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    『この世の果てでもどうかよろしく』の世界線のオリジナルBL
    葉二と朝日が脇役で出ます/つづきます

    見える人×ゼロ感の幼馴染BL二岡文也(ふみや)…「お仏壇のナガタニ」で働いている。ゼロ感。あんまり考えていない。八尋とは小1からの付き合い
    泊八尋(やひろ)…「あだたら石材」で墓を売っている。見える人。考えてばかりいる。小1の頃から文也くんが大好き

    その他:
    荻原…新宿にある葬儀屋の社員。愛想がいい。
    寺島…世田谷にある寺のお坊さん。顔がいい。

    -----------------------------------------------------


    どうせ取引先の人と焼肉行くならせめてトラジとかにすればいいのに。
    と、幼馴染の八尋がため息をつくのを聞き流しながら文也が予約した店は「焼肉きんぐ」である。食べ放題のコースが大層安い。
    「今日出て来る寸前まで『マジできんぐにすんの?』って!俺と荻原君のこともろくに知らんくせに良く言うぜ」
    まだ完全に序盤の肉もそこそこに食べ放題のシューアイスをかじりながら、文也は大げさに肩を竦めて言った。
    「はは」
    短く笑った荻原君は、文也が面倒臭がって放置していた壺漬け一本ハラミを小さくカットしてくれていた。
    「だってさあ、荻原くんちって京王線沿いでしょ。だったら新宿から殺人満員電車で帰るよりのんびり仙川から帰った方がいいじゃん!」
    それはお前の場合だろ、と脳内で八尋の声がするのを、文也は片手でぶんぶんと追い払った。
    「え、虫いました?」
    「ううん、何でもない」
    挙動のおかしい取引先の男を、荻原君は邪気のない表情で見つめて、ぱちぱちと子供みたいなまばたきをした。猫っぽい目に可愛げがある。
    「や、でもそうですね。俺はどっちかというと高い店だと緊張しちゃう方なんで、こういうとこの方が」
    「だろ~~?模範解答!荻原君はいい子!えら~い!かわいいっ」
    「二岡さんもう酔っ払ってんですか?」
    「ちがわい!」
    チャラそうな見た目に反して意外と受け答えにソツがない荻原君は、お仏壇のナガタニからすると大口の取引先にあたる青都典禮の社員である。本当はもっと丁重に接するべきなのだが、何せノリが良くて付き合いもいいので、二度目の接待ぐらいからこんな感じになってしまっている。
    プライベートの飲みなんだからいいじゃん、ということにしている。
    「それで、こないだの話なんですけど」
    いつの間にか網の上に肉を敷き詰め終わっていた荻原君は、休憩みたいにビールを一口だけ飲んで、本題を切り出した。
    「やっぱ、除霊とかはできないって」
    「わーーー、ホラやっぱりぃ」
    両手で顔を押さえてワッと声を上げた文也は、続いて背を丸めて突っ伏した。
    「力になれず…」
    すいませんと困り汗を垂らして目を逸らす荻原君に、文也は縋る様な目を向ける。
    「坊さんでも除霊とかできる人とできない人がいるってこと?」
    除霊――という、現実離れしたワードが今日この席のメインテーマである。
    とはいえ、登場人物が葬儀屋と仏壇屋と石材屋とお坊さんなのだからそう日常とかけ離れた話題でもない。
    「いや、なんか『そういう教義じゃないから』って…。あと朝日――明善寺さん、幽霊信じてないって言ってて」
    「うわ、言いそう!わかる。あの坊さん、なんかさあ、こう首の後ろのとこに手置いてさ、『あー、俺幽霊信じてないから…』って、かったるそうに……」
    イケメン特有の首痛めポーズでため息交じりに突き放す物言いが脳裏に浮かんで、文也はイッと歯を剥いた。明善寺の住職代理はいけすかないイケメン坊主で有名だ。何度か頼まれて短納期の仏具を納品したことがある。
    文也の物真似に、葬儀屋は俯いて噴き出した。
    「ぶ!似てる…」
    「あの坊さんマジ腹立つよな」
    「え、そんなことないですよ。かわいいですよ」
    荻原君が間髪入れず真顔で言い返してきたので、文也はおののいて口を噤んだ。
    「あ、そ、そう…?」
    「まあ、浄土真宗の教義上、幽霊が存在しちゃうと都合悪いからしょうがないとこもあると思うんですけど」
    「死んだら阿弥陀如来が秒で迎えにきて成仏するんだよな。魂が現世に残らない。だから位牌作らない。勘弁してほしいぜ、みんな位牌買ってくれや」
    「秒…」
    文也の言い草に苦笑いした荻原君は、「まあ、でも」と目線を泳がせながら続けた。
    「この仕事してると、どうしても説明つかないことに結構遭遇するんで…。『見える人』の言うこと、俺は否定しないようにしてます」
    「あーね」
    眉をひそめたまま、お茶みたいに両手でジョッキを持って、文也はハイボールを啜った。
    『見える人』、という荻原君の口にした単語は、率直に、文也の幼馴染の八尋のことを指している。
    単刀直入に言えば、ゼロ感のしがない仏具屋である文也の職場に、なんだかやばい物がいるらしい。小さい頃から見えるだけ見えて、特に何の干渉もできないらしい八尋が「どうにかしろ」と言ってきた。
    仕事上の仲のいい知り合いがお坊さんと近しいので、除霊はできないかと頼んでみた。今日はプライベートの飲みがてらその返答を聞く食事だったのだ。
    それにしても、「否定しないようにしてます」はうまい言葉選びだと思った。
    さすが荻原君。
    「ソツがないよぉ~……」
    仲良しのお坊さんにも、見える人と仲良しの文也にも角が立たなくて、この状況では若干文也寄りの立場まで表明してくれる。
    「な、何が?」
    「いや、こっちの話ヨ」
    すごいねえ、君みたいな人が出世するんだろうねえ、と他人事のように思いながら、文也は両手でぶりっこみたいな頬杖を突いた。
    「はーあ、どうしようかなあ」
    「霊能者でも探すんですか」
    「仏具屋が霊能者に頼るってなんか本末転倒感ない?」
    「確かに…」
    「言うて、俺自身は別にいいんだよ。知っての通りゼロ感だもの。多少変な音がしたって何らかのシルエットが見えたって、気のせいで済ませられる。そんなのより俺は、予算未達の月の上司となぜか重なるクレームの方が断然、死ぬほど怖いね」
    そう、自分自身のことは別にいいのだ。
    目に見えないものなんてどうでもいい。多少見えたって、気に留めなければ無いのと同じ。
    でも、親友からの追及は、どうでもよくはなかった。

