お見合いごっこ3【第二戦】
雑渡 「手本を見せてあげよう」
そう言って発表した第二戦の配役は以下の通りだった。
父 反屋
母 押都
娘 椎良
彼氏 山本
五条 「勘介がんばれー!彼氏役が経験者の山本小頭なら絶対お嫁にいけるぞー!」
椎良 「でも相手は押都小頭だぞ!?」
そうこう話している間に、雑渡は両者の真ん中に座って、どうやら審判の役目を務めるらしい。
雑渡 「両者、遠慮せず五車の術でも何でも使っていいからね。それじゃあ早速、開始!」
山本 「はじめまして、勘介子さんとお付き合いをさせていただいております、山本と申します」
全員 「ブハッっ!!」
一発目で全員吹いてしまった。なんだ勘介子さんって。名付け感覚が他の人と違うような気がする。しかしみんなの反応は気にせず山本は続ける。
山本 「本日は暑いですね」
押都 「ええ、本当に。どうぞ冷たいお茶です」
山本 「恐縮です」
諸泉 「おお…」
山本は日常的な挨拶をして場を和ませている。尊奈門は自分との違いに感心して山本の一挙一動を学ぼうとしていた。
反屋 「ごほん。それで今日はどういったご用件で?」
反屋は小頭に挟まれて緊張した面持ちで何とか演じているようだ。
山本 「はい。実は勘介子さんとお付き合いをさせていただいて本日で3年となります。つきましては結婚を認めていただけないかと思いご挨拶に参りました」
反屋 「ほう…3年もですか」
具体的な数字を出すことで勘介子のことをどれだけ大事に思っているのか説得力が増す。雑渡は予想通りなのかニヤニヤしながら傍聴し、若手達はなるほど…とメモをとっている。
反屋 「それで、勘子…いや、勘介子はどう思っているのだ?」
椎良 「私も陣内様を愛しております」
反屋の名前の言い間違いに、普通そうだよなという顔をしながら娘役を演じる椎良。こちらもさすが変装を得意とする黒鷲で、卒なく演技をこなす。
反屋 「そうか、お互いが思い合っているのなら結婚しても…」
押都 「お待ちください。あなた、私はこの結婚反対ですっ!」
反屋 「えっ…!?」
椎良 「そんな!」
今までそういえば影を消していた押都が甲高い女性の声で間に入ってきた。
いつも通り面をつけてはいても、プンプンしている様子は確かに少し可愛らしいが、尊奈門たちから見ると、黒鷲隊の小頭が中途半端な変装をしているせいで、一回戦の時の山本のような女性らしさよりも伝子さんのような雰囲気が感じられ、傍聴していた若手たちはそっと後ずさる。
椎良 「あの、母上。どうして結婚を認めて下さらないのですか?」
押都 「いけません。だって忍びなんて仕事でどうやって勘子…いや勘介子を守るのです!?」
反屋 「ふむ…。たしかに不安定な仕事ゆえ、経済的に心配なところもあるな」
押都 「ですので私の勘介子は絶対お嫁になんてあげれませんわ!」
そう言ってひしっと椎良に抱きつく押都。やはりこの強引さと高い声は伝子さんのようだが、言っていることはもっともである。
みんなが次の山本の出方に注目するが、山本は冷静で、ふっと短く息を吐くと何やら懐に手を入れ一枚の紙を取り出した。
反屋 「それは?」
山本 「私の給与明細と今後の見通しを計算した表になります。」
諸泉 「給与明細!?小頭の?!」
五条 「小頭ってどのくらい貰っているんだろう…」
若手たちが身を乗り出して山本の明細を見ようとするが、雑渡が「こらこら」と宥める。
山本 「私は小頭という立場を任されているので、他の者よりも少々経済面では余裕が生まれやすいかと思います」
反屋 「ふむなるほど」
押都 「小頭がどうとかよくわからないけれど、具体的にどのくらいなの?」
押都母がまだプンプンしながら試すように言う。
山本 「新婚旅行では京に行くこともできますし、勘介子さんが食べ物や着るものに困ることはないでしょう」
押都 「それはすごいわね…。小頭手当てとやらもあるようだし、忍びにしてはかなり安定してるわ」
若手 「小頭手当て…!」
再び覗き込もうとする若手たちとそれを諌める雑渡。
山本 「どうでしょう。是非勘介子さんとの結婚を認めていただけないでしょうか」
反屋 「ふむ…私は信頼してもいいと思うのだが、勘介子や母はどう思っているのだ?」
椎良 「是非私も陣内様のもとへ行きたいです…母上…、どうかお許しをいただけませんか?」
押都 「ぬぬ…。確かに給料の面では安定しているけれど。もう一つ質問があるわ!あなた子供好きなのかしらっ?結婚して子供をもうけたとき、育児を全くしないような男はダメよ!」
相変わらずツンッとしている押都演じる母親。そしてまたもや冷静な山本。若手たちは、先に状況を予想して明細を用意したり、何を言われても常に上手く返す山本を見て交渉術を学んでいた。
押都 「それで?どうなの子供は!」
山本 「もちろん大好きでございます。責任と愛情を持って接します」
優しい微笑みをたたえる山本は本当に子供好きなのだろうと相手を納得させる。
押都 「子供の養育費などの面はどうかしら?」
山本 「問題ありません。現に私は6人の子を…あっ…」
押都 「子供!?あなた子持ちなの!?それも6人も!」
山本 「い、いえこれは…」
雑渡 「あーあー最後にやっちゃったねえ陣内」
子供の話をされてうっかり、自分の子供の顔を思い浮かべてしまったのだろう。山本らしからぬミスだった。そしてそれにすぐさま反応する母親。審判である雑渡はニヨニヨしながら楽しそうだ。
反屋 「山本殿、子持ちということは別の女性がいるのかな?」
山本 「えっと…はい。」
諸泉 「認めたーー!?」
高坂 「小頭は任務以外では嘘をつけない性格でいらっしゃるからな」
若手たちはもう山本の勝利だろうと思って、交渉術について熱心に勉強していたが、まさかの展開にツッコミが追いつかない。
雑渡 「はいはい。ではこの勝負、押都たちの勝ち、陣内の負け〜」
雑渡もひとしきり笑ったようで、お腹を押さえながら結果を述べた。
その後…。
雑渡 「もうー陣内っぽくない負け方だね」
山本 「恥ずかしい限りです…///」
押都 「私も引っ掛けるつもりはなかったのだが、やはり子供の話題には弱いようですな」
山本 「すまん、つい…」
常に冷静で真面目で、仕事ができる山本が珍しく赤面している。
雑渡 「それで、皆は勉強できた?」
五条 「はい。山本小頭の手本は見習いたいところが多かったです」
諸泉 「小頭、黒鷲に行かないでくださいね!」
雑渡 「尊奈門面白いこと言うねえ。どうする?陣内、黒鷲に異動する?」
山本 「ご冗談を。私には務まりません。一生狼隊で火薬だけを扱っていきます!」
先ほどの恥ずかしさを振り払うように山本が宣言する。
時刻はまだ昼過ぎで、山本が「さあ午後の業務に戻るぞ」と声をかけたところで組頭である雑渡や小頭の押都を含めた全員が「えーーー!」と抗議の声を上げながら部屋に戻っていった。
そんなこんなで、勉強になったのかどうか、ただ組頭の暇つぶしでもあったようだが、相手を言いくるめる術について学んだ若手たちだったとさ。…いい例も悪い例も含めて…。