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    maybe_MARRON

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    左馬一
    自宅で服選んでいることが判明したので途中も途中ですが供養

    無題 左馬刻とともにスーツ一式を買いに向かった一郎は、内心こっそりとため息を吐いていた。リスクを減らすためにも一人で乗り込むつもりだったのに、俺も行くと言って聞かない鋭い眼光を思い出す。別に今更怖くもないが、なんだかとても胸がざわついた。
     大事にされているのだと思う。些細な一言でそれを自覚する度、どんな顔をすればいいのかわからなかった。
     テキトーに選べと言われたので、言われた通り柄の悪さを隠せるような真面目な会社員風のスーツとネクタイを選び、試着室へと連れ込む。着替えを待っている間に眼鏡も見つけ、せっかくだからと手に取った。これであの目つきの悪さも少しはカバーできるかもしれない。
     なんだか楽しくなってきたところで試着室のドアが開き、名前を呼ばれて振り返る。
    「おー……」
     さすがだった。何を着てもかっこいい。
     別人とまでは言わないが、左馬刻の印象はガラリと変わっていた。立ち姿だけでキャリアを積んでいそうなオーラのある彼には、黒ではなくグレーのスーツを選んでみたのも正解だったと思う。印象は変わっても顔とスタイルの良さは当然そのままで、上から下までつい何度も見てしまった。何を考えているのかわかったのか、左馬刻は視線が合うとニヤリと口角を上げる。
    「こういうのが好きなんか?」
    「……そ、うじゃ、ねぇっすけど……あ、ネクタイ緩めないでくださいよ」
     どちらかといえばいつもの格好の方が好きだけど、などと思っていることがバレないよう祈りながら、わざとネクタイをきつめに締め上げる。それから上着の前も止めれば、左馬刻は窮屈そうに顔を顰めた。思わず小さく笑ってしまって小突かれる。
    「あ、髪型も……」
     前髪に触れ、ワックスで固められているそれをくしゃくしゃと指で解す。なんだか変な気分だった。軽く頭を差し出した状態でおとなしくされるがままになっている左馬刻に、心臓のあたりがきゅうと疼く。無防備というか、許されているというか。ほんの数ヶ月で縮まった距離に、どうしたっていちいち喜んでしまうのだ。
    「……それは?」
    「ああ、これも変装になるかなって」
    「ふーん……」
     左馬刻は一郎が手にしていた眼鏡をひょいと取り上げ、そして前髪を避けながら耳に掛ける。どうよ、とフレームの奥の瞳が弧を描いた。
    「……だいぶ、印象変わりますね」
    「こういうのも趣味なンか?」
     くつくつと楽しそうに尋ねてくる左馬刻に、何て答えたものかと口を開きかけたその瞬間。声を発するよりも先に、少しだけ顔が近づいてくる。
    「……キスする時、邪魔になんぞ」
    「っ、この格好でしねぇだろ……!」
    「わかんねぇよなぁ? 探り入れてる途中で何か起きるかもしんねーし」
    「何かってなんだよ!」
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