テッドが家のドアを開けると、ほのかに甘い香りと、うっすら何か焦げたような匂いが鼻先をくすぐった。
同時にキッチンの方からガラガラと大きな音がして、慌ててそちらへ駆け寄る。
どうしたの、と声をかける前に、まとめた前髪をぴょんと跳ねさせたウェドが振り向いて困ったように笑った。
「ああ…おかえり、テッド」
「た、ただいま…それ大丈夫⁉︎」
ウェドの目の前、シンクの中で食器が雪崩を起こしている。
「いや、何から片付けたものかと思ったら見る見る間に崩れてしまって…でも、ほら、見てくれ!」
ウェドが目線で促したテーブルの上には、三段重ねのパンケーキが置いてあった。少々不恰好だが、美味しそうなクリームがたっぷりとかけられて、てっぺんに歪ながらも星の形にカットされたフルーツがのっている。
…その向かいに、真っ黒に焦げたよくわからない何かと、切り刻まれてもはやジャム状になっているフルーツの残骸が盛られた皿が置いてある。
「この間、君がカフェの星芒祭メニューを見て食べたそうにしていたのを思い出して…君を喜ばせたくて練習して作ったんだが…大丈夫、君のは上手く作れたと思うんだ!そっちの皿は…その、見なかったことに…頼むよ」
もだもだと視線を泳がせ眉尻を下げた顔が愛しくて、テッドはぐっと背伸びして勢いよくウェドにキスをした。
「ウェド大好き!あのメニュー看板見てたのなんてほんの少しの間だったのに、よくわかったね」
「そりゃ君のこと大好きだからな。当たり前だが本物には遠く及ばないし、まだやってそうならちゃんとしたものを食べに…」
「ううん、俺、これがいい!ね、一緒に食べよ!」
テッドはウェドの手を引きテーブルにつくと、両方の皿を引き寄せてフォークを刺した。
「え、いや、それはとても食べられたものじゃ…」
「ウェドが俺のために一生懸命作ったものだもん、食べられるよ」
ひとかけらずつ切って、口の中へ放り込む。
失敗作だという方も、見た目はどうあれ味は悪くはなかった。
「ふふ、美味しい!ほら、ウェドも、あーんして」
「まいったな。君のために作ったのに」
「二人で食べたらもっと美味しいに決まってるじゃん!」
テッドの屈託のない笑顔に、ウェドも優しく目を細めて微笑み返す。
こんなになんでもないひと時が、暖炉の火のように心を暖める。
窓の外では、静かに降り出した雪が街の灯りにきらきらと輝いていた。