ヒースって本当に綺麗。
仲良くなって話す機会が増えて、前よりずっとずっと一緒にいる時間が増えたのに、毎回新鮮に感動する。ちょっとした仕草でも衝撃を受けるくらい美しくって、もっと知りたいって好奇心がうずうずしちゃう。
ほら、今も。俺とのたわいのない会話で、ぱっと顔が輝く。雨上がりに指した一筋の光、みたいな。嬉しい、俺にそんな表情を見せてくれるなんて。目が離せない、離したくない。ヒースって本当に魅力的で、そばに居るとついつい吸い込まれちゃう。
「え?」
「……あれ?」
どれだけ見つめても飽きることのないヒースの瞳が、くりくりっと大きく見開かれて俺を見てる。わぁ、そんな表情も出来るんだ。新しい発見にどきどきする。
なんて、感動してる場合じゃない。
ヒースのなんとも言えない変な表情の原因はわかってる。
たったいま、俺が、ヒースにキスしちゃったから。
「っぁ…ご、ごめんヒース!俺、なにしてんだろ…!い、嫌だったよね!?」
今更謝っても遅い。時間は戻らないし、無かったことには出来ない。ヒースがとっても魅力的で素敵だからって、我を忘れてキスしちゃうなんて。絶対に嫌われた。せっかく仲良くなれたのに。何やってるんだろう、俺。もっともっとこれからヒースのこと知れたらって思ってたのに。ああ、どうしよう、どうすれば。
「クロエ」
小さな声でヒースに名前を呼ばれて、思考がピタリと止まる。形の良いヒースの唇が、開いては閉じてを繰り返す。
やだ、ヒース、言わないで。待って、俺まだ───
「その、びっくりした…」
「っ……」
「けど、嫌じゃなかった…かも…」
「…え?」
ヒースの真っ白な肌に、ほのかに朱が差した。瞳は困惑したままだけれど、拒絶は感じ無かった。
これって、期待しちゃっていいのかな?都合良すぎる?
「本当に…?」
「えっと、多分…?俺も、よくわかんなくって…」
そこで一旦止まって、きゅっと唇が固く引き結ばれた。なかなか次の言葉は出てこない。はやくはやくと心が急いて、耐えきれなくて走り出したくなるのを必死に抑える。思案に暮れていた瞼がぱちりと開いて、真っ直ぐな煌めきが俺を見つめる。
あ、すごく綺麗。
「あのさ…クロエが嫌じゃなかったらなんだけど」
「うん」
「もっかい、いいかな?」
「え」
「なんか、わかるかもしれないって思ったんだけど……ごめん、変なこと言ってるよね」
ふるふると弱々しく首を振って、ヒースが申し訳なさそうに喋る。曇っていく顔色をどうにかしたくて、気づけばヒースの手をぎゅっと握りしめていた。嬉しくて、爆発しちゃいそうだ。ムルならきっと花火を打ち上げてる。
「ううん、全然嫌じゃない!試そう!確かめよう!わかるまでいっぱいしよ!ね、ね!」
「いや、いっぱいはしなくていいんだけど…」
「えっ!?あ、そうだよね!?ごめん俺嬉しくって…えっと、じゃあ~…いくね?」
「う、うん…」
今度はちゃんと頬に手を添えて、ゆっくりと。
あったかくて、やわらかくて、幸せで。
何度触れてもお互いよくわからなくて。けど嬉しくて、勝手に笑顔になっちゃって。それだけでいまは十分なのかも、とか思ったり。
きっとこれから、何度も何度も繰り返す。確かめたい、もっと知りたい、大事だから。