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    shimotukeno

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    フォロワーさんが凍結して悲しいのでフーイルの続きです……(2/9 更新)

    greeneryいつもの交差点で、イルーゾォを待つ。
     フーゴはいつになくそわそわしながらイルーゾォを待っていた。覚悟は決めてきたはずだが、どうしてもうわついてしまう。最近ではそれほど待つことはなく、フーゴの方がほんの一、二分ばかり早いだけだ。早く来てほしいような、少し遅く来てほしいような、自分でもどちらかわからない。落ち着かない気持ちでいると、イルーゾォの姿が見えた。心臓がどきりとする。
    「あ、イルーゾォさん……、おはようございます」
    「おはよう、フーゴ」
     今朝ばかりは覇気のないフーゴの挨拶にいつものように答えてから、イルーゾォは訝しげにフーゴを見た。
    「……どっか具合でも悪い? 元気がないような」
    「いえ。僕は元気です。あの、もしよければ、日曜日僕に付き合ってくれませんか?」
     フーゴは思い切って切り出した。イルーゾォはにこっと笑う。
    「いいぜ。お前にはいつも付き合って貰ってるからな。どこ行くんだ?」
    「これです」
     フーゴはスマートフォンの画面に映ったチケットを見せる。一瞬ピンときていなかったイルーゾォも、次第に目を丸くする。
    「え、これ……、うわ、マジかあ」
    「も、もしかして苦手ですか?」
     急に悲しげな顔になったフーゴに、イルーゾォはくすりと笑いかける。
    「ううん。思ってもみなかったから。でも、本当にいいの?」
    「兄がくれたんです。いらなくなったからって。使ってあげた方が彼もさっぱりするってもんですよ」
    「うん。でも、おれで? おれでいいのかよ?」
    「あなたがいいんですよ。他に二人きりで行くような人もいないし。それにこういう賑やかなところで仲間とばったり再会、なんてこともあるかもしれませんから。でも、たまにはただ遊びに行くのもいいと思います」
    「うん。ふふ、楽しみだなあ! 十年ぶりくらいだ!」
     イルーゾォは少女のような――肉体年齢は元々正真正銘の少女なのだが――笑顔を浮かべて声を弾ませた。フーゴはほっと胸をなで下ろす。ひとまず第一段階は成功した。
     学術書や法律書、判例集、史料、そういったものを読み解き、応用するのは得意だが、初めて直面する感情にはどうすればいいのかわからない。ただわかっているのは、想いを伝えなくてはならないということである。成功確率が限りなく低いとしても。
     イルーゾォからすれば、自分は小さな弟と同じようなものかもしれない。実際、精神的にはイルーゾォはずっと大人だ。『あの時』に近いだろう。かたや自分は子供っぽくて背だってまだ伸びていない。これからうんと伸びる予定だけど。実際には二学年しか変わらなくても、イルーゾォからしたら十歳くらい下の子供に見えているかもしれない。
     それ以前に、イルーゾォのタイプから大きく外れているかもしれない。イルーゾォの話によく出てくる『リーダー』ことリゾット・ネエロは、長身のイルーゾォよりも背が高くて逞しく、落ち着いて冷静だけれど仲間への情に厚く、暗殺者として凄腕で、器が大きくて、――といった人物らしいのだが、話すときのイルーゾォの誇り顔ったらない。心底慕っているのがよくわかる。会ったことも見たこともない人物に、ちょっぴり嫉妬してしまうほどに。アバッキオよりも体格がよく、ブチャラティのような器の人物が好みなら、自分は遠く及ばないのだ。
     確かにイルーゾォは自分に好感を持っているだろう。しかしそれは友人や同じ目的を持つ仲間としてだ。それが突然告白してきたら、困ってしまうに違いない。そんなつもりはなかった、と。
     そんなことをフーゴは一晩考えていた。結論としては、自分はイルーゾォの恋愛対象ではないだろう、ということだ。恋愛感情がなければ恋人関係は成立しない。金や名誉、地位といった事情や思惑の絡む大人ならともかく、学生のうちは特に。勝ち目はない。しかしそれは『かもしれない』『に違いない』『だろう』といった一方的な推察と断定の積み重ねの上の結論に過ぎない。それに勝ち目はないからと踏みとどまったらまた後悔する。たとえあえなく敗れ去って、現在の関係が変わってしまったとしても、黙ってボートを見送るよりはましだ。
      次こそは、自分自身に胸を張れる選択をしたい。それがフーゴの出した答えだった。

    ◆  ◆  ◆

    「ねえ、イルちゃん!」
     二時限目の休み時間、イルーゾォは同級生に声をかけられた。フーゴに『イルーゾォ』と呼ばれているのはクラス内ではとっくに知られていて、今ではすっかりあだ名として定着している。イルーゾォとしては悪い気はしなかった。
    「イルちゃん、今度『ランド』でデートするんでしょ? フーゴ君と」
    「え、どうしてそれを……」
     ドキリと心臓が鳴る。別に隠したいわけではないのだが、元暗殺者としてはなんであれ『情報をつかまれている』ことに対して妙に緊張してしまうのである。あのフーゴが吹聴して回るわけはないだろうし。
    「弟がさあ、フーゴ君と同じクラスなんだけど、二人が話してるの聞いちゃったんだって」
    「あー、なるほどね……」
    「でさ!」同級生は突然前のめりになって、目を輝かせた。「今度の土曜日、私とデート用の服買いに行かない? 私も新しいのほしいんだー」
    「デートってそんな大層なもんじゃあ……ただ一緒に遊びに行くようなもんだって……」
    「もう、『ランド』だよ? 向こうは絶対そのつもりだって」
    「はあ」
     イルーゾォは生返事をする。そうだろうか? あの忠実な子犬みたいなフーゴのことである。仲間がなかなか見つからないので、気晴らしに誘ってくれたのだろう。――とイルーゾォはのんきに思っていた。
    「ま、ホントは私がイルちゃんと服を買いに行きたいだけだけどね」
    「お、……わたしと?」
     イルーゾォは瞬きをした。思いがけない誘いを受けるのは本日二度目である。今日はそういう運勢なのだろうか。
    「私ね、スタイリスト目指してるの。イルちゃんって背高くてモデルみたいだし……お願い! 私の修行に付き合ってください!」
     同級生は手を合わせて深々と頭を下げる。未来ある愛らしい女子高生にこうもお願いされては、一応元イタリアーノであるイルーゾォとしては頼みを聞かないわけには行かない。それに休日を一緒に過ごせる同性の友達ができるのは満更でもない。むしろかなりご満悦である。イルーゾォはすっかり気を良くして頬を緩ませた。
    「許可するっ」
    「あはは、イルちゃんうけるー」
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