやろ。この一週間で、既に使用人の中にウェドの協力者が潜り込んだ。もう少しで、君を外へ逃す手筈が整うはずや…あとは頼んだで」

    びゅう、と風の唸る音がして、男の声が気配ごと消えた。慌ててテッドが窓の外を見ると…男のものだろうか、そこには流れ落ちた血の跡だけが残っていた。

    (怪我をしてたんだ…!それでも俺にウェドのことを伝えにきた……)

    強く拳を握りしめる。ぼうっとしていた頭が、みるみる間に冴えてくる。

    (俺が、助けに行く。俺はもう、ただ助けてもらうのを待つだけの弱い人間じゃない!ウェドのことも、ディアスファミリーのみんなのことも、今の人のことも…何があっても、絶対に…!)

    遠く、鷹の鳴く声が聞こえる。
    テッドは強い意志の宿った緑色の瞳を光らせ、雲間から現れた三日月を睨みつけた。
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