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    鴉の鳴き声

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    鴉の鳴き声

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    あったかもしれない世界線「まだ…いや、もうと言うべきか、あれからもうすぐ1年か…」
    俺は誰にいうでもなく呟く。
    側にいる男は俺の呟きに言葉を返す事はなく、黙って墓の手入れをしていた。

    あの時以来ぷつりと消息を絶った彼と再開したのは本当に偶然だった。
    ラノシアから随分と離れた黒衣森、依頼で偶然見つけた小屋で
    見間違えでなければ久しい顔を見かけた。
    だが男に声をかけても禄に返事は無く、生きているかもあやふやで、ただ力無く動いているだけであった。

    久し振りに見かけた男は以前よりも痩せており、よく見ると片脚を少し引きずっていた。
    一度だけ診てみたが、怪我をしたまま禄に手当てもせず悪化してしまった様だ。
    怪我の手当てもしなかったのかと問うたが、彼は「別に…」と短く返すだけだった。

    俺も大切な人を亡くした経験はある。だが互いにその哀しみは計り知れない。
    俺のそれを彼と同じように扱うのは…きっと失礼になってしまうだろう。
    俺の場合は嘆きと怒り、憤りが身を焦がした。
    だが彼の場合は只々失意の海に深く沈んでいった。

    再会して以来、俺は少しばかりの食糧や生活品を持って月に何度か彼の小屋に足を運んでいた。
    彼は邪険にする事も歓迎する事もなく淡々と動いていた。
    だが過去に俺が持ってきた物にはあまり手を触れていない様だった。

    彼はよく木の破片で動物を彫っていた。
    何故作るのか気になり何度か問うてみたが、答えは無かった。
    だが彼は出来上がったそれを丁寧に墓に供えていた。
    彼の大切な人が好きだったのか、もしくは過去に同じ事をしていたのかもしれない。

    ある日、男は独りで小屋で朽ちていた。
    痩せこけた身体は嘗て刃を交えた姿とは程遠い。
    幸運にもまだ死後間もないのであろう。
    まだ虫に食い荒らされていない身体の為に俺は彼の大切な人の墓の横に簡素な墓を作った。
    せめて死後は独りにならない様。
    彼らは確かに生きていたのだ。彼らは確かにこの世界に在ったのだ。
    俺は祈りを捧げ、日常に戻っていった。彼らが在るべき場所で再会すると願って。
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