Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ツキシロ

    @tk_mh123

    ツキシロのポイピクです。
    まほ晶♀の文章を投げる予定です。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 6

    ツキシロ

    ☆quiet follow

    フィ晶♀逆トリ、終わらなかったので途中までになります……。全年齢向けです。
    全て書き終わったらまた後日どこかに上げますので、Twitterをご覧いただけると幸いです。書き終わるためのエールも大募集しています!!

    きみの名前を何度でも ご注意!
    ○フィガロが帰還後の晶ちゃんの家に来る逆トリです
    ○晶ちゃんは22〜25歳くらいの社会人、地方の実家から出てきて一人暮らし、職場の沿線に住んでいる、くらいの緩い設定です
    ○終わらなかったので途中までになります(すみません)





     今でもときどき、あちら側の夢を見る。
     月に愛された世界で、畏れられたり敬われたり虐げられたりしながら、それでも大切なものを守るために戦った魔法使い。
     大切なものは各々違って、それは誇りだったり、故郷だったり、仲間だったり、自分だったり、約束だったりした。それでも彼らはあのときは確かにひとつのチームになって、戦っていたのだ。
     でも、こちらに帰ってきてから徐々に、あちらの記憶は薄れてきてしまって。
     あの夜、月が、どんどん、どんどん、大きくなって、空がどんどん、どんどん、明るくなって、ああ、これが月が落ちてきているってことなんだ、と思ったことだけを、はっきり覚えている。


     遠くから鳥の声が聞こえる。近くの線路の上を電車が走っていく音や、前の道を行く学生たちの声、タイマーでついたエアコンの音も。
     光を防ぎきれない薄い遮光カーテンから、朝の光がぼんやりとワンルームに差し込む。ああ、もう朝か。でも、今日は休みだし、特に予定もないからもう少し寝ていよう。
     伸ばしていた脚を曲げると、肘が何かにぶつかった。なんだろう、これは。温かい。
     まだ夢を見ているのかと思いつつ、瞼を開ける。
    「やあ、賢者様。おはよう。可愛い寝顔だったよ」
     やっぱり、私はまだ、夢を見ているのだ。だってこのひとは、もう会うことのできないはずの、別れてしまった、あちら側の。
    「フィガロ……?」
    「はーい。南の国の優しいフィガロ先生だよ」
     明けゆく夜の空を映したような髪の色、榛に緑の混じる目。通った鼻筋に、薄くも厚くもない唇。その端を上げてつくられた、ちょっとうさんくさい微笑み。
     フィガロが、私のベッドに寝ている。
    「えっ、ええええぇ!??」
     勢いよく起き上がると、フィガロの胸にかかっていた羽毛布団がめくれた。長身の彼の脚は、狭いシングルベッドからはみ出しそうになっている。
    「寒いなぁ、賢者様」
     そう言って彼は布団を引っ張り、可愛らしく自分の肩を抱いた。がん、と私の背中が何かにぶつかる。ベッド際の窓の桟だ。
    「ど、どうしてここにいるんですか!?」
    「ひどい言われようだな。俺はきみに会いたかったから飛んできたのに」
    「そ、そういうことじゃなくて、私、帰ってきましたよね!?」
     月が落ちてきて、それを魔法使いたちで追い返したあと。私はいつのまにか、現代の世界に、帰ってきていた。いくら戻りたいと、みんなに会いたいと、願っても叶わず。
    「それなのに、どうして……」
    「ここに空間を繋げてもらったんだよ」
    「えっ、ミスラにですか?」
     ミスラ。空間移動の魔法が得意な、厄災の傷のせいで、いつも眠そうだった魔法使い。彼は今は、ぐっすり眠れているだろうか。
     フィガロはそれ以上答えずに、ゆっくりと身を起こした。シーツの上に皺が残っている。私はそっと大きな手に手を伸ばした。彼は拒まない。温かい。夢じゃない。偽物じゃない。
    「本物だ……」
     つぶやいたとき、私のお腹がぐぅと鳴いた。フィガロがくすりと笑う。
    「朝ごはんにしようか」