    泊(とまり)、という珍しい苗字の幼馴染は、小学1年生のときにマンションの同じ階に引っ越してきた。
    文也と同い年の八尋は、その家族の一番下の息子だった。
    「フミくん。よかったらヒロちゃんと遊んであげてね。福岡から来たばっかりでまだなんにも分からないから、色々教えてあげてくれる?」
    色白でふっくらした八尋のお母さんにクッキーを渡しながらそう言われて、なんだかほわほわ力の抜けるような気持ちで頷いた。肝心のヒロちゃんとやらはどこだ、ときょろきょろしたら、廊下の奥に積まれた段ボールの影から、こっちをじっとりとした眼差しで盗み見ていた。
    「え、あいつ!?あの呪われたコケシみたいなの!?」
    と、思わず指を指して叫んだ。口が達者で頭の足らない子供だった。
    コラ!と、背後にいた自分の父親にチョップされて、その後のことはよく覚えていない。
    気付いたら毎日一緒に学校に行き帰りし、学校も同じクラスになって、サッカーとそろばんに一緒に通った。
    ヒロちゃんは、めっぽう口数の少ない子供で、動きもなんだか鈍かった。学校の友達も文也の他にはろくにいなくて、ずっと文也にべったりだったので先生が心配した。
    べったり、というのは語弊がある。ヒロちゃんは放っておけばずっと一人で机の木目を眺めていた。自分からは全然喋らなくて、授業の音読で指名されると声が出なくてその場に立ち尽くしていることもあった。どんくさい奴だった。
    でもやればなんでもできるのだ。文也はバカだったので宿題がろくすっぽ分からないこともあったが、ヒロちゃんが教えてくれた。給食の配膳係で、文也がやると絶対に終盤で足りなくなってみんなから顰蹙を買ったが、ヒロちゃんがやると寸胴の中身が最後の一人できっちりなくなった。縄跳びも得意で、鉄棒もできた。習字もうまくて、絵もうまかった。
    実にヒロちゃんには、出来ないことがなかった。
    でもそのヒロちゃんは、どういうわけか文也に「行こうぜ!」と手を引っ張られるまで自分の席から立ち上がることができないのだった。文也じゃないとダメだった。先生でも他の同級生でもなくて、いつもヒロちゃんは文也の手だけを待っていた。
    それは、いつの間にか文也がヒロちゃんを「ヒロ」、八尋がフミくんを「フミ」と、すこし少年らしいあだ名で呼ぶようになるまで続く。

