幸福の味灰原雄が好きだと気が付くまで、馬鹿みたいに時間がかかった。
出会ったのは、大学生の頃。四年生の大学で、自分と灰原の学科は違うが、時々被る必修科目があった。
黒い髪に快活な性格。誰にでも優しく愛嬌があって、人のいいところを探すのがうまかった。
こんな不愛想で退屈な私に何度も笑いかけ、根気よく友人を続けていてくれた。
灰原の笑顔を見ると、まるで太陽を直視しようとしているみたいで、思わず目が細まってしまう。それがずっと不愉快だったのに、いつからかそれでもその笑顔に手を伸ばそうとしている自分に気が付いた。
七海、七海。
灰原に名前を呼ばれる毎に、自分の頬の強張りが少しずつ柔らかくなっていくのを感じた。
どれだけ疑って否定しても、自分が灰原雄に恋をしているのだという結論に何度も何度も行きついた。
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