「ん…」
朝目が覚めると、イチの顔が目の前にあった。
「??????????」
え…何だ?何で俺はイチと一緒に寝てるんだ?
確か……
昨日は俺とイチの20才の誕生日だった。
イチと2人で、親父が用意してくれたシャンパンを飲んで…
すごくうまい酒で、グラス1杯くらい飲んだ気がするけど…
そこから先の記憶がない。
酔って記憶がなくなるっていうあれか?
でもなんでイチと一緒のベッドで…
まさかとは思うが、俺はイチと…その……
やっちまったって事なのか!?
「ん…」
「!!!!!!!!!!!」
イチが目を覚ました。
「あ、若、おはようございます。よく眠れました?」
「…イチ…なんで、一緒に寝てるんだ…」
「なんでって、若が一緒に寝ようって」
「一緒に…?」
「若、手を離してくれますか?俺、昨日の片付けをして、帰ります。あ、朝食の用意もしますね」
「!」
俺はイチの手を握っていることに気付いて、パッと手を離した。
イチは笑顔で俺を見つめている。
今まで見たこともないような、すごく優しい笑顔。
なんだよその顔…やっぱり、やっちまって、俺の身体のことを気遣って…
正直なところ、俺はイチのことが好きだから、そういう関係になってもいいって思ってる。
けど…こんな記憶もない状態で、初体験をしちまったのか?
「イチ!!てめぇ若のベッドで何してやがる!!!!」
「うわーーーーーーーーーー!」
突然、沢城が、寝室に飛び込んできた。
沢城はイチに鉄拳をくらわせ、イチはベッドから転がり落ちてしまった。
「わ、若…ご無事ですか…?」
「さ、沢城…?」
「イチ…お前…まさか若をキズモノにしたんじゃねぇだろうな…」
「き、キズモノ…?」
キズモノって!
やっぱり俺はイチと…大事な初体験を…? 記憶もないのに…
思わず泣きそうになってしまった。
「し、し、してませんよカシラ!俺は添い寝して欲しいって若に言われて、添い寝しただけです!」
沢城はイチを無視して、俺のそばに近寄り顔を覗き込んだ。
優しい手つきで、安心させるように頬に触れてくれる。
「若、どこか痛いところはありませんか?身体がベタベタしてるとかないですか?」
「え?だ、大丈夫…何も…ないと思う…」
ベタベタって何……
「とりあえずシャワーを浴びましょう。身体にも異常がないか見せてください。
添い寝しただけであっても、悪い菌が付いている可能性もありますから」
悪い菌?…どういうことだろう。
「イチ、てめぇはさっさとリビングの机の上を片付けろ。朝食の用意もしとけよ。
それが終わったらさっさと帰れ!」
「へ、ヘイ!」
「さ、行きましょう若。もう大丈夫ですから」
沢城は俺を抱きあげ、バスルームへ連れて行ってくれた。
慣れた手際で俺の服を脱がし、バスルームに備えてあるイスに座らせた。
温かいシャワーで俺の身体を流しながら、異常がないか確認している。
「何か痕でも残ってないかと思いましたが…何もないですね。
添い寝しただけっていうのは、嘘じゃないみたいです」
「そ、そうか…」
初体験はしてなかったってことか。
良かった。俺はほっとした。
するならやっぱり、ちゃんと記憶のある状態でしたいよな。
「怖かったでしょう若。あいつにはきつく言っておきますから」
沢城の「きつく言う」はそれだけじゃ済まない事を知っている。
最低でも2~3発は殴られるだろう。イチが少しかわいそうだ。
「うん、でも…俺が添い寝しろって言ったみたいだし…」
「若、酔ってしまって覚えていないんでしょう?
酔った相手の言動を本気で受けとる方が悪いんです。厳しく言っておきますから」
「そうか…」
「若も気をつけてください。記憶をなくすくらいまで飲んではいけません。
初めて酒を飲んで、わからなかったんだと思いますが、これからは」
「わかった…気をつけるから」
「お願いします」
沢城は、俺のことになるとすごく心配性だ。
普段はうっとうしいくらいなのだが、小さい頃から俺の面倒を見てくれているから、
俺にとってはもう1人の親父みたいな存在だ。
不安なときに、そばにいてくれるとやっぱり安心する。
「でも、あんまりその…イチのこと、殴らないでやってくれよ…」
「若はお優しいんですね…大丈夫ですよ、あいつは頑丈ですから」
それって殴ることはもう決定してるんだな…。
イチ、俺だって少しはフォローしたぞ。
どうか無事でいてくれよな。