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    sumire421232

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    sumire421232

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    若補佐+いぬ

    #おそカラ
    slow-witted

    若頭補佐と補佐犬の邂逅「カラ松兄さん、お手」
    「カラ松兄さん、おすわり」
    「カラ松兄さん、ほれ、おやつあげるからあれやって。ちんちん」
    「カラ松、ちんちんじゃ、ちんちん」
    楽しそうに吠えながら、その場でくるくると回る灰色のボディ。
    「よしよし、ええ子じゃなぁ~」
    おそ松は笑顔でそのふわふわとした毛並みの背中と、嬉しそうに揺れるしっぽの付け根を撫でた。
    「ほんにかわええのう、カラ松は」
    松能家の畳の大広間。
    兄弟たちがこぞって、灰色のボールみたいなまるい犬に芸を教えている。
    その犬は元気に吠えながら、短い手足を使って一生懸命芸をして、おやつのクッキーをもらっては喜んでいた。
    「……………」
    その様子を、松能組若頭補佐である「カラ松」は冷めた目で見降ろしていた。
    「ほれ、カラ松。おもちゃじゃ。わんわん」
    「カラ松にーさん、とってこーい」
    「なあ……」
    「あ? 何じゃカラ松兄さん」
    「この犬をオレの名前で呼ぶんはやめてくれんか……」
    スマホで犬の写真を一心不乱に撮っている末弟に耳打ちすると、
    「もうこの名前で覚えちゃったし、みんなも慣れちゃったけえ今更無理じゃ」
    とあっさり断られた。


    カラ松のお勤めが終わり、刑期満了で刑務所から出てきたのが二か月前。
    5年ぶりの実家だった。自分が唯一気を緩められる、安心できる居場所。
    5年前に家を出たときから何も変わっていないだろうと思っていた。しかし、かつて自分の居場所だったそこには、見たことのない“新入り”がいた。
    若頭補佐代理という役職をもらい、若頭といつも行動を共にする、もっちりした丸形体系の犬。
    ブリーダーが知り合いにいるという弱居組の組長から「番犬に」ともらったらしい。
    その犬は、兄弟からはシベリアンハスキーだと聞いていた。しかしカラ松はその言葉をいまだに疑っている。“それ”はカラ松の知っているシベリアンハスキーとはまったく異なる形状をしていたからだ。
    ハスキーは狼に似ていて目つきももっと鋭くて、顔つきはしゅっとしたクールな大型犬だったように思う。目の前でしっぽをぶんぶんとふっている灰色の犬は、まるいボディと短い手足。本来のハスキー犬とは似ても似つかない、まるでボールか毛糸玉のようなまんまるのからだをしていた。最初こそ子犬だと思っていたが、このフォルムで成犬だというのだから驚きだ。
    しかし問題はそこじゃない。
    問題はその犬の名前が、自分の名前と被っていること。
    「おそ松兄さんが名付けたんよ。カラ松兄さんがおらんくて寂しいからって、犬のことカラ松って呼んでさ。それが皆に移っちゃったんよ」
    「おそ松!」
    「違うって。名づけよう思うて名付けたわけじゃないんよ。癖でカラ松カラ松言うてたら犬が反応して、自然にそうなっただけじゃ。のお、カラ松」
    とってきたおもちゃを咥え、わぅん、と一声。おそ松を擁護するかのように鳴く灰色のかたまり。
    自分の名前を“カラ松”だと理解しているのだろう。名前を呼ばれたからかぴんと立った耳がぴこぴこ動く。
    「それに見てみい、このキリっとした眉毛と間抜けな顔。お前によう似とるじゃろ。じゃけえ自然とそう呼んでしもうたんじゃ」
    「間抜けは余計じゃ」
    おそ松の顔を睨んだ後、足元をくるくると元気に回って遊ぶ丸い犬に視線を落とした。
    「お前がおらん間、立派に若頭補佐代理を務めてくれた優秀なわんこじゃ。……お前も可愛がってやってくれ」
    おそ松もそのかたまりに目をやり、優しく微笑む。
    「……」
    はふはふと息を切らし、遊んで遊んでと言ったようにカラ松の足にまとわりつく毛玉。カラ松は一つ息をついてその場にしゃがみ、言われた通りに“カラ松”の背中を撫でてやる。
    ふわふわとした毛並みを掌でさすり、ぴくぴくと小刻みに動く耳も触る。
    あったかくてかわいいな、と素直に思う。
    動物、とくに犬は好きだった。主人に従順で、強くてかっこいいから。カラ松が憧れた極道の精神と同じように思う。
    でもこの犬はどうだろう。人懐っこく従順ではあるが、かっこいいよりもかわいい寄りだし、この短い手足ではろくに攻撃することもできないだろう。番犬や補佐のかわりとしてではなく、愛玩ペットとして可愛がった方が良いように思う。

