独り相撲「君は、グナース族を気に入っているね」
アルフィノが俺の横を歩きながら、ふと呟いた。そうかあ? なんて呑気な声を出しながらも、俺の腹の底は酷く冷えている。
「違うのかい? 彼らに随分と親切に見えたから」
「"光の戦士"はみんなに親切だよ、坊ちゃん」
「……そう呼ぶのはやめてくれと言っただろう」
不満げな顔をするアルフィノに、「はは、悪い悪い」と肩を竦めながら足を進めた。
チョコボの森には木漏れ日が輝き、俺たちの足音も乾いた音を立てている。
それなのに、俺の心は泥沼から這い出られずにいる。なんて根暗なんだ、と光の戦士が俺を笑う。煩い。お前だって俺なんだろうが。みんなに頼られる光の戦士、お前のどろどろとした部分こそが俺なんだろうが。
しかし、皆に心配されたくない、皆に自分の底の浅さを知られたくないと、そんな意地で生み出した仮面は呆れたように首を振る。馬鹿だなあ。俺はお前みたいなどうしようもない根暗さなんて持っていないよ。
だってお前の理想が俺なんだから。
「……ウォン?」
足を少し早めたはずなのに、俺の横にぴったりくっついて来ているアルフィノが訝しげに俺を呼ぶ。
「なんだよ」
「いや、少し顔色が悪いように見えてね。……大丈夫かい?」
聡明な坊ちゃんが小首を傾げる。その優しさに、俺の腹の底にある、冷たい泥がぐるぐると渦を巻く。
これは嫉妬だ。お前みたいになりたかった俺が、それでもどうしようもなく前に進めず、その場でもがき続けていることしかできない俺が、お前を見るたびに足を取られて一人溺れるくだらない泥沼だ。
俺は光の戦士なんて呼ばれる資格はない。そんな高潔さなんて持っていない。それにお前が気が付く時が来るのが恐ろしい。
「だぁいじょうぶだって」
泥を押し込め、欠伸まじりに答える。アルフィノは「それならいいが……」と不安げに呟いた。
「なんだ、心配してくれてんのか」
冗談まじりに問いかける。当然だろうと不満げにアルフィノは答えた。腹の奥で泥が跳ねる。俺が根っこからお前の信頼に応えられるような人間だったらよかったのに。
「大丈夫、大丈夫。俺はいつも通り。……そら、魔物だ。後衛は下がってな」
そう言って、まだ少しなにかもの言いたげな彼を下がらせる。
そう。これはいつも通りの独り相撲だ。
あんたみたいになりたくても、なれる訳のない凡人が、どうしようもない意地で出来た汚い泥に、一人、足を取られているだけなんだ。