    おれ、幽霊見えるんだ。
    と、暗い顔で八尋が打ち明けてきたのもその頃だったように思う。
    学校はいっぱい幽霊がいるから、あんまり楽しくない、と。
    でもフミがいるから行きたい。フミがいるところは明るいから。フミがいるところがいい、と。
    学校で八尋が机から顔を上げたがらなかったのは怖いものが視界にたくさん見えていたからだった。
    そんなことを初めて知って、文也は何と答えたか。
    「いや、いねーって、幽霊なんて!俺見たことねーもん!」
    なるほど、気遣いも思いやりも足りない子供だったのだ。MBG。マジでバカなガキだった。
    だというのに、その文也の言いぐさに、八尋は気を悪くするどころか、呆気に取られて目を丸くしたあと、なぜだか心底嬉しそうに笑った。
    「フミが言うなら、いないのかもしんない」
    あんな明るく笑う八尋の顔は初めてだった。
    それ以来八尋は、それまでより少し明るくなって、モテた。一緒に進んだ高校の頃はモテの絶頂期だった。
    もとより何でもできる奴だったのだ。オーソドックスな黒髪短髪なのになんとなく清潔感があって、ガツガツしてなくて、優しくて実直で、でも誰とも少しずつ距離を置いている。そういう埋まらない隙間、じれったさみたいなものが女心をじりじりさせるらしかった。
    相変わらず文也とばかり居たがったが、中学時代までと違うのは、文也の色んなことに口を出すようになったことだった。
    少し、感じ悪くもなった。文也がいいと言った女の子のことは絶対に何か悪く言った。課題をサボれば小言を言って、先輩にもらった煙草を見よう見まねにふかしていたら、奪い取られて捨てられた。
    それからずっと、こんな感じ。
    変わったのは、お互いの呼び名が「八尋」と「文也」という正式名称になったことくらい。

    何から何まで、八尋のことはよく分からないままなのだが、とにもかくにも二十代も半ばを迎えるこの歳までずっと親友だ。
    親友か?親友というほどの信頼関係で結ばれているか?微妙な気がする。腐れ縁?本当はなんと呼ぶべきかは分からないが、おれの親友、と人に紹介したとき、まだヒロちゃんだった頃の八尋が花が綻ぶように笑ったので、なんとなくそう言っていた。

    「……可愛い時代もありましたなあ」
    葬祭業界の愚痴を散々共有して酔っ払ったあと、荻原君と駅の近くまで一緒に歩いて、コンビニで解散した。甘い物を買って帰るという。そういえばいつもチョコとか持ってるなと思った。
    ここから西荻窪のアパートまで帰るのかったるいなあ、と思いながら星のまばらな夜空を見上げる。よもや寺の坊さんでも除霊は承っていないとは。よもやよもやだ。
    明善寺も気休めのお経なら読んでくれると思うけど、という、荻原君のおずおずとした申し出は、一旦断った。というか一応本物の坊さんに対して気休めとか言うな。
    これから、電車を乗り換えて、とりあえずアパートまで帰らなくちゃ。最近疲れやすくなった。
    マフラーを巻きなおして、コートのポケットの中のスマートフォンの所在を確かめる。反対側のポケットに、部屋の鍵。八尋と一緒に住んでいる、JR西荻窪駅から徒歩10分のアパート。
    スマートフォンを家に忘れたとき、八尋がわざわざ職場に届けてくれた。その日以来八尋は、あの職場はやばい、異動できないなら何とかしろと毎日のように言ってくる。今のところ何もないから、とその場しのぎの返答を繰り返しているうちに、この前八尋が激怒した。
    「どうにもできないなら、その会社辞めろ。明日辞めろ」
    さすがの文也も、幼馴染の親友に壁ドンされる日がくるとは思わないから。
    ようやくそれで真面目にとり合う気になって、荻原君に連絡した。それからなんやかんやあって、今日に至る。
    怒るかなあ、と、思うと、足取りが重くなった。
    やだな、と思った。なんであんなに怒るんだろ。たかが幽霊ぞ。我、人間ぞ。絶対の絶対に、生きてる人間の方が強いだろ。
    でも、ゼロ感の自分が『見える人』の八尋の目に映る世界を知らないまま、勝手に白黒を申していいと思うほどには、文也だってもう子供ではなかった。
    大人になった今でも、頭がやや足りないことは否めないけれど。

