降快?パロ『あ、あ、あ〜。聞こえます?……よし、じゃあ生配信始めまーす!どうも、カイトです。今回はリクエストの多かった、このゲームをやっていこうと思いまーす!』
時刻は23時。僕はいつも通り机の上でPCを開き冷えたビールを片手に、一言一句聞き逃さないよう真剣にその配信を見始めた。
__人気ゲーム実況者『カイト』……
顔出しをしていない実況者だが、持ち前のトーク力と優れた頭脳、そして本人の自覚がない天然さが相まって、圧倒的な人気を誇る動画配信者である。
何故、僕がそんな彼の配信を真剣に見ているのか……もちろん、「面白いから」とか「人気だから」などといったありふれた理由ではなく、ちゃんとした理由がある。
それは……
『うわぁ、めっちゃコメント流れるの速いな〜……あ、「zero」さんスーパーチャットありがとうございますー!』
「!………かわい……」
……彼が月下の奇術師、怪盗キッドなのか確かめるためである。
*
きっかけは先日、怪盗キッドの予告現場へ行った時の事だ。
あの時、僕は初めて怪盗キッドと対峙したのだが、あの心地よく響く声…それからあの喋り方に言い回し……僕はそれらにどこか聞き覚えがあり、既視感を覚えた。ただ、どこで聴いたのか全く思い出せず、仕方なくその日は帰宅して日課である『カイト』の配信を見たのだ。
だが、その配信を見ている時に既視感の正体が判明した。そう、そのゲーム実況者である『カイト』の声や喋り方が、あの時対峙した怪盗キッドに酷似していたのだ。
……なんで『カイト』の配信を見るのが日課なのかって?
勘違いしないで欲しい。僕は「好きだから」とか「熱狂的ファンだから」とかで日課で見ているという訳ではなく、安室透としてポアロに潜入するにあたって、やはり流行は捉えておくべきだと考えて人気実況者である『カイト』の配信を毎日見ているのだ。そうだ。断じて三十路手前のおじさん(警察官)が未成年(先日の配信で判明した)の青年に対してよからぬ感情を抱いて配信を毎日見ている訳では無い。
とにかく、そんな訳で僕は今日も今日とて、彼は怪盗キッドなのかを確かめるために『カイト』の配信を見ている。
……とはいうが、実は今日の配信を見るよりも前に、正直、かなりクロに近いという結論が僕の中で出ていた。
その結論に至った要因は以前の配信で……
___以前の配信で『カイト』は、スキンヘッドの主人公を操作して暗殺の任務を遂行する有名な暗殺者のゲームをプレイしていたのだが、そのゲームで主人公が警備隊の1人に変装した時の発言に『お、変装した!…て、服着ただけなんだ…うーん、俺ならもっと完璧な変装を……いや、なんでもない』というものがあったり、また別の日の配信ではFPSのバトルロイヤルゲームをプレイしていた時に『あ、いつもの感じで撃っちゃった……空気抵抗あんま無いのに』と呟いて、ものすごい空気抵抗を受けることを想定した方向に弾を撃っていたり…__という感じで、思い返してみれば怪しい点が多々あったのだ。
……あともうひとつ付け足すなら、『カイト』は声真似がものすごく上手い。いや、上手いなんてレベルじゃない、もう本人だ。しかもキャラの声を少し聞いただけで男女問わず模写してしまうのだ。もう隠す気ないだろ。
だが、万が一という場合がある。もしかしたらとても声真似が上手で、空気抵抗がものすごい銃を撃つ機会があり、変装に自信のある一般人なのかもしれないのだ。
……だから僕は今日もこの配信を見て決定的な証拠を掴むべく、目に焼き付けなければならない。(『カイト』はアーカイブを残さないタイプの配信者なのだ)
気を取り直して今日の配信に目を向けると、早速リクエストの多かったソフトをプレイしていくようだ。
『え〜と、このゲームは泥棒シュミレーター……へぇ〜、俺にぴったりじゃねぇか。えっと?金目の物にカーソルを合わせてクリックすると盗めるのね。操作も簡単そうだし、早速やってみるか!』
今回のゲームは、民家に忍び込み、セキュリティに引っかからないようにしながらダイヤや金、さらには家電製品なんてものを盗み出し、盗んだ合計金額が一定の金額に達したら車で逃走ができるようになる……というルールらしい。
『ふふ〜ん♪ふ〜ん♪……お、裏口発見!周りに人はいねぇな。カメラもないし、ピッキングして入ろうぜ』
カイトは可愛らしい鼻歌を歌いながら流れるように敷地内に侵入し、勘がいいのか直ぐに屋内に入れそうな裏口を見つけて素早く鍵を開け、そのままカイトは不法侵入に成功していた。
『ん?……おーい、コメント、「なんか手馴れてる?」って、どういう意味だよコラ!』
そんなコメントを目敏く発見し、笑いながらカイトは怒った。可愛い。
そんなことをしているうちに、あっという間にカイトは建物の奥まで侵入し、金庫を見つけ出していた。
『おーー!これ絶対金物いっぱい入ってるでしょ!周りにセンサーもないし開けちゃおう!……あ、これバールでこじ開けちゃうの?普通に開けたりすんのかと……』
どうやらカイトは金庫の鍵もピッキングで開けるものだと思っていたようだ。……そういえば、確か怪盗キッドは以前鈴木財閥の開かずの金庫を短時間で開けたことがあったな……。まぁとりあえずキョトンとしたような声色のカイトも可愛いな。
困惑しているうちに金庫は開き、中には沢山の延べ棒が敷き詰められていた。
『おお!!これもう金額クリアするんじゃねぇか?……あー!惜しい、あともうちょっとだな……なんか適当に盗むか』
延べ棒を全て回収しても目標金額にはあと数十万ほど足りず、カイトは残念そうにしながら屋内を再び散策し始めた。可愛い。
仕掛けられた罠に警戒しながら色んな部屋を回っていくと、広いソファや大画面のテレビが設置された部屋にたどり着いた。
『……これさ、テレビとかも盗めんのかな……?いや、さすがに無理だよな……?』
カイトはそういいつつも、カーソルをテレビに合わせてクリックした。すると、目の前のテレビはパッと消えて、目標金額に到達したという文字が表示された。
『え、えええええ!!?え、今テレビどこに消えた!?今俺大量の延べ棒隠し持ってるんだよな?どうやって隠したんだよ……あんなでかいテレビ、俺のマジックでも隠せねぇぞ……?』
そういいつつも、カイトは「いや、でもあれをこうすれば……」と呟いて、自分ならどう隠すかをあれこれ考えていた。やっぱりこの子色んな意味で隠す気ないだろ。
……
___そんなこんなで色んなことがありつつも無事に配信は終わり、僕はPCを閉じてぬるくなったビールを煽り一息ついた。
……今日の配信も、やはり『カイト』が怪盗キッドに繋がりそうな怪しい点が多々あった…………が、とりあえず……
「今日も……可愛かったな……」
次回の配信も楽しみにしよう。
おわり