Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    じょうがさき

    @46AfIa8qgLgW2EX

    作業進捗報告用
    グラブルのアルユリONLY
    誤字脱字あったら教えてくださると嬉しいです。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🍇 🍷 💒 💕
    POIPOI 28

    じょうがさき

    ☆quiet follow

    アルユリWEBオンリー新刊の仮サンプルとなります
    誤字脱字等ありましたらご報告いただけると幸いです

    #アルユリ
    AlbertYurius

    夜明け前をふたりで 心地良い眠りに揺蕩っていた意識が、微かに刺激される。不快なものではない。手にふわりと柔らかな感触。その正体を確かめるために。
     ユリウスはゆっくりと瞼を上げた。
     視線を下げてベッドに投げ出した己の手を見ると、そのすぐ横に金の髪を持つ人物が頭を伏せている。一応は椅子に座った状態の彼の上半身は、ユリウスの眠りを妨げないようにか、ベッドの隅に遠慮がちに投げ出されていて。彼の髪がユリウスの手、その手首辺りに一筋重なっていた。
    (……アルベール)
     目覚める前から半ば感触の正体、その持ち主は分かっていた。親友、アルベールがこんな風に自分の傍で過ごしているのを見るのは初めてではない。むしろこの部屋で彼の姿を目にしない日の方が珍しかった。
     心配、してくれているのだろう。怪我はもう殆ど治っていると伝えても、彼は部屋への訪問を止めない。
     部屋に広がる暗闇と、しんと静まり返った静謐な空気は、朝を迎えるまでまだ時間があると示している。
     伏したままのアルベールの髪にユリウスは指を絡める。意外と指通りが良い髪を梳くように撫で続けていると。
    「……んっ」
     彼が小さく声を漏らし、伏せていた頭がゆるりと持ち上がった。
     目は開いているものの瞬きが多く、水分を多く含みぼんやりとした瞳はまだ彼が本格的に覚醒していないことを示している。
     だからこそか。
     ユリウスは自らの身体をアルベールが座っている方とは逆に寄せ彼の腕を軽く掴んで、空いたベッド上のスペースへと導いた。
     ユリウスにされるがままにベッドへ入ってきたアルベールだが。
    「……親友殿?」
     彼は眠る体勢になる前に動きを止めて、その手がユリウスの胸のあたりに伸びてくる。ユリウスの腕は既にアルベールの手首を解放していた。
    (何を……っ)
     アルベールの手の行方を見守っていると、その手のひらがユリウスの左胸辺りに柔らかく重ねられた。そして。暫く手のひら越しに何かを確かめていたアルベールは、ふっと安心したように笑んでから、体をベッドに横たえ瞳を閉じた。
    (……いつも……そうだったのか?)
     この部屋で毎日、眠っている己の心音を確かめて。そして確かに脈打っているのを確認して。それでようやく、うたた寝ではない本当の眠りに落ちていたのだろうか。
    (……もう今回のような無茶はしないよ。君と約束、したからね)
     心の中でそう告げると、アルベールが微かに笑んだように見えて。
     その姿に小さく息を吐いてから、ユリウスも再び睡眠を取るべく瞼を下ろした。

    「?」
     ユリウスが次に目を開けた時、アルベールは既にベッドには居なかった。時間的にはまだ夜が明けていないだろう。
     視線を部屋の中に巡らせると、親友の姿はすぐに捉えることが出来た。
     アルベールは窓の近くに立っている。ユリウスを起こさないようにかカーテンを僅かにだけ開けて、外の景色を伺っているようだった。
     身を起こしベッドから降りて彼に近付く。
    「起こしてしまったか?」
    「目が覚めただけだよ」
     言外に君の行動のせいで起きたわけではないと伝えて、ユリウスはアルベールの隣に立ち、カーテンを開け放った。
     窓から見える空はほんのりとだが明るくなり始めている。程なくして夜明けを、日の出を迎えるのだろう。
     暫く無言のまま二人で緩やかに変化していく空を眺める。
     彼とともにこうして夜明けを見守るのは初めてではない。二人で朝まで飲み明かした日も、共通の仕事に追われ徹夜で朝を迎えた日も、場所は違えど並んで空を見上げた。
     太陽の光が淡く空に射し始めた始めた時、アルベールが呟く。
    「また、お前とこの景色を見ることができて良かった」、と。
     その言葉に心の内でだけ頷いて、ユリウスは視線を空へ送り続け。
     二度と見ることはないと思っていた、二度と戻ることはないと思っていた祖国の夜明けを瞳に刻み込む。
     登っていく太陽、その光を遮る雲は今のところ見えない。
     今日のレヴィオンは珍しく晴れるようだ。

