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    maybe_MARRON

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    左馬一
    くっつけよ!!って思ってしまうので書いてこなかったセフレしてる話です
    仮タイトルは「BET」もしくは「臆病者の賭けと本音」だったのですが、左馬刻の本心を図る話から両片思い自覚済みの話に変わったので「モラトリアム」になりました

    モラトリアム ギシ、とベッドが軋んで目が覚めた。薄く開いた視界は隣の男が降りた姿を見とめる。寝たふりをしたまま耳をそばだてていると、カチャリとドアが開く音がした。脱衣所あたりだろうか。話し声が聞こえるのでおそらく電話だろう。小さくため息を吐いて再び瞼を下ろした。
     日が昇る前に左馬刻がいなくなることは、別に珍しくない。
     ただ、いなくなる現場を見ることになるのは初めてだった。仕事柄、気配を殺して動くことなんてこの男ならば雑作もないだろう。きっと今まではそうやっていた。今日は失敗したのか、それとも自分の眠りが浅かったのか。……戻ってきた左馬刻に、声を掛けるべきか否か。ぐるぐる、ゆるゆると、思考は止まらない。
     再び静かにドアが開いて足音を忍ばせた男が近づいてくるのを、瞼を閉じたまま出迎える。ベッドが軋むことはなく、代わりに衣ずれの音だけがした。落ちていたシャツを羽織って細身のデニムを履いて、きっと何事もなかったかのように出ていくのだろう。こんな深夜にご苦労なことだ。ヤクザの若頭様も大変だなと心にもないことを思う。
     そのままひっそりと出ていくかと思っていた男は、しかしそっとベッドに腰を下ろした。どうしたのかと思っていると、ふと頭の上に柔らかな感触がして息が詰まる。
     まるで、いちろう、と声が聞こえてくるかのような手つきだった。
    「…………帰んの」
     だから、つい。言うはずのなかった言葉がついて出る。ゆっくりと瞼を持ち上げれば、左馬刻はただじっとこちらを見据えていた。狸寝入りがバレていたのか、それとも動揺を隠しているだけなのか。この男が考えていることなんて、結局何もわからない。
    「帰るっつーか、行く。仕事」
    「……あ、そ」
     頭の上に置かれたままの手のひらが、最後にもうひと撫でだけして離れていった。暗闇の中に薄ぼんやりと浮かぶ白い肌。シャツはまだだったか、なんて思っている間にもひょいと拾い上げてそれを羽織り、肌も、そこに残る痕も、全部覆い隠された。
     立ち上がった左馬刻は、もうこちらを見ない。それを寂しく思う理由はないが、なんとなく掛けていた寝具を引き上げた。
    「行くな、って言わねぇの?」
     変わらず帰り支度をしながら、揶揄うような声が届いたのは突然だった。
    「……理由がねぇよ」
     目も合わせないまま返すが、左馬刻は何も言わない。
     始まりはいつだったか。もう半年程経っているような気がする。酒を飲んでいい気分になってそのまま雰囲気に流されて、なんてありきたりな道をまさか自分と左馬刻が辿ることになるとは思っていなかった。しかも一夜の過ちでは終わらず、時々二人で飲んではそのまま、なんてことがもう何度も続いている。最初に流された時とは異なり別に酩酊することはないのだが、飲んでいたからというのはちょうどいい免罪符だったので必ず先に食事を共にした。行き先は様々で、焼肉だったり居酒屋だったり中華だったりバーだったり。その時間だけはまるでかつてのデートのような空気が漂うのだが、その先にある時間とどちらが本来の目的なのかはわからなかったし聞かなかった。
    「……欲しいか?」
    「あ?」
    「引き留める理由」
     左馬刻は、時々こうして試すような言葉を吐く。先程とは違い真剣な声色をしているのがまた厄介だった。真紅の瞳が揺れて、少し体温の低い指先が頬を撫でる。
     もっと正当な理由で身体を繋げていたあの頃とは違う。それなのに、優しいのは相変わらずだった。欲を浮かべた瞳も身体中に散りばめられた独占欲の証も、何一つ変わらない。なんで、なんてわざわざ尋ねるほど、今の自分は子どもではなかった。
    「……いらねぇよ」
     頬に添えられた指先に、自身のそれを重ねる。甘えるようにうっとりと瞼を閉じ顔を寄せれば、細い指先はぴくりと震えた。
     今のままでいいとは思っていない。だが、恋人になりたいかといえば微妙なところだ。やり直してうまくいく自信はあまりない。求められている実感だけを都合よく受け取れるこの関係は、ぬるま湯に揺蕩っているような気分の良さがあった。
     そんなもん抜け出してしまえ、と白い男は囁いている。
     十七の自分も、その無音の言葉に力強く頷いている。
     それを横目にモラトリアムを堪能するのは、しかしきっと、悪いことではない。
    「真面目に仕事する奴は好きだからな。そんなんでサボる程度の男の相手はしねぇよ」
     そう言ってニヤリと笑って、しっしっと追いやるように手を振りながら笑顔でいってらっしゃいと告げてやる。きっと言葉の一つや二つや三つを呑み込んだのであろう左馬刻は、難しい顔をしながらただ一言、いってくるとだけ応えた。
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