執着を彫る素肌に針の刺さる感覚が響き、激痛に耐えながら肌に色が染る感覚を味わう。度々苦痛に漏れる声に、息を吐きながら汗が痛みに身体を伝う感覚が不快ながら、何処か快楽を感じていた。
一つ一つ彼が楔を掘り進める度に、四季は彼の愛を深く感じ幸せな心地になっていた。肌に一つ一つ色が彫られ、完成に近づく絵を入れ込む行為はこれで4回目である。慣れつつある針を刺し彫る行為に、四季は何処か痛みが快楽にかわりつつあり、彼が性的に手を滑らせる度に四季の身体はゾクリと肌が栗立った。
彼が墨を彫る度に、四季へ愛を刻む様に消えない絵を描く行為は彼の物に染る様に愛おしく、四季への執着を深める様に幸せな心地へとなったのだ。刻んで欲しい、また愛を深めて欲しい彼はどんな顔をしているのだろう。後ろから突き刺さる真剣な視線を感じ、四季は恍惚と息を吐いた。
京夜が四季に刺青を刻み込みたくなった時に、最初は彼の傷の無い素肌に消えない色を刻み込むのは反対の気持ちがあった。彼の肌は真っさらであるべきで、その肌は傷一つ無い無垢だからこそ愛しいのだと彼自身の全てを愛せるのだと色々と理由を付けて否定をする。だからこそ、京夜は段々と強まる四季への刺青を入れたい行為に頭を抱え悩みながら気づいたら彼の肌に刻む絵のデザインをしていたのだ。
頭を抱え振り乱しながら辞めろ、違うと否定するも自身は四季に消えない傷を刻み込みたいとの思いがあり、気づいた時には絵は完成していた時点で自身の気持ちを認める。その絵とは阿修羅とマリア像が炎に焼かれている絵であり、向かい合う彼等は地獄の死者の様に黒炎に焼かれる様子が紙の上の肌に描かれていた。
愛しい愛しい四季君、俺の愛を受け止めてくれないか、と内心呟くと四季が保健室に来た所で頭を下げ彼に願いを問う。
「四季君…お願いだ。君の肌に刺青を入れさせてくれ」
頭を下げ膝の上で握りしめられた手は震えながら京夜は彼の断罪を待つ。四季から得られた答えは意外なものであった。
「良いぜ。逆に待ってたぐらいだわ」
京夜は顔を上げると四季の幸せそうに笑う瞳に目を開き、彼の微笑む顔に思わず抱きついた。
「ありがとう…ありがとう……絶対最高な物を完成させるよ!」
「おう!待ってるぜ!!」
そこから京夜の四季への肌に楔を刻む行為は始まりを告げたのだ。
1日目
四季の肌に黒炭で骨組みを作る。絵を描くように淵を完成させ、マリア像と阿修羅の絵は完成した。夜中の保健室で、四季が抜け出してきた為に彼の肌に秘密になる様に刺青を隠せる能力を持つ鬼の血を塗り、京夜は四季を返す。特殊な血である為に洗っても落ちず、また血を塗らなければ模様は現れない。
四季は手を振り保健室を出て、京夜は息を吐いた。息が詰まる様な集中力と、静けさに針を打つ音だけが響く空間は何処か落ち着かなく京夜の心臓に早鐘を打たせたのだ。
2日目
阿修羅とマリア像の周りに黒炎の枠組みを彫る、赤と黒で色を付ける予定の炎を散らす様に配置し四季は痛みに耐えながらもまだ慣れぬ様に、度々声を上げながら息を詰まらせた。京夜はそれに罪悪感を覚えながらも何処か背徳感を得るその愛しさに、恍惚と息を飲んだのだ。
再び終わり、四季が手を振り保険証を出る。静寂に少し慣れ、神へ祈る様に神聖な行為の様に思えるそれは神を穢す冒涜に思え彼の肌が染る度に京夜の執着が刻まれている様で、目眩をする様にくらりと陶酔する快楽に包まれ机に手を付くと微笑んだ。
3日目