    「へえ、これは便利だね。西の国にもこういう魔法科学装置があったよ」
     フィガロが鼻歌を歌いながら、オレンジ色の明かりの中でまわるターンテーブルを見つめている。電子レンジだ。
    「これ、どこからマナ石入れるの?」
    「いや、そんな電池みたいな……あれ、マナ石って電池だったのか……」
    「フライパンは変わらないね」
     目玉焼きにしようとしたのに慌てて卵を割るのに失敗してしまい、スクランブルになった私の手元を後ろから覗き込みながら、彼が笑う。その手には、私が実家から持ってきたコーヒーメーカーで淹れたコーヒーがある。
    「きみに朝ごはんを作ってもらえるなんて、嬉しいなあ」
     頬が熱くなる。まるで夫婦にでもなったかのような口ぶりでフィガロが話すせいだ。
    「そ、そんなこと言ってないで、テーブルの上を拭いてください」
    「はいはい、布巾はどこにあるの?」
    「布巾じゃなくて、テーブルの上に置いてあるウェットティッシュを使ってください」
    「ウェット?」
    「そこの四角い箱についてるボタンを押して、蓋を開けてください」
    「ああ、ふーん、なるほど。なかなか便利だね。いつも衛生的なものをすぐに使えるわけだ」
     フィガロは先程から目につく全てのものに興味津々だ。長い時を生き、様々な場所に行って、その時その場所に馴染んできた彼の順応スキルは、魔法舎随一だろう。
     魔法舎。
     ああ、そうだ。魔法舎だ。ずっと忘れていたあの場所の名前を、思い出した。
    「いただきます」
     フィガロにはお箸じゃなくてこちらのほうがいいだろう、そう思って用意したフォークとナイフを、彼の大きな手が取り上げる。誰かと一緒に朝食を食べるのは久しぶりだ。魔法舎では、ネロとカナリアさんがいつも──。
    「賢者様、食べないの?」
    「あ、はい、いただきます」
     ネロとカナリアさん。そして、クックロビンさん。どうして忘れていたのだろう。あのふたりなら、もっと美味しい朝ごはんを作ってくれる。特にネロの料理なんて、魔法を使っていないのにも関わらず、人の心を温める、まるで魔法のようだった。
     私はとりあえずコーヒーを飲んで、ふぅと息をついた。トーストに目玉焼き、インスタントのスープ。私の分はトーストではなく、冷凍していたご飯に味海苔にした。野菜が少ないのはいつものことだ。フィガロがテーブルの向こうで笑っている。
    「ありがとうね、わざわざ作ってくれて。そうだ、あのパンが跳ね上がってくるトースターって、面白いね。仕組みも簡単そうだし、作れそう」
    「はい、ムルなら……」
     ムル。そうだ。私があちら側に行って、一番最初に出会った魔法使い。エレベーターの中で会った彼と、その後に会った彼は、同じなのに、まるで違っていた。きっと彼なら、トースターも電子レンジもコーヒーメーカーも発明できるだろう。ただし、飽きてしまわなければ。
     思い出すとちょっと楽しくなってきて、お箸を持ち上げる。何の変哲もない、100円ショップで買ってきたお箸。ああ、どうして、あのお花と鳥の細工がされたお箸を、持ってこられなかったんだろう。ヒースが作ってくれた、世界にひとつだけの。
    「ヒース……」
    「ああ、それ、オハシってやつだよね? ヒースがきみのために張り切って作ってた」
    「はい」
     頷いて、卵の塊をお箸でつまみ上げる。今回は卵を割るのを失敗してしまったから、目玉焼きにするはずだったのにスクランブルエッグになってしまった。
     賢者様の世界では、目玉焼きというのですか? 面白い名前ですね。
     そう言って首を傾げた、リケはオムレツが大好きだったっけ。ネロによくねだっていたし、私もオムレツを綺麗に焼く練習をして、リケが喜んでくれたら嬉しかった。
     なんだろう、忘れていた記憶が、次々によみがえってくる。
     インスタントのコーンスープを飲むと、この料理を作ってあげた少年のことも思い出す。ミチル。ミチルが喜んでくれるから、寒がりコーンを使ってよくスープを作ったのに、こちらの世界に戻ってきてからは、インスタントのものしか飲んでいない。コーンやミルクを使ってお鍋できちんと作ったほうが、ずっと美味しかったのに。
    「ごちそうさまでした」
     フィガロが微笑んでそう言って、再びコーヒーに口をつける。会いたくて会いにきたって、どういうことなんだろう。私が帰りたくても帰れなかったここに、ミスラは簡単に空間を繋げることができたんだろうか。フィガロに何をどう尋ねればいいんだろう。でも、聞いたら夢が覚めてしまう気もする。
     私の逡巡を見越したのか、フィガロが窓の外に目をやって提案する。
    「賢者様、外に出てみたいんだけど、いいかな?」


