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    oyoy0211

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    oyoy0211

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    キッチンカーバイトモブ女と任務で舌を切られた乙くんと五の五乙。
    割とモブが出張る

    私がヘビになったとしてキッチンカーの店員ってのは割と見た目を気にしないらしい。
    引くほどピアスの穴バキバキに空いている様な奴を一目見て「あんたみたいなやつって人間観察得意っしょ」って採用した社長には頭が下がると同時にイカれすぎてて尊敬の念まである。
    でもとりあえず社長の見立ては本当だ。特に身体改造してる奴。ある程度の金が溜まったら自分も、と思っているせいだ。
    「お兄さんさ、スプリットタンでしょ?」
    焼き芋を渡すと同時にそう声をかけてみる。てかなんでこのビジュアルで焼き芋なんだろうな。古さからの脱却ってやつだろうか。でも人気店なんかこの前テレビで特集組まれてたし、言わばじわじわとタピオカみたいな人気は来ている。
    「あーえっスプリットタン……あっ、そうですね」
    目の前のお兄さん、とは言ったものの見た目は自分より若干幼く見える。髪は黒。服もオーガニックカフェに居そうなナチュラル寄りだ。
    ていうかこっちが焼き芋売った方が心象良さそうなんだけど。何より焼き芋の紙袋が似合ってる。まあこのお兄さんも舌ふたつに分かれてるけどな。
    「えーすごいっすね!私もお金溜まったらやろうって思ってて、お兄さんはどうしたんですか?」
    あわよくばクリニックかやってくれる店の名前が知れたらいな位のノリだった。体験談は多いに限るし。
    お兄さんはどこか驚いている様子で辺りをキョロキョロしている。ちょっとグイグイ行き過ぎたか。
    「うーんその、痛いから辞めといた方がいいよ。切るの」
    案外血が出ちゃうから服汚れちゃったししばらく味わかんなかったし。
    お兄さんは困ったように笑ってる。人柄がそのまま出てるのか笑顔に穏やかな印象を受ける分、舌をふたつに切ってるヤバさが際立つ。
    「え自分でやったクチですか?」
    「自分でやったっていうかその……後滑舌悪くなっちゃうしね、うん」
    ていうか濁されたけど自分でやってないということは他人にやられたか事故かのふたつになる。どちらにせよなんでそうなるのかは想像がつかない。
    脱いだらびっしり刺青入ってたりして。
    そう唯一服装から浮いてる高価そうな腕時計を見つけて邪推しているとお兄さんの顔に影が指す。
    「憂太?」
    「あっ待たせちゃいました?」
    「ううん?ナンパされてんのかなーって?」
    白い、デカい、黒ずくめ、グラサン。更に口調の軽さで堅い職業の人なら秒で眉をひそめそうな胡散臭い男がお兄さんの持っていた袋を取ってこちらに目線を合わせてくる。
    うわすげえ真顔。顔が整いすぎるとただ表情が無いだけで威圧感が凄い。
    当のお兄さんはされてないですよ、なんて言ってまた困った顔で笑っている。
    おいおい散歩中にチワワが勝手に擦り寄ってくるのと訳が違うぞ。その狂犬をどうにかしろ。後ついでにこのギラギラ系鬼ヤバイケメンがお兄さんのなんなのかも教えてくれ。
    「あ」
    なにかに気づいたか取った袋を秒で落とすやばいイケメン。
    おいてめぇ丹精込めて焼いてんだぞと向けた視線は尽く無視され、イケメンは空いた両手の指を無遠慮にお兄さんの口に突っ込む。
    寒空に晒される蛇の舌。いや何だこの状況。
    「ねえなにこれ?すっごいオシャレじゃん」
    「ひぇおひゃれなんれすか」
    「いつこうなったの?」
    「おととひのしゅっひょうれっ」
    「なーんで親戚のお兄さんに言わないの」
    「ひょこさんにみひぇてまひゅっひぇっ」
    「別に悟さんには関係ないし伝えなくてもいいかなー?って思ってたの?」
    仲間はずれじゃんだの意地悪だの言い出してイケメンは下手くそな泣き真似を始める。
    解放されたお兄さんはそんなことないですからとなだめている。
