尚六ワンドロ・ワンライ お題「夜這い」 ふと暖かい気配を感じて、六太は目を覚ます。うっすらと目を開けながら帳の方を見やると、程なくして男が侵入してきた。
男は片手で天幕を押し上げて、口元に笑みを浮かべている。
「許可した覚えねーけど」
些か不機嫌な声で六太が言うと、その男――六太の主である――尚隆は、気にしたふうもなく答えた。
「警備が甘いな。庭の裏手だ、四阿のある」
王と言えども勝手に仁重殿に入ることは許されない。何より麒麟の身の安全が優先される、言わば最後の砦なので、ここだけは王の権力の範疇外にある。六太の了承がなければ尚隆は入って来られない筈の場所だった。けれどどうしたものか、尚隆は度々こうやって、夜の闇を渡り六太の元を訪れる。普通に事前に知らせれば許可を出さないなんて事は無いのに、どうしてか黙って警備の目を掻い潜ってやって来ては、いたずらが成功したとばかりに笑っているのだ。
「六太」
愉快そうに笑いながら、普段より幾分柔らかい声で六太の名を呼ばう。寝台の上に腰を下ろし、手を引かれてしまえば、六太にはもうあらがう術はなかった。
そんな気まぐれな逢瀬を幾度繰り返したかは分からない。指摘された警備の穴はその都度塞がれ、また新たな侵入場所を見つけては夜に紛れてやってくる。そのたび、肌をあばかれる。男のなすがまま身を委ねる。ひととき交わって、そうしてまた夜が明ける前に男は帰って行った。
今、あの男はここには来ない。
王が狂って麒麟に害をなす前に、警備の不足をすべて正してしまったから。王は麒麟の許可が無ければ仁重殿に足を踏み入れることは出来ない。完全に守られたこの場所で、重い身体を横たえながら、六太は来るはずもない相手を待っていた。
――ていう夢を見たんだ。
※失道ネタは全部夢オチです‼