狐のお嫁さま ガランガランと鳴らされる鈴の音、パンパンと打ち鳴らされる柏手。今日はこれで何人目だ。もう数えんのもめんどくせぇ。
数年前までは、年始にだってこんなに人は来なかった。
周りに民家はあるとはいえ、この社まで辿り着くには、石段を登ってこなくちゃなんねえ。小さな山の上にあるかんね。だから、ふらっと寄って、お参りするには、ちょっと面倒な場所なんだよ。
それなのに、この参拝客の多さは何なの。
そっと社の中から外を見れば、長い黒髪を綺麗に結い上げた若い娘が必死に手を合わせている。
その娘が心の中で強く念じている想いが伝わってくる。
『お願いします。どうか、どうか、あの人と両思いに!』
また縁結びだ。
この娘の願いのように、好きな相手に想いが通じますようにという真っ当なものから、誰でもいいからとにかく恋人が欲しいという、必死なのかいい加減なのかわからない願いまで、様々な事を祈願されるが、そのどれもが近頃は恋愛事だ。
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