    そんなことを思っていると“カラ松”は灰色のボディを反転させ、腹も撫でてほしいと言わんばかりにカラ松の足元にころんと転がってきた。そのままふわふわの白毛の腹部を撫で続ける。
    「ほいじゃけどオレが名前呼ぶとき困るん………、ありゃ、なんじゃこの子」
    腹を触っていたら指にざらりとした変な感触があった。
    毛をかき分けてみると、そこには3cmほどの縫合痕が痛々しく残っていた。
    「おなかにキズがあるで」
    「これは手術痕じゃ」
    「手術? 何か病気でもしたんか?」
    「怪我したんよ。……お前の腹にも、同じとこに傷跡あるじゃろ」
    おそ松が、ふいにカラ松の腹をシャツ越しに触る。
    右胸下の腹部にある、5cmほどの刃傷。「いっ……」親指でおされると鈍い痛みが走るほど、縫合してもらったばかりの真新しい傷跡だ。
    出所してすぐに刺されてしまう運のなさはもはや天性のものと言っても良いくらいだ。
    「こがぁなとこまで似とるたぁ、不思議なもんじゃな」
    “カラ松”は分かっているのか分かっていないのか、眉だけをきりりと吊り上げて「わうん」と鳴いた。そのままおそ松のそばまですり寄っていき、甘えたように腹を見せて転がる。おそ松はその腹を撫でながら、右腹に残る傷跡も優しくさすった。
    「この傷はな、俺を庇ってできた傷なんよ」
    そう語るおそ松の横顔は、少しだけ悲しそうだった。


    ・ ・ ・

    ―――遡ること四か月前。
    カラ松がまだ刑務所で規則正しい生活しているとき。
    松能の広間では、出川版組の若頭と若衆がずらりとおそ松を取り囲んでいた。
    「本来ならレンガ積んでもらうところを、われの指一本でナシつけてやる言うとるんじゃけえ、うちの親父は優しいじゃろ」
    レンガとは一千万円のことだ。
    出川版組の若頭はにやにやとしながら、正座で指をそろえるおそ松を見下ろしている。
    その目の前には、指を切断するために用意したまな板とノミ、鎚、新聞紙、血止めのための紐ゴムが置かれてあった。
    おそ松は無言でノミを右手で持ち、まな板の上に左手の小指を置く。
    ――ことの発端は、松能組の若衆が無断で違法ドラッグを密売していたことにある。出川版組の領地で売り、こともあろうか警察に見つかり、そして売買地であった出川版組のカジノ店もそのまま摘発されてしまったのだ。出川版組組長は好機だと言わんばかりに松能に攻入り、賠償金を要求してきた。確かに部下の管理不足は松能組の落ち度である。しかしそんな大金は用意できない。それならば、と条件に出したのが松能組トップの指だった。今日日一銭にもならない指詰めなど誰もしないというのに、金と引き換えにおそ松の指を欲しがるのはただの嫌がらせである。組長は海外に行っていて不在、若頭補佐はお勤め中で不在。おそ松しかこの場を納める者がいない今、おそ松は黙ってこの条件を飲むしかなかった。
    指の切断は失敗の証。指がない極道は死ぬまで馬鹿にされる。それが相手の狙いだ。
    しかし、これで松能を守れるならば仕方ない。指くらいくれてやる。
    おそ松はひとつ大きなため息をつき「しゃあないのぉ。俺の指、大事に持っとけよ」と、啖呵を切ってノミの切っ先を小指の第二関節に押し当てた。
    そのときだった。
    「わん!! ワンワンワン!!」
    ふすまの向こうから甲高い犬の鳴き声がして、全員が一斉に振り返る。
    障子を破り全速力でおそ松の元に駆けつけてきたのは、
    「カラ松!?」
    「なんじゃこの丸い物体は。犬、か……?」
    灰色の球体がおそ松の前に憚り、人垣からおそ松を守るように吠え続ける。
    「カラ松、危ないけえお前はくるな! ここは遊ぶ場所じゃない」
    「グルルル……」
    おそ松の言葉に耳を貸すことなく、牙をむき出しにして威嚇する。おれのおそまつにちかづくな、と言っているようだった。
    「邪魔すんなや、犬ッコロが。あっちいけ」
    出川版組の若頭が、“カラ松”をどかそうと手を伸ばす。
    その瞬間。
    「っだあ!!」
    カラ松は鋭い牙で男の腕に噛みつき、肉を食いちぎる勢いでその肉に歯を食い込ませた。
    「なんじゃこのクソ犬!はなさんかい!!」
    男はぶんぶんと振りほどこうと腕をふるが、カラ松は絶対に離さなかった。男の腕からは血がしたたり落ちている。
    「グァルルゥウ、ヴーーーッ」
    「っい……」
    腕に食いつきながら唸るカラ松の声は、いつもの抜けているような鳴き声ではなく、本物の獣の咆哮だった。
    「離せクソ犬!!」
    鈍い音がして、“カラ松”のからだは吹っ飛ばされた。
    「きゃうんっ」
    他の組員が横からカラ松を蹴り飛ばしたのだ。
    カラ松はぼてん、と畳の上に落ち、その丸いからだはごろごろと転がって破れた障子戸にあたって動かなくなった。
    「カラ松!!」
    おそ松の叫び声に、きゅう、と鼻を鳴らすような声だけが聞こえてきた。
    犬に食いちぎられた腕を抑える出川版組若頭と、おろおろとする付き添いの若衆たち。
    犬を蹴り飛ばした男の顔面は蒼白だった。目の前にいるおそ松が、この世の物とは思えない、まるで鬼のような貌をしていたからだ。
    「われ、誰のもんに手ぇ出したかわかっとるんじゃろな」
    おそ松は怒りに声を震わせながらゆらりと立ち上がる。
    右手にはノミ、左手には鎚を持ちながら、“カラ松”を蹴った男の顔を見据えて言った。
    「五体満足じゃぁ帰さんからな」