     フィガロはお馴染みの白衣を着ていたので、外を歩いてもそんなに目立つ格好ではなかった。聴診器をポケットにしまって現代の街を歩く彼は、いつも通り颯爽としている。いかにも長身の格好いい外国人、という感じの彼だが、休日の駅までの道は人通りもまばらで、そんなに人目が気になることもなかった。
    「寒くないですか?」
    「大丈夫。北育ちだからね」
     気温は低いが晴れていて風もない。私も今日羽織っているのは薄手のコートだ。彼には私の大きめのストールを貸して、首に巻いてもらっている。紺のチェックで、男の人が巻いてもおかしくないものを選んだ。
    「でも、風が出てきたり、夜になったりすると寒いかもしれません」
    「もしかして、俺に服を買ってくれるの?」
     フィガロが肩をすくめて笑う。私は頷いた。
    「はい、見ていると寒そうですし、あんまり薄着でも目立ちます」
    「そうかもしれないね」
     フィガロが答えている、その笑顔の後ろの道の向こうを、犬の散歩をしている人が歩いていく。大きな犬を三頭も連れているのに、悠々と歩いているのは、白っぽい服を着た、細身の若い男の人だった。オーエン。ああ、少し、オーエンに似ている。大きなトランクも持っていないし、不思議な威圧感もないけれど。
     傍らのフィガロが、道の先を指差す。
    「ねえ、あの場所は? 人が集まってる」
    「ああ、駅です。あれ、雲の街にも、駅馬車ってありましたよね?」
    「そうだね。賢者様の国にもあるの? かなり様子が違うけど」
    「馬車じゃなくて、電車っていう乗り物に乗るんです」
    「デンシャ?」
     フィガロが外国語のようにその単語を口にするのがおかしくて、私はちょっと笑った。ブーツを履いた足取りが軽くなる。眩しいくらいの冬の晴天だ。


