【冰九】龍族冰河と教師沈九幼龍と教師のほっこり物語
「我が息子の教育を頼みたい」
人々から愛されてきたような、いかにも素直で純粋そうな幼児が、父親の服の裾に隠れながらチラチラと盗み見てくる。零れ落ちそうな大きな目には縦長の瞳孔、口から覗くのは小さく尖った乳歯、背腰部の盛り上がりには尻尾が収まっているのだろう。この幼児には伝説の存在である龍の名残が色濃く残されている。
そんな子どもの存在を一切無視して、沈九は先ほど下された命令にただただ怒りで震えていた。
地方の大領主、天琅君。
その素性は、伝説級の存在である龍族であった。当の本人は「しがない田舎者の末裔だ」とカラカラ笑うが、領民の間で“領主天琅君は龍族である”などという情報は一切出回っていない。人間社会に深く溶け込み、あまつさえ相当な権力と立場を得ているこの人物は、かなり実力者で曲者であることは自明だろう。
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