オレは何をしているんだろうか?
厳かな雰囲気の店内に、綺羅びやかな飾り、滑らかな布地、厳格な服装が飾られる中
女性二人に囲まれて、されるがままになっていた。
目の前には、上着を椅子にかけてのんびりと読書をしている横顔。
「…ね、先生。今日はさ、実家に帰っててお祝い出来なかったから今日先生の誕生日しようって言って連れ出したのオレだよね?」
「そうだな」
「これは、なに?」
「それは『漢服』と言ってだな、璃月の伝統衣装で…」
「そうじゃなくて…」
胸元や袖口には金があしらわれ、腰帯にはしゃらり、と名前は分からないが宝石だろう、キレイなライトブルーの飾りが並んでついている。大部分を締めている布はパッと見ると漆黒のようだがよく見ると装飾が施され、光が当たっている部分は少し茶色がかって見える。
…とてつもなく、高そうだ。
「ん、あぁ。特注で公子殿に合わせて作らせた」
だからピッタリなのか。と納得し、直後に恥ずかしさで居た堪れなくなる。
「じゃなくてもーなんでオレがプレゼント貰ってんのってこと」
やっと着付けが終わり身動きが取れるようになったところで詰め寄る
「俺はお前に会えればそれで良い」
さらりと、とんでも無いことを言ってのけるその表情はとてもにこやかで、
「ぅぐ…そ、そりゃどうも…」
勝てない。
そうはいってもこれだけの衣装、相当なモラだろうことは容易に想像ができ、支払うことが当たり前になっている脳内では、近く、北国銀行からお叱りを受けることになるであろうことも容易に想像が出来た。
でも、それよりも、
「やはりよく似合うな」
「あ、ありがと」
嬉しさが勝ってしまうのだからどうしようもない。
「ね、歩きにくいんだけど…」
「普段と違い大股で歩けないからな」
「なにそれオレが普段ガサツってこと?」
「そうとは言っていないが?」
くくく、と笑うその表情は、満月が揺れるこの海と、建物の灯りで色が増す
「…ズルいよね、先生って」
風に当たり、少し冷たくなっていた唇を重ねて、ぽつり。
これから戻る望舒旅館は、『恋人と一緒に月を眺める最高の場所』との噂を聞いたことがあったが、
どう考えても今この時の方が最高だと思う。
「この服って、脱ぐのは簡単そうだね」
「そうだな。一人で着付けるにはなかなか骨が折れるが脱ぐときはただ紐を解いていけばいい」
「うん…」
ジャケットの金具、ベストの金具、ネクタイの金具、順番に指をかけて、
「公子殿?」
顎下から頬にかけてするりと指を這わせる
「ん、いや…先生の服脱がせにくいからたまにはこういうの来てみてほしいなと思って」
「別に構わないが…」
その指を、指で掬われる
「一つ一つ外し焦らすのが好きなのかと思っていたが…?」
その瞳は月光よりも明るく鋭い
「そんなわけ無いだろう?オレが耐えられると思う?今も限界なんですけど…」
この服と同じ色調の、絹のようなこの髪の毛を掬い、キスをする
「…んっ」
余裕とは、見せるものであって暴いてしまえば蕩けていく
「ぁ…っ公子、殿…」
ピアスの根本をカチリと噛んで、耳朶を甘噛みすれば、オレの耳に直接流れ込んでくるのは先程までが信じられないような、甘ったるい声
「は…クソっ…ねぇ旅館まで遠いんだけど…?」
「ここではしないぞ?」
「わかってるよ…」
名残惜しく唇を舐め、ため息をつく
この歩きにくい服で、どれくらいかかるのだろう。今すぐ組み敷いてやりたいのに。
それを見透かすようにくくく、と笑われて
「では、行くとしようか」
と背中を押される
「おゎっちょっと何すんの今やめてよそういう事ガマンしてんのに」
丁度、仙骨の少し上のあたり。
「いや、何でもないさ」
「はぁ?ほら行くよ先生」
「あぁ」
俺と同じ紋様が有ることに、気付くのは脱いでからか。いや、気付かないかも知れんな。
悪戯に微笑んだ表情は、急ぐタルタリヤには届かない。