     いつもはICカードを使うのだけれど、フィガロがもの珍しそうに券売機を見ていたので、久しぶりに切符を買った。これをあの機械に通しながら歩くんですと説明すると、なるほど、運賃を払った証明になるわけだね、あとで精算するより効率的だ、と頷く。そうして、まるで毎日電車に乗っているかのようにスマートに改札を通り抜けるから、私がかえって感心してしまった。
     これがもし他の魔法使いだったら、どうだっただろう。例えば年長の、スノウとホワイトだったら、意外とフィガロのように、いやもっと楽しそうに、やっぱりスマートに通り抜けていくかもしれない。そうだ、スノウとホワイト。また思い出した。フィガロの師である二人も、この世界を楽しんでくれそうだ。
     ちょうど、ホームに電車が入ってきたところだった。降りる人はほとんどいない。待っていた人たちが無言で乗り込んでいく。
    「これが電車か。どんな仕組みで走ってるの?」
    「えっと、機関車だったら石炭ですけど、これは電気です」
    「デンキ?」
     午前の各駅停車は、座席がほぼ埋まっているくらいの混み具合だった。フィガロは私を席に座らせて、自分はその前に立って、周りの人に倣って吊革をつかみ、窓の外を見ている。彼に気付いた周りの老若男女がぽかんとしたり顔を赤くしたりして彼を見た。たしかに、外国人モデルのような美形だ。
     電車が走り出すと、彼の向こう側で景色も流れていく。フィガロと電車に乗っている。不思議な感じがした。箒ではなく、電車に。
     不意に、彼が声を低めて尋ねてきた。
    「ねえ、賢者様、さっきのデンキって?」
    「電気っていうのは、えっと……」
     小学生か、または中学生の理科か、あるいは高校の化学だろうか。もう長い間使っていない、知識の引き出しを引っ張り出す。錆びついてなかなか開かない。脳内にぱっと稲光が閃く。忘れようとしても忘れようもないのに、どうして忘れてきたんだろう、強烈な。
    「雷……オズの起こすあの雷を、もちろん、もっとずっと弱いものですけど、人工的に起こせるようにした仕組みがあって、それを使って、うちにあった電子レンジやコーヒーメーカーも動いてるんです」
    「へえ、じゃあ、そのデンキってものを供給してる人間が、この世界の支配者なんだね」
    「いや、そういうわけでは……もちろん、無いと困るんですけど」
    「だってオズの力を操ってるんだろう?」
    「ですから、オズの魔法ほど強くはないですから。雷はここにもありますけど、それで発電はできないんです」
     私やフィガロの発言が聞こえたのだろう。隣でスマホをいじっていた学生らしい女の子が怪訝な表情で顔を上げた。それに気付いたフィガロがにこりと微笑む。めちゃくちゃ格好いいのに、どこか怖い笑顔だ。
     電車がスピードを落とし、次の駅のホームに滑り込む。大きな駅だ。隣の女の子をはじめ、多くの人が立ち上がって降りていく。車内は一時かなり空いたが、また多くの人々が乗車してくる。今度はグループの乗客が多く、にわかに車内が騒がしくなる。
    「フィガロ、座ってください。席が空いてるのに立っていると目立ちます」
    「そうなの? 景色が見たいんだけど、しょうがないか。じゃあ、賢者様が端に座ってよ」
    「あ、ありがとうございます」
     先刻まで女の子が座っていた隣に移動すると、私が座っていた席にフィガロが座る。彼が座るとふわりとハーブか、薬草のようなにおいがした。
     同じジャージを着た男子高校生たちがわいわいと乗り込んでくる。みんな剣道部のようで、竹刀が入っているらしい袋を持っていた。寒いのに熱心だなぁと思う。ああ、そうだ、カイン。彼も自分の剣技に磨きをかけることに余念がなかった。明るくはきはき話している高校生たちの様子も、どこか似ている。
    「賢者様?」
    「あ、すみません」
    「構わないよ。どうかした?」
    「いえ、あ、そういえば、フィガロ、その賢者様って呼びかた、ここでは……」
    「ああ、そうか。じゃあ、晶って呼ぼう」
     さらりと言い、彼が顔を斜めにしてこちらを見てくる。正面にフィガロが立っているのも新鮮だったが、こうして隣に座ると、意外と隣の人が近いことに気付く。普段は、隣に誰が座っているかなんて、ほとんど気にしていないフリをしているからだろう。香りにも、かすかに感じる熱にもどきりとする。
    「私の名前、覚えていてくれたんですね」
    「きみもね」


