カフェ・モンタージュ0.イントロダクション
「いらっしゃいませ!」
元気な声が、柔らかな朝の光が差し込む店内に響く。隅々まで綺麗に掃除され、パンの焼ける香りとコーヒーの香り漂うそこは、間違いなく気持ちの良い朝を迎えられるだろう。
「………うーん!今日も俺ひとり!さびしーね!」
──とんでもない急勾配の上にさえなければ、の話である。
少年は今日も、誰も居ない店内に元気よく挨拶をし、自分のために作ったチーズトーストを皿に乗せ、自分のために淹れたコーヒーをカップに注いで朝ご飯を食べる。
勾配15度。この静かで特に目立ったものがないベッドタウンの数少ない名物である「心臓破りの坂」。その長い長い坂道と階段の頂上──山ではないのだが『頂上』と呼ばれて久しい──に、その喫茶店はある。
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