これって両片思いなのか成立済みなのかでルート分岐変わるよねドバイの夜。
男三人に割り当てられた一部屋。
ジナコによって手配されたホテルは昼間は穏やかな午後の光が差し込み、夜は満点の星空が降り注ぐ何とも贅沢な部屋だった。窓際に置かれた2台のシングルベッドは清潔な白いリネンに包まれ、ひとつひとつに浅めのボルスタークッションが横たわり、スタイリッシュで落ち着いた雰囲気を醸し出している。
ベッドの間にはサイドテーブルがあり、そこには小さなランプとホテルの案内やミニバーのメニューが整然と置かれている。昼間に出会ったアンドロイドの店の割引券も置いてある。明日はここに行ってみようか、と三人で約束をした。
ベッドのヘッドボードは木や布地を用いた温かみあるデザインで、全体に落ち着いた色調が広がっている。室内には簡易デスクと椅子があり、ルームサービスを取ってゆっくりするにもぴったりのスペースが備え付けられており、現代的な利便性も兼ね備えている。
そして、バスルームへと続くドアを開けると、コンパクトながらシャワーブースがしっかりと備えられており、ガラス製のパーティションで空間はまとまりつつも開放感がある。シャワーブースとバスタブは別々で設置されており、ドバイの風土を思わせる。
床は滑りにくいタイルや上質な石材が使われ、清潔な印象。壁にはミラーや棚があり、アメニティやバスタオル、ドライヤーなどが整然と配置されており困るようなことは何一つない。
今日は3人でカルナの夜警の時間になるまで部屋でルームサービスを嗜みながらドバイの夜を楽しんだ。ルームサービスにしよう、と言ったのはバーソロミューの提案だ。ルームサービスならば配膳はホテルの人間が行う為、パーシヴァルに必要以上に食事を盛られる危険性がない為だ。その配慮に、カルナは心底感服したのちに顔を綻ばせた。
シングルベッドが二台並ぶ部屋の中央に、ワゴンで運ばれてきたルームサービスが所狭しと並ぶ。銀のドームを外せば、香ばしく焼かれたラムチョップや、スパイスが効いた中東風のメゼ、そして冷えたレモンミントジュースがグラスに立ちのぼる。
窓の外にはドバイの摩天楼がきらめき、大きな窓から夜景がガラス越しに映り込んでいた。
カルナが静かにグラスを傾ける隣で、バーソロミューがデーツの盛り合わせをつまみながら、「これは意外とイケるね」と笑う。パーシヴァルは慣れない料理にやや戸惑いながらも、友の顔を見て自然と口元が緩む。
この時間だけは、誰にも邪魔されない。戦いも使命も忘れ、ただ、満ち足りた沈黙と、時おりこぼれる笑い声だけが、ドバイの夜をゆっくりと染めていった。
暫くしてカルナは夜警で持ち場に戻ることとなる。部屋にはパーシヴァルとバーソロミューだけが残っていた。
酒も入り、夜も更けたことで二人とも布団の中へと入る。普段飲まない酒を飲んで楽しく過ごした。体温が上がった今、バーソロミューはどうにも寝付けない。
「……ふぅ」
寝息を立てているパーシヴァルを一瞥し、バーソロミューは深く息をつく。
どうにも収まらない昂ぶりを抱えたまま目を閉じるのは、あまりに苦しい。
「……一発、抜くか」
小声でつぶやき、静かにベッドを抜け出す。
隣のベットで眠るパーシヴァルは起きる様子はない。顔の前に手のひらを翳してみるがぴくりとも動かず、規則正しい寝息をしていた。
騎士たるもの少しの物音で起きないかと心配ではあったが互いに酒も入っているし、作戦中とはいえ休暇を楽しみながらの今、気が緩んでいるのだろう。そう結論づけることにした。
とはいえ百戦錬磨の騎士様だ、途中で起きてしまう可能性もある。念のため、部屋についているシャワー室へ。
水を流しっぱなしにすれば、多少の声くらいかき消されるだろう。
そう踏んで、バーソロミューはシャワー室へと向かい、衣服を脱ぎ捨てた。
ざああ、と響く水音。
それに重なるように、かすかな吐息が漏れる。
「……んっ、……はぁ……」
濡れた手が自分の熱を扱うたび、水音に混じって小さな声が零れた。
「んんっ……ふ、ぁ……ぁ、んっ…」
気持ちがいいと、声が抑えられない。
唇を噛んで堪えながらも、鼻から声が抜け出る。
くちゅり、ぐちゅ…
多少手荒くなるそれはシャワーの水音とはまた別の水音を立てながら自慰に耽った。
だがそのすべてを、部屋のベッドに横たわる青年は聞いてしまっていた。
パーシヴァルの耳に届くのは、水音の奥に潜む、甘く湿った響き。
「……っ」
眠ったふりを続けるには、あまりに鮮烈すぎる。
耳を塞ぎたいのに、耳は勝手に拾ってしまう。
心臓が破裂しそうなくらいに早鐘を打ち、彼は布団の中でただ顔を覆うしかなかった。
やがて水音が止む。
バーソロミューが髪を拭いながら浴室から出てくる。
「ふぅ……」
ほっと息をつき、何食わぬ顔でベッドへ戻ろうとしたその時
「…………」
パーシヴァルが上体を起こしていた。
「……、起きたのか?それとも、起こしてしまったかな。すまないね、酒のせいか汗をかいて気持ち悪くなったからシャワーを……」
振り向いたパーシヴァルの表情に、早口で言い訳を並び立てるバーソロミューの顔がみるみる固まる。
茹でたタコ、太陽に愛されたトマトのように、耳まで真っ赤。
しばしの沈黙。
パーシヴァルは伏せた視線のまま、低く囁いた。
「……あなたの息づかい、全部聞こえていました」
「――――っ!?」
バーソロミューは言葉を失い、その場に凍り付く。
互いに視線を合わせられないまま、重苦しい沈黙が部屋を満たした。
そして二人は、誰も眠れない夜を迎えることになる。