さんぽすすんで(仮題)久しぶりに、呪術師と呪詛師としてきちんと呪いあいをしている。
当たり前だがそういう事もある、というかふたりの関係としてはそれがメインだ。なんと、偶然にも今回は久しぶりになってしまったが、呪術師と呪詛師という間柄なら当たり前のことだ。
いつもいつも、呪詛師の手のひらの上ですっ転ばされ人に見せられないような事ばかりされているわけではない。断じて。そうに決まってる。
「いやしかし虎杖君、いい動きをするようになったね。私じゃあなかったらもう片付いてるだろう」
「アンタを片付けらんなきゃどーしょうもないんだけどなあ…」
距離を置いて軽くステップ。構えたまま軽口をキャッチボール。
「自分で言うのも何だが私、この世で唯一の特級呪詛師なるものをやらせて貰ってるんだがね。その私を倒そうとして君、毎回人様にお見せできないような、私に取っては面白いことになってんだろ?
もう少し地道にコツコツステータスを伸ばしていくことをお勧めするよ。方向性も伸び筋も良いんだから、さ…っ!」
「いやー俺も一応それなりにやってんだけどなっ!」
虎杖よりひと回り大きい、その身体を遺憾無く活かした掴みかかり。
その大きさには比例せず、それは想像より速度があり、虎杖はなんとか上に飛ぶことで回避をして。
「ほら、こうして大きいのに気を取られる。着地点をよく見な?私が優しくて良かったねえ」
「…へ?」
見ればピンと張られた蛇のような呪霊。そんな文字通り身体を張った使い倒し方されてカワイソー、玉の色とおんなじでマジブラックじゃんね呪霊操術、と走馬灯のように文句だけは頭に流れていき。
虎杖はズデン!とすっ転んだ。
◇◇ ◇◇
額に親指でトン、トン、と叩くと眉間の山がなだらかになる気がする。頭痛も和らぐ効能も感じられ一石二鳥だ。それら全て、己の思い込みだという点を除けば。
夏油はそんなよしなしごとを頭から追いやりながらため息をつきつつ、
「…虎杖君さ、足元疎かにして転ぶにしても、もう少しマシな転び方があるだろ。体術誰に習ってんの?今の高専、まさか体術で敵に向かって大開脚して尻餅つけとか教えてんのか?腰をやるし私の目の保養になって隙が生まれるだろ…ハア、全くこれだから。高専含め呪術界とやらも世も末だな…」
「世も末なのはアンタの頭だよっ!縛んなら他にもあんだろ!なんでそーこんな風にする訳?!おかしーでしょ!!」
呪霊を用いてM字大開脚でしっかり束縛された少年はギャンと吠える。
「なんで?なんでと来たか虎杖君、その綺麗な華色ツンツン頭には2メガバイトしか記憶容量が搭載されてないのかい?プレステのメモカかよ。この私がわざわざ手間暇かけてそんな阿呆みたいなカタチの束縛してんのなんて、──『二度とこんな目に合わないようにしよう』と君に危機感を刻んでやってる…という建前で、私の性癖を満足させてるに決まってんだろ?いい加減学べよ…」
「学びたくねーんだわ最っっっ低!!単に変態の呪詛師じゃねえかよ!!」
はァ…と首を振り残念そうにため息をつく呪詛師に怒り心頭のM字開脚緊縛少年呪術師。
「そんな変態呪詛師だって知ってんのに君、どうしてこうスキを見せるかね?というか誰かとチーム組んで来るとかもう少し頭使えよ、バカ?」
「クッソ腹立つな!つーか頭ん中がそんなんな呪詛師のスケベ術に他の奴ら巻き込んだらダメだろ…!」
夏油のこめかみにうっすら、筋が走った。
「スケベ術だ…?虎杖、君。君まさか、私の呪霊操術をそういう風に捉えてるのかい?大変心外だね」
「やアンタ実際そういう使い方しかしてねえじゃん。こーいうふうに縛ったりその、…っす、凄いことしたり」
「ふうん、『凄いこと』ねえ」
薄かった筋がくっきりと浮かんでくる。
なんだ一体。変態と言うのは怒らないのになんでスケベ術は怒るんだよ。どっちも事実だろ、俺悪くねえし。
「つまりアレかい。虎杖君にとって、この特級呪詛師夏油傑はなにかと口実つけて猿のように君を追い回していると、そう言いたいのかい」
「いやそんなことは言」
「はあ…」
大仰にため息をつき、あからさまにわざとらしく落胆を表すように肩を竦め首を左右に振り。
「残念だ…全く、残念でならないね虎杖君…!私の気持ちが、ここまで君に通じていなかったなんて…」
「毎度毎度あんなんで通じてると思ってたアンタの頭もソートーめでたない…」
「黙れなんでもスケベに結びつける思春期男子め、どうせ私の呪霊も全部エッチな本に出てきそうとか思ってんだろ?!」
「うん」
否定の要素が全く思いつかなかったため、虎杖はノータイムで返答した。