風に揺れて物悲しく、乾いた音が鳴る。どこかの竹藪から切り出された立派な笹に、数多の願いが靡いていた。
妖怪達はお祭りだなんだと騒ぎ立て、広場で宴会の真っ最中。妖怪横丁の一角に飾られたこの笹を見上げる者は、今は五官王ただ一人。
その隣に設えられた机には、色とりどりの短冊と、数本のペンが置かれていた。
まだなんの願いも背負わぬ短冊を一枚、提灯に照らされた薄暗い空へと翳す。
「お前とこの笹を見たのはもう何十年前だったか」
一人呟く彼の脳裏に浮かぶのは、あどけない表情で自身を見上げた、いつかの葉月。
「五官王様はお願い、書かないんですか?」
左手に短冊、右手にペンを持った葉月が五官王を見上げた。その手に握られた短冊はまだ白紙のままだ。よかったら、と、両手にある二つを五官王へと差し出す。
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