色を付け始めた。炎の色から塗り始め黒炎から色を塗り始める。四季が何故赤では無いのかと言っていたが、彼の扱う赤の炎は最後に入れたいと思い全ての作業を終えたら入れようと京夜は決めていた。
肌に黒が染る度に、彼の肌を穢し執着を刻む様なそれは愛おしく狂おしい程に素敵であった。無垢な子供を穢すようなその行為に京夜はすっかり酩酊する様に虜になっていたのだ。
4日目
黒炎が終わりマリア像に着手し出す。彼の慈愛を表す様を表したそれは、祈る様に十字架を持つ聖母に一つ一つ針を刺し完成に近づける行為に京夜は愛おしく思いながら、彼に刻む依存の様な証のそれはいつか完成させ真っ先に自分がそのマリアを抱いて穢すのだと決意をしていた。
四季が手を振り離れて行く。京夜は詰めていた息を吐くと笑い声を出しながら、四季に迷酔する様に堕ちて行く様に我を忘れながら狂っていく自分を気に行っているのだ。
5日目、6日目、7日目、8日目と過ぎていき最後四季の紅炎の色を染める時が来た。丁寧に慈しむ様に刻んでゆくその炎は、彼の使う炎の色と同じく調合した色合いに京夜は震える思いで最後の完成を待ち望み、一針ずつ刺したそれは最後の一つを染め完成したその墨を見て息を吐いた。
怒る阿修羅の隣りに佇むマリア像が慈しむ様に、反発する肌の中の神達は下界にいる人間に罰を与え、癒しを与え様とする様な物は四季の性質を表し、京夜は彼が更に愛おしくなった。四季へ全てが終わる事を告げる。
「終わったよ」
「今日の分も終わり?」
「違うよ。全作業終わったね。本当は腕や足にも彫りたいんだけど、負担が掛かるからまた暫くしたらかな。今回で全てが終わったから隠す必要も無くなったよ」
「マジで!見して見して!」
「今写真撮るから待ってね」
京夜は四季の背中を写真に撮り見せる。燥ぐ四季に笑みを深めながら彼の肌に彫られた刺青を思い愛おしくなった。彼に依存する様に京夜が四季を束縛しようとする想いを隠し、学生の内は自由を与えようと決めていた為に必死の思いでそれらを隠していた。だからこそ背中に彫られたそれが彼等の前に、京夜と付き合うと知らない未だ四季を狙う彼等の前に現れた時を思うと、京夜は今か今かと楽しくなり夜も眠れなくなりそうだった。
燥ぐ四季がスマホを渡し、京夜へ感想を伝えていく。的確で感情的な感想は京夜の胸を揺さぶり、上がる口角は弓形に弧を描き、瞳を細め四季を見つめる瞳は狩りをする間際の狩人の様に獰猛であった。四季はそれに気づかず京夜に感想を伝え、京夜は四季の髪を梳く様に頭を撫で四季がそれらを目を瞑り気持ち良さげに享受するそれに目を細め笑んだ。
彼が愛おしい、彼が心から欲しい、彼に愛を注ぎたい。溢れ出す愛は京夜の胸から溢れ、軈て四季すら溺れさせる程の海になるだろうと踏んでいた。
四季が幸せそうに笑い京夜を享受する度に愛おしくなる。四季の幸せが京夜の幸せである。だが他に目移りするのは駄目だ、四季は自身のものだから誰にも渡さない。四季に刻んだのは京夜なのだ。
「明日は皆驚くね」
そう告げる京夜に四季は満面の笑みで答える。
「おう!絶対そうだな!楽しみだぜ!!」
四季の無垢なその返事に京夜は影で隠れた目線で、唯一見える口角が弧を描き三日月に笑んでゆく。
太陽はもう手の内だ。京夜のものなのだ。
まあ後日その後は彼等の大発狂からの犯人のその場の風呂にいた無陀野に皇后崎が京夜を問い詰め、四季と恋人である事を明かした京夜に彼等は激震が走り、杉並に練馬に非常勤講師の彼等にも伝わり、即座に来た紫苑に印南に真澄に馨にも京夜は殺されかけたのだ。