首例えばここに、“首”が一つあるとしよう。
首。
例えばここに、“首”が一つあるとしよう。
柔い髪は金のたてがみ。
目蓋の奥には、濃い琥珀。
それはそれは、美しい雄の獣である。
けれど、今は目蓋は堅く閉じられていて開かれる事がない。
なぜなら、獣は首だけだからだ。
しなやかで強靭だった肢体はもう、首の荷重を支える事はない。
たった一つで転がる首は、首だけであるのに、残虐なまでに美しい。それはまるで完成された一つの芸術品のように。
かつて怒りと言う暴力で孤独を背負った獣が、再び怒りを剥き出しにする事はもう、ない。
獣自身が望んだ静けさを讃え、言葉を語る事もなく、握った拳を振るう事もなく、ただひっそりと朽ちる事を待っている。
1953