     ほんとうはハイブランドの服が似合いそうだけれど、冬服は値も張るし、私のお財布では厳しい。
    「どう?」
    「よく似合ってます……」
     ツイードのパンツ、そしていつもの黒いハイネックの上にウールのネイビーのチェスターコート。差し色にカシミアのグリーンのストール。
     そんなわけで、みんなのご用達、●ニクロに来たが、さすがと言うか、やっぱりと言うか、どんな服でも彼が着るとかっこよかった。変な言葉が書いてあるTシャツとか、ダサいセーターとかを着せないと、かっこ悪くはならないようだ。カップルで来店している女性、いや、男性さえもフィガロをちらちらと見ている。
    「クロエもよく言ってたな……みんなかっこよくて、服の作り甲斐があるって」
     いつのまにか呟いていた。デザイナーを目指していた、いつも一生懸命で、おしゃべりが好きな彼。みんなに似合うデザインを考えるのが大好きで、彼の作ってくれる服はいつも素敵だった。
    「でも、大丈夫? こんなに買ってもらって」
    「はい。全部揃えても、意外と安いんですよ」
     試着室から彼が出てくるのを待っていると、そばに靴下や下着が売っているのが目に入った。そういえば、フィガロはいつまでここに居るんだろうか。もしも長くいるんなら、こういうものの替えも必要になってくる。でも、魔法が使えるんなら大丈夫なんだろうか。
     靴下を手に取りながら考える。フィガロの靴のサイズはいくつなんだろう。試着室の前に並んでいる靴を見る。長身だから大きめだ。こんなふうに男の人の服を選んだことはないので、慣れないことにどぎまぎする。それが彼の服ならなおさらだ。
     ふぅ、と溜息をついて首を振る。考え過ぎたくない。それにしてもここには何でも売っている。靴のほかに、帽子やサングラスまで置いてあるのを見て、黒衣の魔法使いのことを思い出した。ファウスト。思わず帽子を手に取る。ファウストがかぶっていたものによく似ている。
    「それ、似てるよね」
     お店の服を脱いで、白衣で出てきたフィガロが声をかけてくる。かごにしっかり服をたたんで入れているフィガロは、すっかりこちらの世界の人に見えた。言葉は流暢な日本語に聞こえるし、まるで日本で仕事をしている外国人のようだ。
    「お会計、しましょうか」
    「ああ、硬貨を使うの?」
     私はいつかクックロビンさんに見せてもらったコインを思い出した。フィガロもきっと、ああいうものを想像しているのだろう。
    「これで払えるんですよ」
     帽子をディスプレイに戻し、スマホを取り出して笑ってみせる。彼の驚いた顔を見ていると、胸の中のもやもやした不安を忘れられるような気がした。


     私は、忘れていることを意識していただろうか。
     今までの生活のなかで、魔法使いたちのことを思い出していただろうか。フィガロに再会するまで、思い出すことすらなくなっていたのではないか。
     フィガロは私に、何かを思い出させるために、ここにやってきたのだろうか。


    To be continued …
     
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭😭😍😍😍😍😍😍👏👏👍👍👍👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏💖💖💖👏👏👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    ツキシロ

    DONEガルシア博士×アシストロイド晶♀。パラロイ軸本編後、ラボに残った晶。約五十年後、博士が亡くなった後、旅に出ていたオーエンとクロエがラボを訪れる話です。捏造多数。晶はカルディアシステム搭載です。
    パラレルワールド・スターチス 博士のことですか?
     そうですね、とってもお優しい方でした。私たちアシストロイドのことも、友人のように扱ってくださいました。アシストロイド差別について、何度か講演などもしていらっしゃいましたが、あれは本当に、仕事だからやっていたのではなく、私たちアシストロイドのことを、生活のパートナーとして思っていてくれたことは、ラボラトリーの中の人間も、もちろんアシストロイドも、誰もが知っていることです。
     それ以外のこと? もうお亡くなりになった方のことを話すのは憚られますが……そうですね、博士が受けていらっしゃったお仕事ですから……とても、真面目な方でした。真面目、といいますか、本当に研究がお好きなんだな、と思うことが多々ありました。研究だけではなく、先ほどのような講演やメディア出演、ラボの中での会議など、寝る間もない時期というものが、一年の間に何回もありました。それでも、ご自分の興味があることを見つけると、目がきらきらと輝いて、そのことに集中して、三日も寝ない、ということもありました。ええ、そういう時は、私や、その他の博士の助手を務めていたアシストロイドが、無理矢理にでも寝室にお連れしました。脳波や呼吸、脈拍などを感知していれば、さすがにもう休ませたほうがいい、という潮時は、私たちアシストロイドにはわかりますから。そのために博士は私たちをおそばに置いてくださったのだと思います。
    8036

    recommended works