華の金曜日。
ライブハウスは満員御礼で当日券の販売は無いとスタッフが声を上げている。
それでもライブハウス周囲には華やかな女性達が、今日のチケットを求めて集まっていた。
何しろ今日は、全国ツアーのオーラス。しかも、ベースの八神庵はこのツアー以降暫く活動を休止するともなれば、当然のようにチケットの倍率は跳ね上がる。皆が皆、目をギラつかせ、どうにかチケットを手に入れようと必死だ。
そんな飢えた肉食獣もかくやと言わんばかりの女性達を尻目に、京はスイスイと関係者入口に入っていく。
今日の京は、八神庵の関係者だ。
本来、京もまた世界的格闘大会の常連として名を連ねているのだから、知名度は高い。注目される事も嫌いではないのもあり、女性から囲まれる事もままある。
しかし、今日だけは少し違っていた。
黒いキャップを被り、黒縁の伊達眼鏡をかけ、黒いマスク。服装も、ライブTにジャケット、黒のスキニーズボンにブーツといつもとは異なる雰囲気のファッションをしている。
余程京のファンでない限りは気付かないだろう格好に身を包んだ京は、関係者用の席として割り当てられたライブハウスの二階席に腰を落ち着けた。