X年後の夢「おやすみなさい。よい夢を」
別れ際にあなたがそう告げるのはいつもと同じ言葉。
そして寂しい気持ちを抑え込ながら頷くのも毎度のこと。
だけど、その日のあなたの瞳はいつもと違っていた。
切なげで、寂しげで、だけど、その奥に温かく優しい光が灯していることに気がつく。
「もしよろしければ、の話ですが」
そう言って跪く。
思いもよらない行動をとられ戸惑う私に、さらに信じられないような言葉が投げ掛けられる。
「私と共に人生を歩んでいただけませんか?」
そして、私の目に映るのは月の光を反射し、燦然と輝く指輪。
先ほど告げられた言葉と目の前にある物質。これらを合わせると彼が伝えたい言葉はただひとつ。
「ええ、もちろんです……」
自分の頬に涙が伝うのが感じる。温かく、静かに。
そっと手を引かれ、私たちは歩を進める。同じ速度で、ゆっくりと。
「断られないかと不安だったのです。あなたを随分と待たせてしまいましたから」
隣で溜め息のように言葉が漏れてきたのは少し経ってから。それを聴いてあらためて思う。
気持ちは重なったはずなのに、彼の事情を鑑みて耐え忍んできた日々を。
だけど、それはもう終わり。これからはふたりで新しい日々を築き上げることができる。きっと。
同じ場所に帰る私たちを月が優しく見つめている。そんな気がした。