セベシルワンドロ「独占欲」前の事だが移動授業の際に、俺に声をかけてくるやつがいた。
クラスは違うし、寮も違う。
カリムにも「知り合いか?」と聞かれたことがあったが、知らないと答えると、「まぁ、名前なんて知らなくとも、ここのやつ皆いいやつだよな!」と笑うので、そんなものかと解釈していた。
気がつけば、その生徒はいつの間にか姿を現さなくなったのだ。
今となっては名くらい聞いておけばよかったと思ったがセベクには「そんな必要はない」と何故か怒られてしまった。
あまり印象に残る生徒ではなかったが、楽しく会話をしてくれた。
俺が眠ってしまう事も親身に聞いてくれ、眠った時は連れて帰ってくれるとまで言ってくれた親切なやつだったのに。
どうしてしまったのだろうか?
ーーーー話は三日前に遡る。
部活の時間になってもシルバーが部に出て来なかった。
その日はあまり天候が良くなく、いかにも雨が降りそうであった。
リドル先輩の、どこか野外で寝ているのではないかと心配している姿を目の当たりにし、しょうがなく僕はシルバーを探しに出ることにした。
あ、く、ま、で同郷のよしみとして探しに出たのだが、たいていは中庭にあるどこかの樹の下で眠っていることが多いので、そのあたりを探し回っていた時に少し離れた大きな樹の近くに人影がよぎった。
シルバーか?
と思い、その人影を追うがなんせこそこそとあたりを見回し不自然な動きをしていた。
体格からしてシルバーとは違った。
もしかして、刺客か?
妖精族の眼と耳は非常に長けている。
半分とはいえ、僕もその能力には多少長けているので遠目からそちらの様子を伺うと、そいつとは樹のそばで横たわっている人間を観察しているようだった。
物陰で良く見えなかった分、耳を澄ます。
するとーーーーーー
「どんなに触っても何しても起きない‥やはり本人や周りが言ってたことは本当だったんだ」
何の話だと首を傾げていると‥
「こんな綺麗な人初めて見たときから欲しいと思ってたんだ‥シルバーくん、起きないのなら‥少し、構わないよね」
男はシルバーに覆いかぶさると、顔をゆっくり近づけ‥今にも顔と顔が触れそうになっていた。
僕は
駆け出していた。
こいつは、シルバーに、まさか
「貴様何をしているッ」
「ひぃ」
すぐさま警棒を相手の首元に押し付けて、後ろの襟元をぐっと掴みあげた。
顔を見たとき、ハッと気づいた。
こいつは‥。
僕が教室移動や放課後に、良くシルバーに話しかけていた男で、シルバーに聞いてもよく知らないが話しかけてくるやつだと聞いていた。
まさか、シルバーの事が好きで、つきまとっていたとは‥
何故か、胸のあたりにモヤモヤとくすぶったものと怒りが湧いてきた。
「貴様‥二度とシルバーに近づくな。もし、近づいたら、どうなるかわかっているんだろうな」
本当ならば殺してやりたいくらいの感情が湧いているが一般人にそこまでは言えない。しかも、僕とシルバーは‥ただの同胞なのだ。
だが、なんとも言えないもどかしい気持ちを胸にしていた。
ぐっと力強く警棒を押し当てると、
相手は何もしないと言い残し逃げるようにその場を立ち去った。
僕はというと‥、眠っている男を見下ろし、このなんとも言えない気持ちを雨が頬に触れるまでじっと考えて続けていたのだ。