    八尋はそうじゃない。
    八尋は頭が良かった。
    八尋は運動が得意だった。
    八尋は手先が器用だった。
    八尋はとても人に好かれた。
    八尋の人生にはどんな選択肢だってあった。
    就職先だってやりたいことに合わせて自由に選べたはずだったのに。
    文也は就職先どうすんの、と聞かれたとき、八尋の手元のパンフレットを指さして、「俺仏壇屋にするわ」と言った。理由は、暇そうだったからである。その日、合同説明会で見た中でいちばん楽そうだった。
    別に給料は高くなくていい。やりたいこともないし。年寄りの身の上話聞いて相槌売ってりゃいいんしょ、いいじゃないと思った。結果としては、ラクな仕事なんてこの世にないことを今身を以て学んでいるわけだが。
    「じゃあ俺も」と八尋が言い掛けた瞬間、気付いたら文也は八尋の口を手のひらで塞いでいた。
    とっさに、「やめろ」と口走っていた。
    単純に、恐怖したのである。どうして。進学先を「フミと同じとこ」にしたことまでは、まあ「俺のこと好きすぎでしょ」と笑えた。でも、「どうでもいいから仏壇屋にするわ」程度のノリで適当に口にした文也の回答に、なんの疑問もためらいもなく己の人生を載せようとする八尋に怖気付いたのだ。
    「やめろ、それはさすがに重い」
    重い、と口にした瞬間、変な汗を掻いて、変にドキドキしていた。
    これを言ってしまったら八尋はどうなってしまうのだろう、と心の片隅で思っていた。そんなことを考えている自分に驚いた。そうして自分が、自分でも知らなかった八尋に対するタブーを、結構たくさん持っているということに気が付いた。
    八尋はしばらく口を塞がれたまま、表情のないまばたきを何度かして、それから文也の手を上から握って外した。
    「わかった。ごめん」
    そして、どうせなら海外とかに行ってほしいみたいな親や教授からの期待をことごとく無碍にして、八尋は墓石を売る会社に就職してしまった。その会社を選んだ理由を聞いても、教えてくれなかった。
    だからそのことはもうお互いに触れない。新たなタブーの一つみたいになってしまった。

    踏切に遮断機が下りてくる。
    冬の夜風を巻き上げて、全部の窓に明かりを灯した電車がゆっくりとカーブを描いて目の前を滑っていく。
    「俺はねー、……」
    マフラーに口元を埋めたまま、そこまで呟いて、思った。
    俺はねえ、今、八尋のことを知りたいと思っている。
    7歳からずっと一緒にいて、初めて。
    もしかしたら八尋のこと何も知らんのかも知れないと思って、少々怖気付いている。

    駅の前に、人影があった。
    こっちに小さく手を振っている。
    「文也」
    一瞬、息を呑む。なんでいんの、と笑って言う勇気がなかった。
    怖いよお前と思えばいいのか、俺を好きすぎと喜べばいいのか、何が正解なのかわからなくて。
    「おかえり。帰ろ、文也」
    顔冷たくなってる。
    そう言って、あまりにも自然な仕草で頬っぺたを撫でられた。その瞬間に、会ったら何を言おうと思っていたのかも頭から吹き飛んでしまった。




    つづく
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