愛はどこだ チョコレートを嬉しがるような人間だったらどんなに良かっただろう、と思う。
いや、やっぱり特には思わない。好きでもないしもらったところでどうせ食べない。そんなものを渡されたって、ありがとう嬉しいよ、なんて社交辞令すら返す気がないのがヒル魔であった。
周囲から恐れられる男には不思議な魅力も確かにあって、引き寄せられる者──猛者は今も昔もほんのわずかながらちょくちょくいた。
だからバレンタインに下駄箱や机にチョコが忍ばされることは以前からあったし、中には直接渡してくる勇者もいた。その場で断るか栗田のカバン行きのチョコレートの行方など、ヒル魔の知るところではない。
これから先もずっと、チョコレートやバレンタインというものとは無縁の人生を送る、そのはずだった。なにしろ興味がないもので。
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