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    ツキシロ

    @tk_mh123

    ツキシロのポイピクです。
    まほ晶♀の文章を投げる予定です。

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    ツキシロ

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    オー晶バレンタイン小話。あんまり甘くない???

    #まほやく男女CP
    Mahoyaku BG CP
    #オー晶
    oCrystal

    さんざめく心臓オー晶

     目が覚めた時には、中天に月が昇っていた。
     腹を触ってみる。もたれた木の幹には、指が触れない。完全に貫通していた穴は塞がって、血も止まっている。ミスラの魔力の残滓を感じながら、呪文を唱えた。血のにおいがようやく消える。
    「ちっ……」
     舌打ちをして立ち上がる。血が足りないから、足元がふらついた。瞼の裏、記憶に残る閃光。あの忌々しい髑髏。
     もう一度呪文を唱えると、魔法舎に戻った。既に夜中だから、暗く、静まり返っている。ひょっとしたらバーは明るいかもしれないが、足を向ける気にはとてもならない。
     足を引き摺るように歩いていくと、キッチンから明かりが漏れていた。ネロが仕込みをしているのだろうか。そう思って覗いてみたら、見えたのは、もっと小さな背中だった。
    「晶」
    「ひゃあっ」
     耳元で囁いてやると、賢者の肩が大きく跳ねた。気配を消して近づいたのだから当たり前だが、喉奥から笑いが溢れてきてしまう。
    「ふふ、色気のない悲鳴。こんばんは、賢者様」
    「オーエン、こんばんは……もう、心臓が止まるかと思いました」
     冷や汗をかいて振り返る晶を見ていると、少し気分が良くなった。甘いにおいがすると思えば、彼女の前ではミルクパンが火にかけられていて、その中ではミルクが今まさにふつふつと泡を立てている。
    「ホットミルク、僕にも頂戴」
    「はい、もちろん。少し多く温めてましたから、良かったです」
    「誰か、他の奴にあげるつもりだったの?」
     彼女の、穴の空いていない腹部に腕を回し、僕の方に引き寄せる。彼女の背中に、僕の心臓のない胸が触れる。温かい。
    「実は、オーエンが夜中くらいに帰ってくると思います、って夕食の時にミスラが言ってたので、そろそろ、あなたが来るかなと思っていたんです」
    「ふうん」
     ミスラはやっぱり変な奴だ。人を殺しておいて、人にホットミルクを飲ませようとする。
    「それで、おまえは起きて待ってたの?」
    「そうできたらよかったんですが、実は、お風呂の後に本を読みながら寝てしまって。さっき目が覚めて、今ここにいます」
    「そう」
     そこで、晶は火を止めた。
    「オーエン、ホットミルクでいいですか? ココアもありますよ」
    「……ココア」
    「ココアですね。あっ、そういえば、オーエン、お腹は大丈夫なんですか!?」
     振り返った晶がこちらを見上げてくる。洗いたての髪が僕の頬に触れて、どこかで嗅いだ花のにおいがした。
    「心配が遅いね」
    「あ、すみません。オーエン、顔が真っ白です。ココアだけじゃなくて、できれば、何か食べたほうが……」
    「ミスラは、なんて言ってたの」
    「オーエンのお腹に穴を空けてきたって……一度死んだから、夜中くらいに帰ってくるだろうって」
     くるりと体も振り返って、晶は僕の帽子から爪先までを見た。ゆっくりと視線を上げて、さっきまで穴の空いていた胃のあたりをじっと見る。臭くて汚いから綺麗にしてしまったが、血まみれで帰ってきたほうが、心配してもらえただろうか。
    「だ、大丈夫ですよね……」
     晶はそうっと手を伸ばして、ぺたぺたと上着の上から腹部に触れてくる。少しくすぐったいが、悪くはなかった。
    「よかった……」
     ほっと息をついたタイミングで、上から声をかける。
    「ねえ」
    「はい」
    「穴が空いたから、お腹がすいてるんだ。ココア、早く作って」
    「あ、はい! そうですよね。オーエンが無事で、安心しちゃって……」
     カップの用意を始めた彼女が、目元を袖で拭うのをみて、よくわからない感情に襲われる。別に、いつものことだろうに。いい加減に、慣れればいいのに。これが僕たちの、当たり前の毎日なんだから。
     目眩がしてきたので、食堂まで歩いていって、椅子に座って待つ。やってきた晶は、ココアが入ったカップと、ビスケットがのった皿を持っていた。
    「よかったら、ビスケットも食べてください」
    「へえ。賢者様にしては、気がきくね」
     す、とカップの上に手を伸ばす。握った手の中からシュガーが溢れ、ココアに落ちていく。晶はそれを黙って見ながら、自分のココアに口をつける。何か言いたそうにしているが、それを敢えて無視して、美味しくなったココアを飲み、ビスケットを手に取った。
     二枚のまるいビスケットの間に、茶色い泥のようなものが固まって挟まっている。甘いにおいがしたので、口の中に放り込む。固まった泥は、やはりチョコレートだった。サクサクと咀嚼していくのが小気味いい。温かいココアが、文字通り空になっていた胃を満たす。途端に空腹感を覚える。
    「オーエン、昨日が何の日か、知ってますか」
     晶が聞いてきたが、今はココアとビスケットとチョコレートの消費で忙しい。ちらりと視線を送って首を横に振ってやる。
    「バレンタイン、ですよ」
     微笑んで言う、その単語を、以前に聞いたことがあった。大切なひとに、お菓子などのプレゼントを贈る日。そう言っていた気がする。
     嬉しそうにも、哀しそうにも見える彼女の顔を時々見ながら、腹を満たしていく。腹だけでなく、他のどこかも満ちていく気がするのは、気のせいだろう。
     だって僕には、心臓もないのだ。
    「……おかわり、頂戴」
    「はい」
     破片しか残っていない皿を持って、晶が立ち上がる。チョコレートと同じ色の髪が揺れるのを見て、どうしてあれは食べられないのだろう、そんなことを思った。
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    ツキシロ

    DONEガルシア博士×アシストロイド晶♀。パラロイ軸本編後、ラボに残った晶。約五十年後、博士が亡くなった後、旅に出ていたオーエンとクロエがラボを訪れる話です。捏造多数。晶はカルディアシステム搭載です。
    パラレルワールド・スターチス 博士のことですか?
     そうですね、とってもお優しい方でした。私たちアシストロイドのことも、友人のように扱ってくださいました。アシストロイド差別について、何度か講演などもしていらっしゃいましたが、あれは本当に、仕事だからやっていたのではなく、私たちアシストロイドのことを、生活のパートナーとして思っていてくれたことは、ラボラトリーの中の人間も、もちろんアシストロイドも、誰もが知っていることです。
     それ以外のこと? もうお亡くなりになった方のことを話すのは憚られますが……そうですね、博士が受けていらっしゃったお仕事ですから……とても、真面目な方でした。真面目、といいますか、本当に研究がお好きなんだな、と思うことが多々ありました。研究だけではなく、先ほどのような講演やメディア出演、ラボの中での会議など、寝る間もない時期というものが、一年の間に何回もありました。それでも、ご自分の興味があることを見つけると、目がきらきらと輝いて、そのことに集中して、三日も寝ない、ということもありました。ええ、そういう時は、私や、その他の博士の助手を務めていたアシストロイドが、無理矢理にでも寝室にお連れしました。脳波や呼吸、脈拍などを感知していれば、さすがにもう休ませたほうがいい、という潮時は、私たちアシストロイドにはわかりますから。そのために博士は私たちをおそばに置いてくださったのだと思います。
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