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    いぬさんです。

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    いぬさんです。

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    57話目です。

    57「げとう…すぐる…?」

    「そう。片目の六眼の件で一枚噛んでるらしい。桜子さんが教えてくれた」

    「桜子さんが……」
    悟の親友の名前を初めて聞いた。
    彼も名前の最後に「る」がつくのだな、とぼんやり思う。

    「黒髪で長髪、長身で五条袈裟を着てる男を知ってるだろうって言われたんだ。傑しかいない」

    「夏油さんがどう絡んでるの?」

    「わからない。首謀者ではないし、片目の六眼との関わりもそれほど無いらしいけど多少協力してるみたいだ」

    「分かった。覚えておく」

    「実。傑は非術師を良く思ってない。昔は非術師を守るべき存在だとはっきり言ってたけど、天内って女の子を死なせた後から考えが変わった。非術師がいるから呪霊が生まれる。非術師がいなくなれば呪霊もいなくなるって」

    「え……それって非術師を……」

    「皆殺しにしてもいいと考えてる」

    「そんな……どれだけ非術師がいると思ってるの……」

    「傑も分かってる。それを俺ならできるのも」

    「悟?悟はまさかそんなことしないよね?」

    「しない。非術師を守らなきゃいけないって俺に教えたのは他でもない傑だし、一番守らなきゃいけない存在は非術師の実だから」

    「びっくりしたよ……」

    「いつか傑と直接やりあわなきゃいけない日が来るって思ってるけど、今回ではないらしい。今回は面白がってるか小手調べみたいなもんなんだろうな」

    「やりあうって……。親友なんでしょ?話せないの?」

    「できればいいんだけどね。傑は頭もいいし、元は俺と同じ特級呪術師だから難しいな」

    「そう……」

    「実は非術師だ。実の存在を知ったんだろうな。傑は実に多分容赦しない」

    「夏油さんに私の事を話したことなかったの?」

    「ない。入学当初は実がどこにいるかも俺は掴めてなかったし、札幌にいると分かってからも何より実の安全を最優先してた」

    「そっか……」

    「傑を失って、最愛の人間まで失ったら俺が『堕ちる』と傑は考えてると思う。だから面白がって手を貸したんだ」

    「堕ちる?」

    「俺もはっきり言って自信ない」

    私は悟をぎゅっと抱き締めた。

    「悟は大丈夫。悟は夏油さんみたいにはならない。だって私の悟だもの」

    「術師としての善悪は傑で作られた。人間としての善悪は実で作られた。俺に善があるならそれは全部実のおかげ」

    「全部って、そんなことないと思うけど…」

    「そうなんだよ。だから、側にいて。俺が堕ちないように」

    「分かった……ずっと側にいるからね……」




    悟の誕生日会からは驚くほど穏やかに時間が過ぎていった。
    私と悟は御披露目会の準備の名目のもと、仕事を休んでいる。休んで家で寛いでいた。またもパパが用意してくれた五条家の家紋が刺繍してある着物の試着等はあったがそれくらいで、招待客などはパパが全部管理していて、「このひとたちが来るからね」とリストを渡されたくらいだった。
    リストに書かれた人は知らない名前ばかりだったが両親と桜子さんの名前もあった。桜子さんについては、桜子さんから出席したいと申し出があったらしい。
    桜子さんから一度だけ連絡が来ていたが、とくに真新しい未来は見えていないとのことだった。何か見えたらすぐに連絡してくれるそうだ。



    お披露目会を明後日に控えた夜、私と悟はいつも通りに過ごしていた。
    静かに、穏やかに。
    私は悟に甘えたい気持ちがとても強くなっていて、仲良ししたいと毎晩私からお願いしていた。悟は毎回微笑んで「いいよ。しよう」と言ってくれた。その晩も私は悟の腕の中にいた。あと何回こうして悟の腕の中で甘える事ができるのだろう。考えると涙が溢れるのでできるだけ心と肉体が喜ぶことだけに集中した。

