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    ウロイチ。お披露目会あたり。

     ここ最近、軋むような音が続いていた。
     歯車がひとつ、他より早く進むことで生じる不協和音のようなそれは、人体の一部が響かせているようだった。
     とくとくと、不安にかられたように、早まる心臓の音は、昼夜問わず続いていたが、今日は特にひどい。
     まったく、忌々しいことに、この餓鬼の精神世界の寝心地だけは悪くないというのに。闇に溶かしていた意識をゆっくりと揺すり起こした。
    「おい、うるさいぞ」
     ぞろりと肩から頭をもたげると、イチは視線だけをこちらに向けた。
     見れば、魔女特有のとんがり帽子を頭に乗せ、肩には毛皮と重厚なマントを纏い、舞台の裾野に立っていた。まるで、羽化したばかりの蝶だ。濡れた羽を重たげに引きずる。
    「はっ! 随分と飾られたものだな、いい見世物だ」
     イチは威嚇するように口を歪めると、ウロロめがけて手を振り下ろした。するりと潜り、反対側へと頭を出す。
    「おとなしくしていろ」
     イチは唸るように言うと、息を吸い、背筋を伸ばした。それでも、心臓の鼓動が落ち着くことはない。
     子供だな。ウロロから見れば、ようやく目の開いたばかりの赤子に過ぎない存在。人の目から見ても、そう変わらないだろうに。
     だから言ったのだ。生贄にされる、と。
     いつもの取り巻きたちはどうしたものか。
     緞帳の向こうでは魔女たちの気配がひしめいていた。渦巻く熱気は不快の一言だ。きいきい、ぎゃあぎゃあと騒がしい。
    「何を恐れる」
    「恐れてなんか、」
     未発達の喉が上下し、言葉を飲み込むのが見て取れた。
    「いや、恐ろしいのかもな……」
     内臓へと滑り込む好奇の眼差しを思い返したか、イチは自分の腹を押さえ、豪奢な服を握りしめる。
    「こういうのは好きじゃない。苦手だ」
     一度、認めてしまうと、楽になったのか、はっきりとイチは言った。声に力が戻る。
    「なら、さっさと自由になればいい。俺様を取得した魔男様なら簡単だろう」
    「……ここにいる魔女たちを殺す気か?」
    「あ? んな面倒なことするか。さっさと出ていくんだよ」
     両腕を広げると、するすると暗がりが色を変える。重なり合う羽が音もなく揺れ、天井近くまで広がるのを、イチは瞬きもせず見つめていた。
    「飛べるのか?」
    「試すか?」
    「いや……それは最後の手段だな。勝手に出ていくと、デスカラスに怒られる」
    「そうかよ。じゃあ、好きにしな」
     目を閉じるように、意識を沈める。沈み切る前に、とん、と追うように指先が触れた。馴れ馴れしい奴だ。内から心臓を蹴飛ばしてやろうか。
     誰かが呼ぶ声が遠くからした。
     緩やかに息を吐き、一歩踏み出す。その足裏が高らかに鳴る前に、意識の底へと帰っていった。
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