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    moko_tasogare

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    お見合いごっこ2【第一戦】

    雑渡 「最初の配役は〜、まずは基本から。父役は私、母役は陣内」
    山本 「え?私も参加するんですか?」
    雑渡 「もちろん!唯一の既婚者でしょ」
    諸泉 「組頭が父役だと女座りはできませんね!」
    雑渡 「人にはそれぞれ個性があるんだよ」
    諸泉 「士気が下がります!!」

    雑渡が一呼吸を置いて続けて配役を発表していく。残るは娘役と彼氏役か。だが、基本と言っても、相手は天下の小頭と組頭。絶対に論破できる相手ではない。できればこの最強ペアとはやりたくない…。若手組が一気にうつむき、顔を上げているのは、こんな組頭の遊びでも真剣に訓練と捉える高坂だけだった。

    雑渡 「立候補したい者はいるかい?今なら望む役を与えるよ」
    ニヤニヤしながら雑渡は目を逸らす四人を見下ろす。そしてやはり高坂だけが「はいっ!」という返事と共にピンっと手を挙げた。

    高坂 「娘役を希望します!」
    四人 「「「「ぶほっっっ!!」」」」
    力強い眼差しで雑渡を見つめ立候補する高坂。しかしいくら容姿端麗といえど、大変男らしく、自ら女役を望むような性格ではない高坂が迷いなくそれを選んだため、他の四人は一気に吹いた。
    椎良 「高坂さん、なぜ娘役なんですか?」
    諸泉 「そうですよ、一番嫌がりそうなのに」
    高坂 「ああ、あまり女役というものは得意ではない。だが山本様と組頭の子になれる、こんな幸せを逃すわけにはいかない!」
    四人 「……。」
    ダメだこの人…。拳を握って熱く語る四人の心の声が雑渡や小頭たちには聴こえてくる。



    押都 「ちなみに、挨拶の際に持って行く菓子折りや料理の膳などの小道具は諸泉と高坂の押し入れを借りて置いてある。」
    諸泉 「えっっ!?」
    雑渡 「さすが黒鷲小頭。こういうのには現実感があった方がいいだろう。どれどれ…。…って!!陣左!何これ!?」
    雑渡の突然の驚いた様子に一同は高坂の布団が仕舞われている押し入れを覗く。パッとみた感じ、押し入れの上段には布団が普通になおされており、端の方には着物がいくつか畳まれている程度だ。
    別に普通ではないか、皆が首を傾げる。しかしその視線の先、つまり押し入れの天井部分に何か大量の紙が貼られていた。

    諸泉 「ああ…それですか…」
    同室である尊奈門はすでにその存在を知っているようだった。
    諸泉 「高坂さん、押し入れにびっしり、組頭の絵や購買部の人形を置いているんです。その他、組頭からの手紙、包帯の一部や組頭が触った石や花、土などもあります」
    雑渡 「陣左…。絵や購買部の商品はともかく…包帯や土とかはせめて捨てようか…」
    高坂 「私にとっては宝物です!」
    ダメだこの人…。今度はその場にいた全員がなんと言えばいいのかわからず諦めた。



    そうしてやっと第一戦が始まった。やり方は単純で、彼氏役は説得術やその他術を用いて、彼女の両親に結婚を許してもらうこと。両親役は“あくまでも”訓練のために色んな質問や揺さぶりなどをするが、それに対しては“あくまでも”訓練であるためうまく切り返して納得させること。役がない若手組は助け合っても構わない。