    ・ ・ ・

    「っつって、ソイツの顔面をノミで砕いて病院送りにしたんよ。んで、その後は乱闘になっちゃったんじゃけど、結局その騒動に乗じて俺の指詰めはなかったことになったんじゃ」
    おそ松が笑うと、カラ松以外の兄弟も笑った。
    「あんときは大変じゃったね~」
    「今でも壁に穴あいたままなんよな」
    全然笑えないし笑いごとではないと思うんだが……、とカラ松は思ったが空気を読んで言わないでおいた。
    遊び疲れてうとうととしている“カラ松”を抱え込みながら、おそ松は腕の中にいる勇敢な球体を見つめる。
    「オレがいない間に、そがぁなことがあったんか……」
    「じゃけえ今でも俺の指は十本そろっとる。……こいつのおかげじゃ。こいつは立派に若頭補佐を務めてくれたんよ」
    カラ松は、おそ松とおそ松の腕の中にいる “カラ松”を交互に見つめる。腹の白毛に埋もれているその傷は、主人、いや、組の若頭を守った立派な勲章だった。
    「蹴られたケガはもう大丈夫なんか」
    「吐血があったけえ、骨が内蔵に突き刺さっとったらまずいゆうて動物病院つれてって手術したけど、中身は何ともなかった。内臓も脂肪で守られてたみたいじゃ」
    そう説明しながら、犬の頭を軽く撫でる。
    「まんまるじゃけえ、ボールみたいにバウンドしただけですんだんよ」
    「丈夫じゃなあ」
    「誰かさんとそっくりじゃ」
    「オレぁこがぁに丸くない」
    すかさず反論するとおそ松も「そりゃあわかっとるって。丈夫なとこが似とるの」と窘める。
    「それに、……組のために身体を張って危険を冒す勇敢なところと、危なっかしくて放っておけんところ、従順でかわええところが、お前とそっくりなんじゃ」
    「……」
    あまりにも愛おしそうな視線を“カラ松”に投げかけているものだから、カラ松はなんだか照れ臭くなっておそ松から視線を落とす。
    おそ松の腕の中に抱かれ幸せそうな顔をしている球体。
    最初見たときはあまりの間抜けなフォルムに番犬としてさえ役立つかどうか不安だったが、話を聞いて安心した。
    松能の若頭を守る、立派で勇敢な犬だ。
    「……オレがいない間、おそ松の補佐役勤めてくれてありがとうな」
    カラ松がそっと“カラ松”の顎を撫でる。寝ぼけ眼の“カラ松”は、「わぅん」と誇らしげに鳴いた。
    「でも、今はオレがおるから安心しんさい。今後はオレが若頭補佐としておそ松を守ったるけえ、お前はおそ松の補佐じゃのぉて、普通の番犬としてのんびり過ごしてええからの」
    カラ松がそう言って手を差し伸べると、
    「ばう」
    「いてっ。いたたたた」
    “カラ松”はその手に噛みつき威嚇してきた。
    「な、なんで噛むんじゃ!? 褒めたのに!!」
    その様子を見ていたトド松が、「犬のカラ松兄さん、自分のこと本気で松能家の若頭補佐じゃ思うちょるから……」と擁護し、その言葉にかぶせるように一松も「おそ松兄さんをとられる思うて嫉妬しとるんかも」と言った。
    「なんじゃあ……やきもちか?」
    「ぅあん!!」
    がぶがぶと手を噛みながら、“カラ松”は激しく吠える。
    「いだだ」
    若頭補佐の座は、誰にも譲る気はなさそうだ。
    嫉妬深い灰色のまるを見つめ、カラ松は深いため息をついた。
    「まったく、誰に似たんやら……」






