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    cameidea

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    ちゃんと支部に格納しようとおもったのですが落書きレベルを脱しなかったのでここで供養。ぜんねず前提あり、余生のお話。

    墓参 解散したとはいえ、月に一度は顔を出す決まりだ。

     かつて蝶屋敷と呼ばれていた屋敷は今はカナヲが継いだ。身体の具合を診てもらうため、今日もまた俺は脚を擦りながら出かける。

     最近は取り立てて良くなるわけでも悪くなるわけでもない。だから、正直なところ蝶屋敷での診察が面倒だって思うこともある。住まわせてもらってる炭治郎の家は山の上、降りるのだってまた登るのだって一苦労だ。
     いっそ炭治郎の家を出て昔暮らした街に住めば、とも思うけれど、あの街にはあまりいい思い出がない。じいちゃんに拾われるまでは人に騙され、虐げられて生きてきたし。
     しかも、俺は禰豆子ちゃんに夫婦になってほしいと伝えたところだ。そんな人々の住む処に禰豆子ちゃんを連れて行くわけにはいかない。

     禰豆子ちゃんは返事を考えてくれているんだろうかと俺は毎日のように不安になる。
     直ぐに禰豆子ちゃんが決めてくれなかった理由はいくつか考えつくけれど、そのうちひとつが元風柱のことだ。ちゃんと証拠もある。蝶屋敷の廊下で見た、禰豆子ちゃんを優しく撫でるあの男の手。そしてそれに心の揺れる音を出した禰豆子ちゃん。あの光景は、俺の嫉妬心を極限にまで押し上げた。

     しかもあのおっさんは今でも時々、俺達がいない隙におはぎや抹茶を置いていく。禰豆子ちゃんの気を引こうとしているなんてことは思いたくはない。あくまで炭治郎が手紙を書いたことへの礼なんだと思いたい。嬉しそうに包を開けて眺める禰豆子ちゃんを見ているとどうも複雑な気分になるんだ。
     もしあのおっさんが禰豆子ちゃんを望んでるってことなら、俺は身を引くか、果たし合いでも申し込むしかないだろう。なんにせよ勝てるわけがない…

     考えこんで頭が痛くなってきた頃に、蝶屋敷の塀が見えてきた。ちょうど戸口からは誰かが出てくるのが見える。
     俺の脚がすくんだ。よりによって、こちらに向き直ったのが、ツンツンとした白い髪の、あのおっさんだったからだ。
     
     相手は俺とでは格が違う。あっちは鬼殺隊の柱で、上弦の壱と無惨を倒した功労者。あれだけの傷と毒を浴びて意識不明になりながらも息を吹き返したのはさすがだ。
     でも、禰豆子ちゃんの心を奪おうとする奴は、たとえ元柱であっても許せない。禰豆子ちゃんを誘惑するなって伝えないとと俺は思い立った。萎縮してしまった自分を奮い立たせ、俺は不死川さんの前に立つ。

    「は、はなしがありますっ!」
     おっさんは怪訝そうな顔をしたけれど、その目はあの頃とは違う。鬼狩りをしていた頃のような吊り上がった目つきは、もう見ることもない。
     と言っても、禰豆子ちゃんの心をとらえたのは微笑みだった。俺はそのまま突き進む。
    「あの時、禰豆子ちゃんの髪を撫でましたよね」
     ん?とおっさんは考えこむようにして片眉を上げた。
    「いつの事だァ?」
    「蝶屋敷の療養を終える、少し前に!」
     おっさんはまたちょっと考えて、ようやくその場面を思いだしたように口元に笑みを浮かべる。
    「ああ。あれなァ」
    「笑い事じゃない!年頃の女子の髪を撫でるだなんて。誤解するだろ!」
     俺の拗ねた顔が面白かったのか、おっさんはさらに口角を上げた。
    「そりゃ悪かったなァ。竈門の妹が面白くてよ」
    「面白い?なにが?」
    「だってよォ、鬼なのに寝てばかりだって」

     ハァ?と俺は呆れた。面白いなんて、少なくとも、昔のおっさんなら絶対に言わなかったはずだ。おっさんは柱合会議で禰豆子ちゃんは鬼だからと箱ごと刺したほどなのだから。
     俺はやっぱり、おっさんが人に戻った禰豆子ちゃんに懸想しているんじゃないかと疑った。心のうちに怒りと悲しみがこみあげる。
     そんなのは方便だ、禰豆子ちゃんに気があるからだろ、と俺は言い返そうとした。

