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    tThzaaOGJktE538

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    リネの村入場直後くらい。サンドラがシクロの戦い方にひっかかるお話。シクロの武器選択話導入

     火は熱いし、電気に触れれば当然痛い。クワロの薬が効くくらいだから、ネガの魔物だって生き物のはずだ。ピックで突いても、魔法で焼いても、剣で切っても魔物は倒せる。どんな見た目をしていても。
     リネの村は空どころか空気自体が澱んでいる。質の悪い燃料を延々と燃やし続けない限りこうはならないだろうという黒煙の中で住宅は、数年の劣化だけでは説明のつかない傷み方をしていた。
     死角からの一撃はなんとかやり過ごした。カラスのような魔物を強かに殴りつける。リトルベルの看板から剥がれ落ちたtの字が鋭角を当て損なったのが、手に伝わる反動でわかる。取り回すには少し重く、圧倒するには重みが足りない。膂力が足りない分だけまだ致命打に届かない。
     ふらつきもせず魔物が真っ直ぐ体当たりを仕掛けてくる。大して距離もないのに、飛べるとは思えないほどの密度の突進を腹で受ける。思わず息が詰まって、準備していた魔法が不発になる。あと2発喰らえば確実にフラスコ行きが約束される代物なのがわかってしまう。悠々と元の位置に戻ろうとした魔物は、横から飛び込んできたシクロに殴り飛ばされる。二、三度小さく震えた後、小さな薬剤を落としてそのまま塵になった。
    染みていた魔物の体液が塵になっていく。シクロが軽く叩くだけでグローブの見た目は随分マシになった。
    「ふーん、このくらいで死ぬんだコイツ」
    「知らなかったの?」
     だとしたら随分と攻撃に躊躇がない。獲物越しでも水気を含んだ何かを殴る感覚はわかる。接近戦なのだから、リネの空気よりも濃い腐臭だって嗅ぎ取れる。私だったら、見た目が不気味な、しかもどのくらい殴れば倒れるかわからない魔物に殴れるほど近くまで近づこうとは思えない。
    「そりゃ俺1人で来るような場所じゃねぇからな。ここに来た経緯を思い出してみろよオジョウサマ」
     小馬鹿にされているのは癪だが、思い出すまでもない。ユリノヴァの様子がおかしくなったのがきっかけだ。
    「ユリノヴァが来たがったからでしょ?確かにアンタに用事はないわね」
    「おー、えらいえらい! そっちじゃなくて転送場で何言われたかだ。……「お友達」だろうと1人でうろつく場所じゃねぇんだよ。テント戻るぞ」
    「プチボトル使えば良くない?」
    「このペースで使ってたら破産するぜ。お嬢様には縁遠いオハナシだろうけど! 魔法陣ナシでフラスコ往復する羽目になりたいんならどうぞ?」
     そう言ってシクロは背を向けた。
     「お友達」の白い衣服に、道具袋すら持たない軽装は視界の悪い中でも目立つ。青フードがその辺を歩いているのとは訳が違う。
     ふと思い出す。使用人に折檻するときは適当なものを使った。あの変態から逃げる時には、近くに転がっていた万年筆を肩に突き刺してやった。今だってネガの魔物を素手で殴っなんとかできるとは思わない。
     生き物に効く攻撃は魔物にも効く。魔物を倒すなら突いても焼いても切っても良いし、薬を使っても動きが鈍る。もちろん殴ったって良い。目を背けたくなるような魔物に触れることに躊躇しないなら、何をしてくるか分からない未知の魔物の懐に飛び込むことができるなら。
     フラスコに居るのはディエミお墨付きの使える人間で、使える道具は使うのがここのやり方だと知っている。だが、剣を持つより拳で殴った方が強いなんてあり得るだろうか。
     ユリノヴァの手をひきながら、薬剤を拾い終えたクワロが合流する。獲物を強く握り直して、シクロの背を追うことにした。
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