    ~~~~~~~~~~~~~~~

    後日談。

    嫉妬の化身・鬼女の墨の通り、おそ松が絡むと途端に嫉妬深くなるカラ松と、自分のことを若頭補佐だと信じてやまないハスキー犬の“カラ松”で、おそ松を取り合う熾烈なバトルが繰り広げられるのではないかと兄弟たちはハラハラしていた。
    しかしそれも、弱居組の組長から「あの犬一匹だけじゃ可哀想じゃけえ、この子もやるわ」と柴犬を渡されたことで杞憂に終わった。“カラ松”のようにぽってりと丸い柴犬は、“カラ松”と顔を合わせるやいなやすぐさま意気投合し、まるで昔からの旧友であったかのように毎日一緒に遊ぶようになった。
    「いやー良かった良かった、あいつに番ができて。これで俺のために身を挺して危険なことしなくなるとええんじゃが」
    「ほうじゃのぉ。勇敢なのはええが、おそ松を庇ってケガが多くなるのは心配じゃけえ」
    「それお前にも言えるけどね」
    庭で元気よく駆け回るふたつの球体を軒先で見つめる。
    「あの柴と仲良うなってから、俺にかまけることも少のうなってちぃと寂しいが、これでお前らが俺を取り合うこともなくなるし良かったよ」
    「取り合う?」
    「お前といちゃいちゃしとると犬のカラ松がわんわん吠えて構ってモードになるし」
    思い出してみると確かに、夜ふたりで酒を飲んでそういう雰囲気になったとき、必ずと言っていいほど“カラ松”が邪魔しに来ていた。そのおかげで随分ご無沙汰だ。
    「逆に犬のカラ松を可愛がっとると嫁さんの方のカラ松が鬼女みたぁに嫉妬するけえ、毎回胃がキリキリしとったんじゃ」
    「バカ。犬に嫉妬するわけないじゃろ」
    「またまたぁ。こないだ犬のカラ松に向かって、「オレがおそ松の若頭補佐じゃけえ」って言っとるの聞こえたよぉ」
    それ以上言うなといったように頭を殴られる。
    「痛いっ。もー殴ることないじゃろ!」
    「それより、そろそろあの柴犬にも名前つけてやらんと」
    カラ松の目線が庭に移る。視線の先には、飽きずにじゃれあう毛玉たちがいる。
    “カラ松”の上に柴犬が乗っかったと思ったら、ころんと転がって今度は柴犬の上に“カラ松”が乗っかり、わちゃわちゃとじゃれている。
    「あーそうね。どうしようか。マツダブライアンとかは?」
    「それ昨日お前が単勝で当てた馬の名前じゃろ」
    「うーん。じゃあ、スケベそうな顔しとるしパイ太郎とかでええんじゃない」
    「却下」
    冷ややかな視線がおそ松の横顔に注がれる。
    「……実はもうすでに考えてあるんじゃけど」
    「えっ、カラ松が考えてくれたん? どんなん? あっでもギルティなんちゃらとかイタいのはやめてね」
    「おそ松」
    「ん? 何?」
    「じゃけえ、おそ松じゃ。あいつの名前はおそ松」
    「え!? おそ松!? 俺と同じ名前じゃん。やねこいからやめてよぉ」
    「お前が最初にそうしたんじゃろ!……もう決めたことじゃ。あいつはおそ松。絶対に変えたらん」
    「えー……」
    「あのスケベそうな顔と、競馬中継のときだけテンションあがる様がお前に似ちょる」
    「俺、あがぁに丸くないのに」
    「そうか? 腹とか出てきたけどな」
    ふてくされるおそ松の脇腹をつつきながら、カラ松は笑う。

    「それにやっぱり、“カラ松”には“おそ松”がおらんとな」
    庭で元気にじゃれあう二匹は、本当の番のようだった。
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