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    えりしー

    @uchualien

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    えりしー

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    「親の心、子知らず①」
    ユーステスの過去の話で、ローナン視点。
    STAY MOONやフェイトエピソードを参考にしたものの捏造多め。

    #ユーステス
    eustace.
    #ローナン
    ronan.

    親の心、子知らず ① とある医療施設の廊下を、ひとりの男が歩いていた。
    40代半ばのエルーン族。髪を丁寧に撫でつけ、隙のない軍服にマントを羽織っており、歳の割に背筋がピンと伸びている。その引き締まった身なりとは裏腹に、左腕には黄色いガーベラの花が何輪も生けられた籠を抱えていた。そんな彼の足取りは重く、面持ちはどこか緊張していた。
    男はある一室のドアの前に立ち止まり、ひと呼吸置いてから窺うように数回ノックする。
    「ローナンだ。お前に話があって来た。入るぞ」
    返事はなかったが、男---ローナンはドアノブを回し、部屋に足を踏み入れた。
    そこは病室で、閉め切られたカーテンの隙間から昼間の強い光が漏れていたが、部屋の中は薄暗い。中央に佇むベッドの上に上体を起こした少年の姿があった。
    10歳のエルーン族。雪のような銀髪に黒くて大きな獣の耳、右眼は前髪で覆われている。浅黒い肌は血色が悪く、身体は酷くやせ細っていた。ぶかぶかの病院服から伸びる、今にも折れそうなほど細い腕からは点滴に繋がれた管が伸びている。生気が感じられず淀んだ左目は赤く充血し、頬には涙を伝った跡があった。
    ひとしきり啜り泣いた後であることが伺える。
    少年の名はユーステス。とある組織の一員であるローナンが、ある雪深い島へ兵を引き連れて調査に向かい、その先で保護した少年だ。彼の住んでいた集落が何者かの大きな力に巻き込まれ、全てが灰になったのだ。恐らく、ローナンの所属する組織の追っている「敵」の仕業である可能性が高い。
    家族を、友人を、故郷を奪われ一人残された少年は今、恐怖と絶望の中にいた。保護されたのち組織の治療施設に預けられ、手足の凍傷は完治しているものの、右目には後遺症が残り、心の傷は未だ癒えないまま。食事にもほとんど手をつけず、無理矢理口に含んでも吐き戻してしまう。これでは身体が衰弱する一方だ。
    ローナンは少年の痛々しい姿を前に思わず目を背けたくなる気持ちを押し殺しながらベッドに歩み寄った。
    「これは見舞いの品だ。ここに飾っておくぞ。」
    ローナンは左腕に抱えていた花籠を窓際のエンドテーブルに置くと、ベッド脇に用意されていた硬いスツールに腰掛けた。
    ユーステスは俯いたままで、ローナンの言葉や行動になんの反応も示さない。
    「お前の退院日が決まったそうだ。2週間後だ」
    彼の肩が僅かに震える。
    「怪我はほとんど完治している。あとはメンタル、栄養面の問題だな…。とにかく、おめでとう」
    「………話は……それだけか」
    少年はやっと口を開いたが、その声は掠れて震えていた。怒っているようであり、怯えているようでもあった。
    「それだけを伝えに来たのではない。もっと大事な話がある。……お前の今後についてだ」
    「みんな……死んじゃって…村も、家も、もうないのに…どうしろって言うんだよ」
    全てを奪われ、先の見えない絶望の中で外の世界に放り出されるのが怖いのだろう。無理もない。
    「いきなり自分の力だけで生きろと言っている訳ではない。私から提案できる道は"3つ"ある。ある程度の支援もできる。お前の望む道を選ぶといい。」
    「ひとつは孤児院に入るという選択。寝る場所も食べ物も与えられるし新しい家族もいる。大人になれば好きな道に進み、また普通の暮らしができる。」
    『普通の暮らし』という言葉に反応してか、ユーステスは唇を噛み、シーツを固く握り締めた。なにか反論がありそうだったが彼は押し黙ったまま次の言葉を待った。
    「ふたつ目は…我々の組織に入るという選択だ」
    ローナンは僅かに言葉を詰まらせながらそう告げた。
    「……組織?」
    「星晶獣狩りや各地で争いの火種を撒く"敵"と呼ばれる存在との戦いを主とする組織だ。私はそこの幹部だ。お前の仇もその"敵"の一味である可能性が高い。つまりだ…」
    「その組織に入れば…仇を討てるのか!?」
    ユーステスは食い気味にローナンの言葉を遮り、顔を上げた。ここに来て以来塞ぎ込み啜り泣いてばかりだった彼のこんなに力の篭った声を聴くのは初めてだ。
    「俺から全てを奪った奴を…!みんなをあんな目に遭わせた奴を…!!倒せるのか!?」
    ユーステスは血走った目から堰を切ったように涙を溢れさせ、身を乗り出しローナンの服の裾を掴みながら叫んだ。身体を揺さぶられながらも、ローナンはあくまで冷静な態度を崩さず問に答える。
    「…お前の努力次第だな」
    「星晶獣にも負けないくらい…強くなれるのか…!?」
    「お前が望むのなら、その手助けはしてやるつもりだ」
    「なら、道はひとつだ…!」
    ユーステスはローナンの服から手を離し、右目を覆う髪を握り締めながら言葉を紡ぐ。
    「俺は……俺から全てを奪った敵を絶対に許さない。こんなことをされておいて普通の生活なんて、できるわけがない」
    「相応の覚悟が必要だ。それでもいいのか?」
    「なんだっていい……やってやる……」
    真っ直ぐにローナンを見据える少年の瞳に、初めて色が宿ったような気がした。
    その青灰色に燃える決意の前に、ローナンは『3つめ目の選択肢』を告げられずにいた。
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