    愛し愛され満たされた後、私たちは他愛のないおしゃべりをしていた。そろそろ寝ようかという話しになったが、私はふとトイレに行きたくなった。

    「私トイレ行ってついでに飲み物取ってくる」

    「うん。行ってらっしゃい」

    悟の腕から抜け出すと寒かった。ベッドの脇に散乱しているパジャマとフリースを着込んで部屋を出た。
    トイレから出て台所に行く途中、何か聞こえた気がした。気のせいかと冷蔵庫を開けてお茶のペットボトルを1つ取って冷蔵庫を閉めた。部屋に戻ろうと振り向いた瞬間、後ろから大きな手で口を塞がれた


    「叫ばないでください。危害を加えるつもりはありません」

    叫ぶもなにも手のひらと口がぴったりくっついていて口が開かない。
    聞いたことのない男性の声。
    今まで悟とくっついてたからバリアはない。でももうすぐ再構築するはず。
    外には結界師も夜勤の呪術師もいるはずなのに、どうやって入ったのだろう??

    「いろいろ考えてますね?抵抗しないのは賢明な判断です」

    落ち着いた声音。
    必死で聞いたことがないか考える。
    しかし浮かばない。
    顔だけでも見てやろうと首だけ動かそうとしてもぴくりとも動かせない。凄い力だ。

    「私の顔が見たいですか?」

    微かに首を縦に動かす。

    「いやぁ。噂通り素直な女性ですね」

    笑っている。
    気持ち悪い______


    「では、冷蔵庫に背中を向けましょうか。ゆっくり動いてください」

    口を塞がれたままゆっくり振り返ると、目の前に大きなサバイバルナイフが現れた。ナイフが両目の視界を遮っていて顔が見えない。

    「あなたに呪力が無意味なのは分かっています。これは普通のナイフです。一瞬であなたの首を掻ききれます。騒いじゃダメですよ?分かりましたか?」

    私はまた頷いた。
    口を塞いだ手はそのままだが、ゆっくりとナイフが首もとにおりてきて、そのまま喉の皮膚に当てられる。

    「初めまして。五条実さん」

    やはり見覚えはない。
    どこにでもいそうな風貌。背は悟よりずっと低い。年齢は私と同じくらいか。
    見覚えはないが左目が_____

    「六眼は、見慣れているでしょう?」

    この人がもう一人の片目の六眼。

    「実さん、あなた、自分から男の匂いがプンプンするの分かってます?」

    突然何を言い出すのか

    「セックスしたら、シャワー浴びないと」

    この人は______

    「五条悟の匂い、覚えましたよ」

    私のバリアはまだなのか。メガネをかけていないから分からない。
    ぞわぞわと鳥肌が立ってきた。
    この人、気持ち悪い。
    手を離して欲しい。
    くっついている所から体が腐っていくような感覚だ。
    そうだ。
    こんな時の為の黒いバリアだ。
    私は目の前にいる片目の六眼を見つめて集中した。

    「呪力がないっていうのは本当なんですね。でも私の無限は通過する。不思議ですねぇ」

    体から力が抜ける。
    無限?無限と言ったの??

    「そんなに不思議ですか?私もあなたと同じ五条の血筋ですよ?六眼こそ片目ですが」

    本当に無限なら黒いバリアは意味がない。
    どうしよう_____
    本当に吐きそうだ。口を塞がれたまま吐いたら窒息してしまう。私は必死で体を捻った。

    「今さら抵抗しなくても……!!」

    私はその場で吐いた。
    私が吐きそうだと気付いた男はさっと手を離した。

    「本当に吐きたかったんですね。すいませんでした」

    「悟ーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

    私は叫んだ。
    多分、人生で初めて助けを求めて大声で叫んだ。
    目の前の男がびっくりしている。
    遠くで私の部屋のドアが勢い良く開けられる音がする。