    (親友殿が帰ってくるのは明日だったか)
     仕事が一段落して、自ら入れた紅茶を口に含みながら、ユリウスは部屋の片隅を見遣る。部屋の床に存在する不自然な出っ張り。その正体を知っているのは今の所部屋の主であるユリウスの他にはアルベールのみだ。アルベールには別に口止めをしているわけではなかったから、彼の口から他の者にそれが何かバレても別に良いと思っていた。けれど彼がその正体を誰かに伝えた様子はなく、だからこそ、この部屋での二人きりで葡萄酒を飲み交わす時間が昔と変わらず存在している。
     部屋の片隅、未だ二人の秘密となっているその場所には今自分のコレクションだけでなくアルベールから預かった葡萄酒が数本保存されていた。五日ほど前、遠征に出かける直前の彼が「帰ったら一緒に飲もう」という台詞とともに預けていった物。
     その彼が帰ってくる日が、明日に迫っている。
     ここ数ヶ月ほどお互い忙しく、二人きりで葡萄酒を酌み交わす時間は取れていなかった。
     全くの平穏無事ではないけれど、戦などの大きな異変はなく比較的穏やかに時間は流れていて、その中でユリウスも、そしてアルベールも自分の役割をこなしている。騎士団長としてアルベールは相変わらず忙しく過ごしているし、悩んだ末に対策本部室長に復帰したユリウスも慌ただしい日々を送っていた。
    (今日の分の仕事を終わらせたら、つまみの買い物にでも行くとしようか)
     個人用の貯蔵庫につまみになりそうな食材はいくつかあったが、久々に彼と飲む時間にそれだけでは少し寂しい気がして、仕事を終えたら街へ買い物に出ようと決めた。

     大量の書類を整理し終え、出すべき場所に提出してから城を出る。街へ出るのは久しぶりだ。
     ユリウスが向かったのは貴族お抱えの商会の店が立ち並ぶ街ではなく、一般庶民向けの商店がいくつか集まった集落。
    身なりも集落の人々に混じってもおかしくない程度にはラフな方向で整えた。
     自分で買い物に出るようになってから、葡萄酒などはともかく、食材は庶民向けの店で購入することが多い。貴族の多い場所では、蔑むような窺うような刺すような、いろいろな視線を向けられるが、庶民が殆どの集落では誰もが他人にそこまで興味を示さない。皆自分たちの生活を、日々を生きることに精一杯なのだろう。ユリウスには貴族用の美しく整った街よりも、煩雑で雑多な庶民用の店が並ぶ場所の方が居心地は良かった。議会などの必要な場面では彼らの自分への敵意は受け止めようと思っているし、それだけのことをしたという自覚もあるが、今はプライベートなのだ。わざわざ自分から茨に刺されに行く気にはなれなかった。
     集落にはアルベールが利用している店もいくつかある。彼も立場的には貴族街の店を利用して当たり前で、あちらでも歓迎されるだろう。けれど、どちらかというと最高級のものよりほどほどの質のもので量があった方が良いといった考えの彼には貴族街の店は性に合わなかったようだ。
     アルベールには以前この集落の隅にある酒場に連れて行かれたこともあるし、その酒場近くの肉屋でもらった肉を料理をしない彼が持て余しているのを見て、調理して夕飯とした日もあった。
     今はその肉屋へと向かっている。つまみ用のソーセージ等を購入するためだ。肉汁滴るステーキのようなものは余り進んで食べないユリウスだが、ハーブを使った比較的あっさりした旨味のある腸詰めは葡萄酒の友と楽しむ場合もあった。
     肉屋でソーセージとハムを購入して、次はチーズ専門店へ向かう。店の外観は古めかしいが、貴族街にあるチーズ専門店より歴史のある店で扱っている種類も多い。
    ワインに合うチーズの詰め合わせを購入してから店を出る。城へ戻るために歩きながら、手にした買い物の成果を見てユリウスは小さく笑んだ。同じ金額を貴族街にある店で使ったとしたら、こんな量を手にするのは不可能だっただろう。
     城へ戻り自分が使っている部屋の貯蔵庫へ買い物を仕舞っていると、肉屋、チーズ専門店の袋のどちらからも購入した覚えのないものが出てきた。どちらにもオマケですというメモが添えられていて、これはどちらかというと自分へではなくアルベール宛のものだろうとユリウスは理解した。特に肉屋の方は彼とともに訪れたこともあるのだし。
     肉屋からのオマケはオマケにしては重量のある塊肉。適当な大きさに切って下味を付けて焼けばつまみでとしてではなくメインを張れるだろう。
     アルベールの帰城は明日の夕方の予定。彼の夕食としてもこの肉は充分役目を果たしてくれるはずだ。
     チーズ専門店からは新作のチーズを使った揚げ菓子で、ひとつ摘んだユリウスはチーズの風味が活きたそれは葡萄酒に良く合うだろうと感じ、次に店に行った際に同じ商品があれば購入しようと決めた。