     けれど、続くおっさんの言葉は俺の予想とはまるで違った。
    「アイツもおんなじことを言ってたからなァ」
     おっさんは穏やかに言い、顔では笑っていた。けれど、俺には人の心を音で読む力がある。裏に潜むものすごい音を知って、俺は追及を止めた。

     俺達と一緒に最終選別に残ったなかに、おっさんの弟、玄弥がいた。俺は兄弟の仲が複雑だってことは分かってた。それは玄弥が話してくれたから。兄が自分を守ってくれたこと、でも人殺しと言ってしまったこと、それを謝れずに過ごしていること…。対面できる貴重な機会だったはずの柱稽古では逆に大喧嘩になり、俺にはどうすることもできなかった。
     そして、玄弥はもうこの世にはいなくなってしまった。亡くなった後、おっさんは立派な墓を建てた。おっさんが玄弥をどれだけ大事に思っていたかを、俺達は思い知らされた。

    「じゃあ、またなァ」
     と去っていく背中からはまだ慟哭の音が止まない。
     おっさん、禰豆子ちゃんのあの笑顔の向こうに玄弥を見ていたのか…
     禰豆子ちゃんの頭を撫でながら、還らぬ弟を想っていたのか…
     その後、蝶屋敷での診察でも気は漫ろだった。特に身体の具合は変わらないと伝えたところで、俺はカナヲに前のめりになって訊ねる。
    「俺の前に診察を受けたのは不死川さんだよね?」
     元気だった?と聞いたら、カナヲは不思議そうな顔をして、善逸がそんなことを聞くのはなんだかおかしいねと笑う。けれど、正直に禰豆子ちゃんとおっさんとの一件を話すと、「そうだね」とカナヲは話し始めた。
    「不死川さんの身体の具合はあまりいいわけじゃないの。やはり痣による影響は出てきているから。けれど、まだまだ元気。禰豆子ちゃんのことは話には出ないな。玄弥のところには毎日通ってるんだって楽しそうに言ってたけど」
     そっか、毎日か。
     俺も玄弥に無性に会いたくなった。終わった足で、俺も玄弥のもとに向かう。

     あれだけの大喧嘩をしたのに、玄弥はおっさんのことを一切悪く言わなかった。兄弟子とは俺は折り合いが悪かったし、あんなに兄を慕うことができるなんてと驚いたものだ。かつてはその弟に向き合おうともしなかった兄が、今は毎日通っているという。

     玄弥の墓の周囲は綺麗に手入れがされていた。まだ消えきっていない線香から、ゆらゆらと細く煙が上がる。けれど、先客の姿はない。
     やっぱり、おっさんも来てたんなと俺は墓に話しかける。そして、喜んでいる玄弥を俺は想像した。
    『善逸、聞いてくれよ。あの兄ちゃんが今は毎日会いに来てくれるんだよ』って、きっと玄弥は笑うんだ。きっとおっさんと同じ顔をして。

     おっさんが禰豆子ちゃんに想いを寄せているなんて勘違いをしていたことが、俺はものすごく恥ずかしくなった。あのおっさんの心にいるのは玄弥に決まっていた。だから、ようやく兄弟で思いあえる日々を迎えられて、よかったとは思う。
     でも、やっぱり俺は口に出さないと気が済まないことがあった。この場で言うには相応しくないし、玄弥に言っても仕方のないことだとは分かっているんだけど。
    「俺は、玄弥が生きているうちに仲直りしてほしかったけどな」
     口に出してしまった途端に、俺のなかで玄弥が泣き出した気がして、俺も一緒にビービー泣いた。静かな墓苑で一人、いや、正確にはもう一人泣いている音が聞こえていたけれど、俺はその人のことをもう責めないと決めた。責めても、きっと玄弥が悲しむだけだから。



     診察と墓参りに出掛けてから数日後、山に届け物があった。それは大きな鰻の重。
    「店に白髪の旦那が現れて、ここまで運んでくれって頼まれたもんで」と汗だくでここまで上がってきた使いは言った。お代はその旦那持ちだという。
     不死川さんかな、わざわざ鰻を届けてくれるなんてどうしたんだろう、と炭治郎は首をかしげていたけれど、その意味はなんとなく俺には分かった。これはあのおっさんなりの、墓参の礼だって。

     有り難く俺達は鰻をいただく。禰豆子ちゃんがこんなに鰻を食べたことがないと言って目を輝かせたから、俺はまたほのかに嫉妬しそうになる。でも、それが筋違いだってことも俺はわかっていた。
     おっさんはきっと今日も線香を供えに玄弥のもとへ行っている。暑い日も、きっとこれから冬になっても。
     だってあの人は玄弥のことが変わらず大好きなんだから。
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