    「この人気持ち悪いよぉーーーーーー!!!!」

    「困りまし」

    男が言い終わらないうちに、私は悟に抱えられていた。

    「実!大丈夫か?!」

    「大丈夫だけどあの人気持ち悪い!!嫌!!」
    私は悟にしがみついた。

    「私への攻撃より愛しい女性の奪還を優先しましたか」

    「逃げなくていいのか?お前殺すよ?」
    悟からビリビリと殺気を感じる。

    「親族を殺しますか?」

    「関係ねぇよ。つーかお前は親族じゃねぇ」

    「同じ六眼なのに?」

    「くり貫いてメルカリで売ってやるよ」

    「怖いですねぇ。今夜は実さんを見てみたかっただけなのでお暇しますね」
    そう言うと男は口に手を入れて何かを吐き出す仕草をした。

    悟の瞳孔が開く。

    「お前……その呪霊……!!」

    「あぁ、これは借り物です。用が済んだら返さなきゃいけないんですよ」

    「そいつは傑の呪霊だよな?!」

    「あぁ。彼はそんな名前なんですね。まあ、元々は彼の呪霊でもないって言うじゃないですか」

    悟が歯ぎしりする。

    「ちなみにこの呪霊を貸してくれた彼も実さんに会ってみたいって言ってましたよ」

    男がニンマリ笑う。
    気持ち悪い。また吐きそうだ______

    「まずは俺に会いに来いって言っとけ」

    「実さん、また吐いちゃいそうですね」

    「実?」

    悟が私を見た瞬間、男は床の影に落ちるように消えた。
    私は悟の腕から抜け出すと今度は流しに吐いた。

    「実!」

    「大丈夫……見ないで」
    もう胃液しか出ない。

    「分かった。見ないけど背中さするから」


    落ち着いてから「俺がやるから」という悟を座らせて自分が吐いたものを片付けていた。

    「あいつが桜子さんがいってた片目の六眼だったらちょっとマズい」

    「強いってこと?」

    「呪力量が多分俺と同じくらいあった。そんなヤツ見たことない」

    「悟……あの人無限があるって言ってた。私があの人の無限を通過するって」

    「無下限術式持ってる?片目で……?」

    悟はそのまま考え込んでしまった。

    「悟?申し訳ないんだけど私お風呂に入ってくるね?あの人に触られたところが気持ち悪くて」

    「一緒に行く」

    お風呂にお湯をためている間に私は体をボディタオルで洗った。洗って、流して、また洗った。3回目を終えて4回目に洗おうとして湯船に浸かっていた悟に止められた。

    「実。皮膚なくなるからやめて」

    「……気持ち悪いのよ…汚されたみたいで……」

    「大丈夫だからおいで」

    私はおとなしく言われた通りにした。湯船の中で後ろから抱き抱えられて少しホッとした。

    「……触られたところから腐っていくような感じがして凄く気持ち悪かった。尋常じゃないくらい鳥肌が立ったの」

    「俺の領域と真逆だな」

    「……あぁ、そうかもしれない。とにかく気持ち悪かった。2度と触って欲しくないし会いたくない」

    「セーフルームに行く?あそこなら知ってる人間少ないし」

    「あの人、影の中に消えたんだよ?多分どこにいても無駄だと思う」

    「なんかの呪霊を使ったんだろうな…だからポンと家の中に入ってこれたんだ」

    「……私あの人嫌い……」

    「俺も嫌い。実のあんな叫び声初めて聞いた。アイツは許さん。でも俺の名前叫んでくれてちょっと嬉しい」

    「他に何を叫べばいいのよ」

    「きゃー!とか?」

    「……今度はそうするわ」

    「えぇー?俺の名前叫んでよ」

    「もう!」

    心も体も落ち着いたのでお風呂から上がり、悟が夜勤の呪術師さんたちに家の中も巡回するように伝えてから悟の部屋に戻った。

    「部屋の回りに帳降ろすから安心して寝ていいよ。俺と実しか出入りできないようにするから」

    二人でベッドに入り、しばらく寝付けずにいたがやがて眠りに落ちた。


    お披露目会まであと2日。






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