    「おかえりなさいませ」
     遠征から帰還したアルベールをユリウスは部屋へと迎え入れる。怪我などはしていないようだ。
    「ああ、ただいま」
     遠征での汚れを落とすためにシャワーを浴びた直後なのか、アルベールの髪は僅かにだが濡れていて、急いでこの部屋へ訪れたのだと伝わってくる。
     それに少しくすぐったい気持ちになって、でも表情には出さずに、ユリウスはアルベールに椅子に座るように促した。
     自分は少し用意をしてくるから机の上のクッキーでも摘んでいてくれと伝えると。クッキーと聞いてアルベールが僅かに顔を顰めたのが見えて、それは私が作ったものではないよと付け加えた。
     今は勤務時間外だから、二人ともラフな服に着替えている。勿論城内に居る以上、緊急事態が発生したら国を守る騎士として行動するつもりだが。
     用意といってもサイコロ状に切って調味料で下味を付けた塊肉に火を通し、仕上げに少量のスパイスを降りかけて串を刺すだけ。ユリウスはこの部屋で大半の時間を過ごしているから、簡単な調理に必要なものは全て揃っている。
     仕上がった肉の串焼きの乗せた皿とソーセージとチーズが整然と並べられた皿の二つを、アルベールが待っているテーブルへと運ぶ。彼はクッキーには手を付けなかったようだ。
     串焼きの皿はアルベールの近くに置いた。自分より彼が手を伸ばす機会が多いだろうから。
     料理の準備が終わったら次は葡萄酒だ。アルベールから預かったそれを取り出していると、背後で彼が勝手知ったるといった様子で葡萄酒を注ぐためのゴブレットを食器棚から準備していた。
     葡萄酒はとりあえず一本だけテーブルの上に置く。預かった葡萄酒は合計四本だったが、ぬるくなるのを防ぐためにも一本をすべて飲み干してから次を出せば良いだろう。
     ユリウスがアルベールの用意したゴブレットに葡萄酒を注ぎ、そこで改めて二人とも椅子に着いて。
     手にしたゴブレットを小さく掲げて乾杯の合図とする。
     夕食を食べていないと言っていたアルベールは、ユリウスの予想通り串焼きに良く手を伸ばしていた。
     他愛のない、何でもないような会話をしながら葡萄酒を酌み交わす。久々の二人きりの穏やかな時間だ。
     アルベールが持ってきた葡萄酒は比較的最近出回り始めたものばかりらしく、今まで知らなかった味にユリウスは夢中になり、またアルベールもそんなユリウスを見て笑みながら杯を重ねていく。
     アルベールが持ってきた葡萄酒はすでに半分の二本が完全に空になっていた。
     ふっと会話が途切れる。けれど二人の時間に沈黙が落ちるなど割とよくあることで。そしてそれを不快に感じることなどは殆どない。
    (……アルベール?)
     手にしたゴブレットの中身を飲み干し、顔を上げると。こちらを見つめるアルベールと視線が合った。
     彼の瞳、その端に微かに。
    見慣れない、今まで自分に向けられたことのない、仄かな熱を思わせる感情がある。そんな気がする。
     何を思っているのだろう、彼の心が読めない時なんてめったに無いのに、と疑問に首を傾げていると、アルベールの手が伸びて来て。
     その指が。
     ユリウスの唇にゆっくりと触れた。
    「親友殿?」
     アルベールの行動、その理由がわからずに、ますます頭に浮かぶ疑問符が増える。食べかすでもついているのかと思ったがアルベールの指の動きは拭うそれではなくただ触れるだけのもの。
    「っ……悪い」
     自身でも無意識だったのか、ユリウスの声にハッと我に返った彼の手はすぐに離れていく。
    「そういえばお前に意見を聞きたい案件が有ったんだが」
     誤魔化すように仕事の話を始めたアルベールの態度を不思議には思うが、丁度自分の方にも彼と意見を交わしたい事柄があったので、そこから先は仕事の話となった。

    「……」
     書類を覗き込みながらの会話は対面に座っていると些か不便で、ソファに移動し横並びに腰掛けて、つい先程までは議論を交わし合っていたのだが。
     今ソファに横になっているアルベールの頭は、ユリウスの膝の上にあり、彼は健康的な寝息を立てていた。
    (遠征の直後だし、疲れているのだろうね)
     それなら自室で休みことを優先すればいいのに、彼は帰ってから一緒に飲もうという言葉を果たすために今日この部屋にやってきた。それを嬉しく感じる心はあっても疎う気持ちはない。だから彼の頭が自身の膝に乗っかっている状況も受け入れている。
    (それにしても……)
     あれは何だったのだろう、と。少し前の彼の不可解な行動と、その際瞳に浮かんでいた熱を思い返す。
     小さな熱を抱えた瞳は、今まで自分に向けられたことのないもの。アルベールからだけでなく、他の誰からも。けれど、 
     どこかで見た覚えはある気がする。誰かが誰かに向けていた感情。その熱の持ち主は誰だったかと考えるが。恐らく余り己と深く関わった者ではないのだろう。答えは形にならなかった。
     考え込んでいる内に壁掛け時計の針が朝と呼べる時間を示していた。
     アルベールが目覚める様子はなく、仕方なくこの体勢のまま自分も少し眠るかと。
     ユリウスは背をソファに沈み込ませた。
     半分だけカーテンに閉じられた窓越しに見遣った空は暗く淀んでいて。
     この国は今日も雲に包まれた日を迎えるようだ。
     もう一度アルベールに視線を送り、その唇に彼がしたように自分の指を触れさせる。   
     何か分かるかもしれないと思っての行動だったが。
     少しかさついているが意外に柔らかいなという感想以外は特に浮かばず。
     答えを探すのは諦めて目を閉じた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works