幸せを奏でて 窓枠に腰掛けて酒杯を傾ける。
抱き抱えた片膝に頬を乗せ、視線を向けると愛しい人が柔らかな音色を奏でる姿が見える。
月光に溶けそうな淡い瞳を覆う豊かな睫毛。高い鼻梁に涼やかな目許。
どこを取っても最高の夫だと魏無羨は唇に笑みを湛える。
視線に気付いた藍忘機が顔を上げると、動きに釣られて闇夜のように美しい黒髪がサラサラと流れた。
「魏嬰」
目が合うと自然と浮かべられる微笑み。
こんな美しい笑みを見られる者が一体何人いるだろう、と思うと擽ったいような優越感が込み上げる。
琴の弦を弾いていた指先が伸ばされ魏無羨を呼ぶ。
窓枠から飛び降りた魏無羨は軽く床を蹴って藍忘機の胸元へと飛び込んだ。
「藍湛!」
「うん」
呼べば返ってくる応え。抱き締めてくれる温かな腕。
こんな幸せがあるだろうか?
滲むような笑みを浮かべる魏無羨に、藍忘機は不思議そうに首を傾げる。
「なんでもないよ! ただ幸せだなって思っただけ!」
隠し癖のある道侶の顔をじっと覗き込んでいた藍忘機の表情も、その言葉が真実だと理解して嬉しそうに綻ぶ。
「魏嬰……私も幸せだ」
「うん」
ぎゅっと抱き締め合う二人を月光が優しく包み込む。
(あぁ……本当に幸せだ)
言葉をいくら尽くそうとも足りないほどの愛情が魏無羨の心を満たす。
そっと顔を上げ嬉しそうに破顔した魏無羨は藍忘機の手を握って軽く振った。
「藍湛、合奏しよう。今夜はあの曲がいいな」
藍忘機が生み出し、何度も二人を繋いでくれた曲。
「分かった」
膝から下りようとした魏無羨を引き止め、藍忘機は琴の上へと指を乗せる。
「藍湛? これじゃあ弾きにくいだろ?」
「問題ない」
言葉の通りに白い指先が美しい旋律を奏で始める。
魏無羨は目を丸くすると腰から陳情を取り出して楽しそうに笑った。
「俺の夫は芸達者だな!」
小さな吐息に耳を擽られ、藍忘機が笑ったのだと魏無羨も嬉しくなる。
黒い愛笛に唇を寄せた魏無羨は、藍忘機の演奏に合わせて笛の音を響かせる。
その夜、満月の下。
美しくも優しい音色が雲深不知処の山の中にいつまでも流れていた。