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    cella4000

    @cella4000
    表に置きにくい絵・供養文を置く予定です(未定)

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    cella4000

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    夏の仗露を書こうとして挫折しました

    仗助の帰宅時間に帰路に待ち構えていた露伴は、その姿を認めるなり声をかける。向こうは珍しい事態に目を丸くさせて、ぎくりと体を強張らせた。

    「ど、どうしたんスか先生。こんにちは」
    「こんにちは。ほれ」
    「……あ?なんすか、コレ」
    「店のおまけでもらったんだけど、きみ、ちょっとコレ飲んでよ」

     ラムネを厚い胸板に押しつける。ここ座って飲んで、とコンクリートブロックのそばに強引に腕を引くと、仗助は嫌そうに顔をしかめた。

    「いやいや、意味がわかんないんだって。あんた唐突なんスよ、康一だって、先生ってたまに強引だよねって言ってたぜ~。ついでに言ってやると、たまに、っていうのはあいつなりの遠慮した言い方だと思うぜ」
    「あ?きみごときがボクと康一くんのことに口を挟むんじゃあないよ」
    「あんたの性格について言ってんですよー俺は」
    「ウソつきのきみにこそ、性格のことなんか言われたくないね。このクッソ熱い日にラムネ貰って喜ばないなんて、可愛くないクソガキだ」

     仗助が案外早く来たので、ラムネはまだキンキンに冷えている。袋から取り出して汗を垂れ流す頬に押し付けると、仗助はわっと声を上げて目を白黒させた。

    「まだあるから康一くんたちがいたらあげようと思ってたんだが、今日は一緒じゃないのか」
    「ああ、俺買い物に寄ったんで。先生自分で飲んだらいいじゃん」
    「こういうのはきみたちの特権だろ」

     なに言ってんだコイツ、というアホ面をさらした仗助はしかし、確かに喉は乾いていたようで、言うままに指定の場所に座った。手際よくラムネのビー玉を中に落とし、こんな感じでいいんスか、と口につける。露伴は仗助から人一人分程度あけて隣に座り、コンクリートの上に胡坐をかいて向かいあうようにスケッチブックを取り出した。スケッチしたかったんだったらはじめから言ってくださいよ、と意外そうな呟きが聞こえる。嫌われているのでそんなことを頼まれるとは露とも思ってなかった、という声色だった。モデルってことっすか、と続くそれは、子供らしく浮ついていた。
     左斜め上から仗助に当たる日光が、彼の半身を明と暗に分離していた。凶暴性と優しさ、血色のいい肌の内側を流れる二種類の血、大人と子供の境界。ここにあるのはアンバランスさだ。たとえば服には似合う似合わないの趣向があるが、ラムネという夏の風物詩はそういったものとは少し違う。季節的にも年齢的にも限定的であり、似合うのではなく相応しい。今日のこの日に、自分ではなく仗助が相応しいのだ。本人には絶対に言ってやらないが。
     顎を上げてさらされた喉が、ぐびりと音を立てて嚥下する。腕にあるスーパーの袋は、今日の夕食の材料だろうか。相手の家庭事情に及んだ思考がナンセンスで振り払う。なまめかしく生気に満ちた肌に、汗が一筋流れ落ちた。口を開けば悪だくみで憎たらしいガキらしさを見せる表情なのに、ふとした瞬間に遠くを見つめる大人の顔を覗かせる。


    (中略)


    そのとき、仗助が掲げたラムネに反射した光が、ちり、と彼の瞳に重なった。青と青が織りなす色彩に瞬間、目を奪われる。けれど瞬きの後にはもう消えていて、露伴は仗助の瞳の中を食い入るように見つめた。ラムネ終わっちった、とこちらを見た仗助と、ばっちり目線が合う。しばらくののち、先に外したのは仗助だった。

    「……そんなに見られるとよ~恥ずかしいっス」
    「気色悪いことを言うな。それより、それ掲げてみろ」
    「なに?こう?」

     仗助が先ほどラムネを呷った角度に仗助が空のビンを掲げたが、同じ色彩はもう二度と見られなかった。露伴はスケッチブックの仗助の目を薄く塗ったが、なにかが足りない気がしてならなかった。
     色が欲しい。今度うちに来させて描こうか、なんて考えが浮かんだが、嬉しそうな仗助の顔が思い浮かんで口に出すのをやめる。終わった?とこちらの手元を覗いてくる仗助は、いつもの生意気な彼だった。興味深そうに、わくわくした子供のように「くれんの?」と訊いてくるので、資料にするからやらないよ、と拒絶すると、鬱陶しく文句を言い始める。

    「うるっせェなぁ。残りのコレやるから適当に配ってろ」
    「なんだよ、ラムネじゃなくて俺はあんたが描いたのが見たい」
    「ボクの絵に興味なんてないくせに」
    「そうじゃなくてさ、あんたって俺のこと嫌いじゃん。それなのに俺を描いてくれたあんたの絵だから、どういう風に、見えるのかって……」

     仗助は喉になにかが詰まったように言葉を途切れさせた。自分でも自分の言葉が意外だったように、驚いた表情に彩られている。危うく揺らいだそれをごまかす様に、仗助は「あ、そうだ」と呟く。すると一瞬、仗助のスタンドが見えたがすぐに消えた。露伴、と子供っぽく笑うと、手に冷たいものを握らされる。

    「あんたには似合わなそうだから、あげるよ」
    「……はああああ?こんなゴミ、いらんッ」

     仗助のスタンドが取り出したビー玉だとわかるやいなや叫ぶ。仗助はカラカラと笑いながらそのまま逃げてしまい、ため息を吐く。先ほどスケッチした仗助の目にかざしてみて、自分が夏の刹那に見つけたあの色彩にはならないことを確認する。それは物足りなさと満足感に満たされるような、不思議な感覚だった。
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