    父:雑渡
    母:山本
    娘:高坂
    妹:五条
    男:諸泉


    諸泉 「え、えーと。娘さんを私にください!!」
    雑渡 「ダメだ」
    即答!?とりあえず常套句を言ってみたが、バッサリと切り捨てられてしまう。
    諸泉 「お願いします!必ず幸せにします!」
    わかりやすく土下座をする尊奈門。机を挟んで向かいには腕を組む父雑渡と(横座りではある)、少し後ろに正座する母山本(自分の娘が男を連れてきたら殴るかもしれないと押都小頭に言ってたのを聞いてしまった)。
    山本 「あなた?せめてお話だけでも聞いて差し上げたらどうですか?」
    まさかの鈴が鳴るような可愛らしい声という見事な演技付きで雑渡に促す山本。
    雑渡 「では、まず。何をもって幸せにできるというんだい?根拠を示しなさい」
    諸泉 「え、えーと!それは…私は陣子さんを愛しています!!」
    雑渡 「それで?愛だけでは乗り越えられないよ」
    さすが組頭。序盤から意地悪な、試してくるような問いをしてくる。
    諸泉 「ですが、私の人生には陣子さんが必要なのです!」
    雑渡 「でも陣子の人生にお前が必要かはわからない」
    諸泉 「うっっ…」
    何を言っても響く気がしない。そもそも咄嗟に陣子さんって名付けてしまったが、後で高坂さんに怒られないだろうか…。
    ってそれよりも次は何と言えばいいのか…。

    雑渡 「まずそもそも君はうちの子のどこに惚れたんだい?好きだというのなら幾つでも挙げることができるだろう」
    諸泉 「好きなところですか!?もちろん言えますよ…!例えば…美人なところとか?」
    五条 「女を外見でしかみないのですか?」
    諸泉 「そ、そういうわけじゃなくて!!」
    五条 「じゃあどういうわけですか!」
    山本 「まあまあ、弾子も姉上が取られて寂しいのはわかるけど、落ち着きなさい」
    山本はまた女性のような可愛らしい声で静止をかける。
    雑渡 「それで続きは?」
    諸泉 「あっ!え、えっと…いつも怒るけど本当は優しいことです」
    五条 「いつも怒るけど?」
    諸泉 「いや!あの!優しいです!?あとは…強くて守ってくれて…!」
    雑渡 「それは本当に彼女に対しての褒め言葉かい?」
    諸泉 「あっ!!えとじゃあ…」
    高坂 「じゃあ?」
    諸泉 「ひいいーー!!」
    何を言っても反応され、完全に向こうのペースにのまれてしまう。彼女として誉めろと言われてもいつも一緒に過ごしているのは男の高坂であり、彼に対しては強さや賢さ、武器の扱いなどいくらでも尊敬することがあるのだが、それは女装をした高坂に対してとなると、失言になるため、やはり外見のことしか思いつかない。
    雑渡 「娘の良さの一つも言えない男に嫁がせるつもりはない」
    父雑渡の一言に尊奈門は打つ手を無くして固まってしまう。


    椎良 「尊!何か具体的な話をしろ!」
    五条 「あと菓子折りもあげないと!」
    向かい合って正座したまま固まってしまった尊奈門に先輩たちがコソッと助言をする。
    諸泉 「なるほど!!…あ、あの…こちらお口に合うといいんですが…。街で話題のお団子でして」
    山本 「まあ、ここのお店気になっていたんです」
    諸泉 「本当ですか!それは良かったです」
    初めて好意的に接してもらえた。尊奈門は心の中でガッツポーズをする。
    雑渡 「では早速みんなでいただくとしようか。お前たちから好きなのをお取り」
    高坂 「いえ、まずは父上から」
    五条 「そうです。姉上の言う通りですよ父上」
    雑渡 「じゃあ…尊奈門くんから選びなさい。君が持ってきたんだから」
    諸泉 「え!!いいんですか!?やったー!じゃあ私はみたらしを…いたっっ!!」
    団子に手を伸ばした尊奈門の手をまさかの五条がパシっと叩いた。
    五条 「尊奈門さん、まずは姉上ではないのですか?あなたいつも自分が先に食べているのではないですか?そんな人に姉上を渡せません!」
    諸泉 「ふぇっ!?」
    雑渡 「よく言った弾子。全く、いくら勧められたからといって遠慮もしないとは。」
    はあっと雑渡がため息をつく。一方五条は組頭のお役に立てた!と言わんばかりの嬉しそうな顔をしている。

