時折身動ぐたびに聞こえる衣擦れの音以外、わざわざ取ったホテルの部屋は静寂に包まれている。だから、普通だったら生活音にかき消されてしまいそうなぎゅるる、という微かな腹の音さえやけに大きく響いた。
「……うー……」
いたい、と呻くように浅い呼吸を繰り返しながら布団に包まったままグレイが己の腹を擦っていた。苦しむグレイの様子を隣でアッシュは見ていることしかできない。
「……薬はちゃんと飲んだんだろうな」
「飲んだ……」
まだ効かないと嘆くようにこちらに背を向けた丸まった背中が震えている。
こういう時はせめて擦ってやるべきなのか。だが、そんな労りをアッシュは他人に施したことはない。だから苦しむグレイを見ていることしかできず、それしかできないことに内心焦ってもいた。
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