    てか出張先で舌が裂けるってどんな仕事だよ。
    「そんなことないですからじゃなくてさあ、今みたいに心配になるからちゃんと言ってくれなきゃなんだけど」
    今度は口を尖らせながらぎゅむ、とお兄さんの頬をイケメンは両側からつねり始めた。
    確かに正論は言っているが構文がめんどくさい恋人って感じなのでどうも痴話喧嘩っぽくておかしい。
    てか親戚?マジ?系統違いすぎだろ。
    「ああもうひょらっ、くるまもどりまひょ!またせてましゅしっ!」
    一方のまともに喋らせてもらえないお兄さんはイケメンを押しのけようとグイグイするも悲しいかな体格差が歴然で1ミリも動かせていない。
    結果イケメンが分かったよと頭を掻きながら落とした袋を拾い上げるとお兄さんに手渡した。
    「先に車行ってなよ」
    「あの、悟さんは?」
    「なんか飲み物でも買ってから来るよ」
    そう言ってぽん、とどことなく不安そうに揺れるお兄さんの頭を触る。
    お兄さんは静かに頷くとこちらに向かってすみませんと会釈をして謎に人あたりの良い印象を残したまま去っていく。
    「可愛いでしょ?」
    あ、タピオカミルクティーひとつね。お兄さんの後ろ姿にある程度手を振った後、先程の刺してくるような視線とはうって変わって屈託のない笑顔で話しかけてくる。
    いや逆にこえーわ。
    「言っときますけどナンパしてないっすよ」
    「ふーん」
    「舌切ってんだなあって、その話です」
    トレーに乗せられた代金を受け取る。
    タピオカミルクティー自体ウチならタピオカを掬い少量の氷と出来合いのミルクティーを入れるだけなので楽勝で出来る。
    「でも似合ってたから話しかけたんじゃない?」
    適当にピンクのストローを刺してやってイケメンに手渡すとそう言われた。
    そう言われたのであのお兄さんの顔を思い出す。
    雰囲気はナチュラル系だったが、それらをとっぱらって顔単体で見るとちょっと目の下にクマが入っていてダウナーでどことなく妖しい感じが蛇っぽい印象だった。
    「まあ似合っては、いますね」
    「ちょっといいなって思ってんじゃん」
    一瞬カマかけられたなって思ったけれど、イケメンは何故か機嫌が良くなっている。
    なるほど、自分の溺愛する親戚を自慢したかっただけ……にしては最初の鋭い印象が少し引っかかる。
    「お兄さんもしかしてさっきの人と付き合ってる?」
    「?そうだよ」
    「年上が余裕ないのってどうかと思うんですけど」
    「はは、言うねえ」
    「前の彼氏がそうだったんで」
    「へえ、でもそういうとこが可愛いっぽいよあの子にとっちゃ」
    どこがだよと言いたくなる。
    ほんの数週間前に別れた男は結婚適齢期で焦っていたのかとにかく既成事実を作りたがり、その上今まで何も言ってこなかった自分のピアスにも何かにつけて言うようになってくるともう我慢の限界だった。
    自分の人生だと共同で借りていたアパートからその男を追い出したのは記憶に新しい。
    何も言わないこちらに対してイケメンは目を細めている。
    「まあでも僕もそういうとことか、ちっともこっちの言うこと聞かない図太いとこ好きだったりするんだよね」
    じゃ、ありがとうね。そう言い残すや否やイケメンはその顔面に見合った笑顔で去っていく。
    やられたと思った。頬をひっぱたかれたような感じ。単純に惚気けられた挙句になんならマウントも取られた。きっとめちゃくちゃ性格悪いんだろうなあのイケメン。
    私もあの男もお互い全部ひっくるめて愛せたら良かったんだろうか。
    いやそもそもなんというかお互い愛の質が違った。あいつ私のピアスの穴が1個増えても気付かねえし。
    そう思えば案外吹いたら飛んでいくような軽い男だったのかもしれない。
    「マジでよかったわ別れて」
    そう思うと引っ越したくなってきた。
    まず舌を分ける前に1LDKに引っ越して、次はピアスが増えても気づいてくれて、とうとう舌を二つに分けたとしてもオシャレだねで済ますような重い男。イカれてるくらい重い男がいい。
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