10私と悟の無事が分かると、おじいちゃんは私たちを抱き締めて人目も憚らずに声をあげて泣いた。
「二人とも無事で良かった」と何度も言っていた。
その後2人の母におじいちゃんは〆られていたが、私は結界オーライだったと母たちを宥めた。
悟は文字通り私から離れなくなった。
食事は隣の席、寝る時はお昼寝だろうと同じ布団に入って手を繋ぐ。絵本を読む時は抱っこをする。
お風呂は前々から一緒に入っていたが、トイレにまでついてくるようになり、それだけはご遠慮頂いたらトイレから出るまでトイレのドアをノックし続けるという新しい嫌がらせ(?)を悟は覚えた。
私から出たと思われる球体は、球体のままそのまま残った。半径2メートル程の球体なので、呪力がある人間ならどこにいても私を見つけられたと思う。そしてその球体は、呪力をもったモノの侵入を防いでいるのだろうと考えられた。
メガネをかければ見えるようになった呪霊を使った実験でも、呪霊は球体に触れた瞬間に消滅したし、術式による攻撃も全て消してしまった。これには五条家の人間全員が驚いていた。
困ったのは、呪力を持った人間を弾いてしまう事だった。しかし球体の内側に入れる人間もいたので、私が無意識のうちに許可した人間は呪力があっても球体の内側に入れるようだった。
広い屋敷内で知らない顔に出会うと弾いてしまい、外でこれをやると大変な事になる。そこで私は球体を小さくするために試行錯誤した。
一年もすると、私は球体の大きさ、形を自由に変える事ができた。普段は自分の体と同じ形にしておくことができるようになったので見知らぬ呪術師を弾く事もなくなった。
4歳になった悟は少しずつ無限を操る事ができるようになり、新しいいたずらを毎週かましてくれた。お風呂ではシャワーを無限で弾かれ、なんとかしてシャンプーをさせたい私の努力をゲラゲラ笑い、湯冷めして仲良く風邪をひいて怒られ、トランプをやれば悟が引かれたくないカードは徹底的に無限のガードをされて惨敗し続けた。
その頃から、悟は私に纏わりつくのをやめた。
嬉しくも寂しくもあったが、それは人目がある時だけで、二人きりだと相変わらずぴったりくっついてきて、ことあるごとに「実は俺と一緒にいなきゃダメ」と瞳を潤ませて訴えてきた。
天使のような顔でそんな事を言われたら「一緒にいるよ」以外の言葉が言えるわけもなく、私の返事を聞くや否や頭の中では次のいたずらを考えている悪魔のような悟だったのは言うまでもない。
5年生の秋に初潮を迎えた。
両家をあげて盛大に祝ってくれたが、悟は何のお祝いかも分からず、ただただご馳走が並んでいることに満足しているようだった。
4人の親たちは相当仲良くなっていて、私たちがご馳走に飽きて遊んでいる横でお酒を飲んで談笑していた。
「実が11歳で、悟が5歳。6つ離れてるのかぁ」
「今時6つなんて大したことないわよ」
「だよなぁ。こんなに一緒にいて仲良くしてるしなぁ」
「悟が実以外は受け付けなさそうだしな……」
「無限で触れる事すら許さなそう……ぷぷっ」
「引き離しちゃダメよ。絶対。」
「また大変な事になっちゃう!」
「では、そういうことでいいですかね?」
「異議は認めませんよ!」
「じゃあ、悟が法的に入籍できる年齢になったらということで……」
「異議あり!」
私は叫んだ。
「私、弟と結婚するの?!」
親たちが固まった。
「実は姉貴じゃねぇし」
「悟は黙ってて!!」
「俺は実と結婚するー」
「あんた結婚って何か知ってる……?」
「知ってて言ってるけど。実は子供何人欲しい?」
悟はたたみかける。
「てか実さ、俺と一緒にいるって言ったの嘘だったの?」
ニヤつく悟を見て私は目の前が真っ暗になった気がした。
親たちはうふふおほほと微笑ましさ全開という眼差しを送ってくる。
私に拒否権はないらしかった。