    あ…これ絶対無理だ…。その時尊奈門は悟った。
    向こうの陣営には最強組頭と小頭。そして妹役の五条は組頭教の一員であるため、雑渡の役に立てるような発言しかせず絶対にこちらの味方はしてくれないだろう。
    そして唯一味方であるはずの娘役が高坂。自他共に認める組頭教信者の筆頭だ。
    そして、ん?と尊奈門は思考を一時停止して考える。ということはつまり…


    諸泉 「あの…一回中断してもいいですか?」
    雑渡 「中断?いいけど」
    山本 「どうしたんだ?」
    試合を一時中断し、演者たちは元の声に戻った。
    諸泉 「一つだけ確認させてください。もし私の予想が当たっていたら、これ私の勝ち目全くないので」
    押都 「というと?」
    諸泉 「私が勝つためには結婚を認めさせて、晴れて高坂さんと結婚…という流れになればいいんですよね?」
    雑渡 「うんそうだよ。最終的に今こちら陣営にいる陣左がそっちに行けばお前の勝ちだね。」
    諸泉 「ですよね?では、単刀直入にお聞きします。高坂さん、あなたその雑渡山本家から出る気ありますか?」
    高坂 「全くない」
    潔い即答だった。

    諸泉 「ほらーーー!!娘役の人が実家に留まることを完全に決めてるなら私がいくら両親を説得したところで勝ち目ないじゃないですか!」
    その言葉にその場にいた全員がああ!という顔をして納得する。おそらく山本はそもそも高坂が結婚する気がないためこの試合は成り立たないと気づいていたのだろう。圧迫面接なみの雑渡に比べて、所々尊奈門にも機会を与えてやるような発言をしていた。
     つまり架空とは言え雑渡と山本の子供役を立候補してまで望む高坂は最初から尊奈門の方に嫁ぐつもりはないのである。
     そういうわけで最初から勝敗は決まっていたということになる。

    山本 「では公平さのためにせめてどんな男になら嫁いでもいいと思うのか答えてやりなさい」
    再び女性の声を作ってそういう山本。尊奈門は勝つチャンスになるかも!と食い気味で高坂の答えを待つ。

    高坂 「父上と母上より強い者。条件はそのただ一つでございます」
    諸椎反「無理だーっっっ!!!」」
    キリッとした顔でまじめに答える高坂に対して、これには一斉に突っ込む3人。
    組頭と小頭より強い人がいたら見てみたい。というかやはり高坂、結婚承諾する気全くないな…!と三人が軽く高坂を睨む。

    雑渡 「じゃあとりあえず今回は尊の負けって事で。」
    諸泉 「えーーー!納得いきません!」
    雑渡 「ていうか、お前の交渉術もなかなかひどいね。土下座なんて手法、今はもうほとんど意味ないよ」
    諸泉 「うっ…すみません、精進します…」

    そんなこんなで、一回戦は高坂の強すぎる組頭愛のため試合不成立に終わった。

    椎良 「あの組頭…お言葉ですが、この試合では、どうしても親役の方が強い立場です。それを組頭や小頭が担当されては、我々は勝てないと思うのですが…」
    椎良が手をあげて発言する。確かに不利な立場の方を力が劣る若手たちがやっては、決着は決まっているようなものだろう。そもそも交渉術の訓練と言いながら、だらだらしすぎて、本来の目的である相手を納得させるためにはどういう話術がいいのか、ということがいまいち学べていない…。

    雑渡 「じゃあ次、お手本を見せてあげようか」
    反屋 「お手本、ですか?」
    雑渡 「うん、次は訓練らしく年長者が指南してあげるよ」
    そう言って雑渡はニヤッと笑い、小頭二人の方を振り向いたのだった


    2回戦に続く。
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