「こいつぁ…どうするかな。」
しばらく、ガラス越しの海の空を見上げながらそう漏らした。
◆
コンコン
自分の背よりも高いドアノブ
それをわかってるから開けてくれるヌヴィレット様
「久しいなシグウィン。息災か?」
「えぇもちろん。うちはずっと元気なのよ」
実のところ、最近元気な人たちが多くて医務室にひっきりなしにけが人が来てたから、無理やり休みを取って『あの人も寂しがってるだろうから会いに行ってこい』って言ってくれたのよね。
今頃その人達はお灸を据えられているんでしょうけど。
「久々の空は気持ちがいいわねー。あ、これ、お土産なのよ」
「ほう。さっそく頂こう」
ヌヴィレット様が手に持っていたものを窓辺に置いて、公爵からの茶葉を受け取り準備をする。
その間に、近くにあった椅子に登って窓辺に置かれたものを見る。
「これ、ロマリタイムフラワー?なんだか小さくて可愛いわね」
見た目はみずみずしいそれなのだけれど、普段海底に咲いているものよりも小ぶり
「あぁ、品種改良されたものらしい。種から育てられるようにしたものだそうだ…ほら、シグウィン」
「ありがとう」
うちのために用意された小さめの椅子に戻って、入れてくれた紅茶に口をつける。
ヌヴィレット様は、自分の紅茶はテーブルに置いて、そのテラコッタの鉢に咲いている花に水をかけた。
ふわり、と花開く
「キレイね」
「あぁ。色々試してみたのだが、フォンテーヌよりスメールの水質が合うようだ。良く育ってくれている」
「そうなの。…」
聞きながら、少しのギモン
「ヌヴィレット様ってお花とか育てるのね。何だか意外かもなのよ」
「片付けていたら出てきたが、育てられないから貰って欲しいと渡されたのだ。慣れないが何事も経験だろう。それに、」
ヌヴィレット様の表情を見てはっとした。
とっても久しぶりに見たの。
ふわりとした、その笑顔を。
「私に似合っていると思わないか?」
◆
「なーんて言うのよヌヴィレット様ったら。嬉しそうだったのよ」
「ふーん」
二人でお茶菓子を食べながらのティータイム
「あんな顔、全然見たこと無いんだから。誰からもらったのかしらね」
「さぁな。」
「あ、そうそう。ちなみに花言葉って知ってる?あのお花にももちろんあるのよ?」
そう言って。目の前に座る公爵を見る。
「…そうなのか?…ちなみになんだが、なんなんだ?」
「あら、気になるの?公爵ったら」
「いやほら、遠回しな殺人予告とかだったら物騒だろ」
可愛い公爵
「ロマリタイムフラワーの花言葉はね、『忠誠』『不変の誓い』なのよ」
公爵は数口飲んで、カップの縁を見つめて指でなぞりながら、
「んー。そうか。まぁ…そうか…」
と良くわからない返事。
…こうなったら取っておきなのよ。
「あとね、この花には民話があるんたけど…」
「んー?」
良く聞きなさい。
「この花はね、昔水の精霊だったの。水神様に恋をしていたと言われているのよ?」
無知って怖いわね、公爵?
「あらっむせちゃって大丈夫?何か拭くもの…」
「いや、いい…いい、なんでも無い…っ」
「ちなみにヌヴィレット様も知ってるわよ。この民話」
「…」
「頭でも痛い?俯いちゃってどうしたの?」
もっと素直になればいいのにね。
このもどかしさが好きなのだけれど。
「あっそろそろ医務室に戻らないとね。また明日ね」
「…あぁ、おやすみ」
そうして出口のドアを開けながら一言。
「花が咲いたから、今度見せに行くからよろしくって言ってたわよ」
「ちょっ待て看護師長知ってたのか」
「うふふっ」
ほんっとに人間って可愛いんだから大ー好き