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    yy_skit

    @yy_skit モーメントが上手く使えなくなったので、ここに入れてみることにしました。

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    yy_skit

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    七話目。多分人によっては地雷回。ここが大丈夫ならあとは大丈夫じゃないかと。
    よかった~ここまでupできて。

    人妻(食用)飼育日記。7*** ** *  * 


    「腹減ったなぁ。兵長に電話しようかな」
     あれから度々、兵長は〝エレン〟を連れ家に来てくれた。ハンジもそうだが、厳しい顔の割に面倒見がいいようで、来るたび美味しいものをさりげなく持ってきてくれた。食べ物はもちろん、気にかけてくれるのもめちゃくちゃ嬉しいし、あまり大人と係わることのない人生だったから後々『失礼だったな』と思うこともあるのだが、兵長は何も言わなかった。
    「優しいんだよなぁ」
     呟くと、〝リヴァイ〟もこくりと頷く。だよな。形だけは悪態をついても、本気で怒ったりはしなかった。甘えている自覚はある。
     躊躇うことなく今日も適当に口実つけて連絡すると、珍しいことにしばらく無理だと言われた。え、何で?
     『何で』こそ失礼だろうが素でそう問うと、淡々とした声が、〝エレン〟がいないからと言った。
    「え、どうしたんですか。別のところにレンタル?」
    『食べた』
    「――え?」


    [終わりがあるということ]


    「……」
     電話を切り、口を噤む。
     オスは、〝エレン〟は長生きしない。そうだ、初めて会ったとき、〝リヴァイ〟の倍ほども生きていると言っていた。なら、最高四年で寿命を迎えるオスは、いつ眠ってもおかしくはない。はぁと深いため息を付く。

     電話口で家に来てくださいと強引に誘ったら、しばらくして兵長は来た。
    「何だ。腹が減ったならこれでも食え」
     普通の顔。解っていた気がする。じっと顔を見ると、ぎゅうと力任せに抱き締めた。
    「、なんだ?」
     ぎゅうぎゅう抱き締める。困惑したくぐもる声が胸から聞こえる。
    「なんか可哀想で」
    「だからって大人相手にするか」
    「したかったんですよ」
    「、」
     やはり理解できない顔をしているが、嫌がりはしなかった。そんなやりとりをしていると、〝リヴァイ〟がとことこと近付いてくる。
    『?』
     兵長の鞄をごそごそして〝エレン〟を探す。いつも一緒にいる仲間を探している。
    「リヴァイさん」
     エレンは抱き締めた腕を外し、小さな身体をそっと掴んで持ち上げるときょとんとする顔と目を合わせ、言い聞かせた。
    「あいつは眠ったんだって」
    『、』
    「寂しいなぁ」
    『……、』
     小さな顔はこくりと頷き、しゅん……とする。頭を撫でる。
     膝で丸まる〝リヴァイ〟を撫でながら話をする。
    「さっき『食べた』って言ってましたけど、オスって食べられるんですか」
    「一応はな。オスだから丸きり美味くねぇ。半日も眠ったまま放置すると枯葉みたいにシワシワに枯れちまう――枯らしたことはねぇが」
    「はい」
     頷き、静かに耳を傾ける。慈愛に満ちた声。
    「青臭くてどこか血の味がして。でも、あぁエレンの味だな……と思うよ」
    「最期ってどんなかんじなんですか」
     経験者の言葉。聞きたかった。でも、
    「……さぁな。俺とエレンの秘密だ」
     微かに笑い、それ以上は口にしなかった。何て顔をするんだろうと思う。〝エレン〟はきっと、幸せだった。
    「エレンを食べたのは三度目だ。寿命が尽きるたび、口にした」
     兵長の声は淡々としていた。でも、愛しているからこそ。そう聞こえた気がした。
     それは同時に、『お前もできるか』と問われているようだった。〝リヴァイ〟を見下ろす。可愛い可愛い〝リヴァイ〟。
     その沈黙を不安と思ったのか、優しく大丈夫だと言われた。
    「〝エレン〟は消えない。もう次の〝エレン〟が実っているだろう」
     やっぱり不思議な存在だ。生命(いのち)が廻っている。
    「同じエレンなんですか」
    「同じでもあり、違くもある。俺を好きなことは憶えている。だからそれ以上は必要ない」
    「そうですか」
     いいなと思った。オレもまたリヴァイさんと出会いたい。
    「俺はあいつに選ばれた。だから生きてるうちは何度でも迎えにいくし、何度でも食べる」
     人果が飼い主を選ぶのか。オレは、選ばれんのかな。
    「一週間後に収穫に行く。しばらくは子育てだろうが、育ったらまた良くしてやってくれ」
     収穫。人果が実るところ。〝リヴァイ〟の生まれた場所。
    「オレも行っていいですか」
     見てみたい。真摯に問うと、少し沈黙した後、頷いた。
    「……好きにしたらいい」



    『あぁ、聞いてるよ。〝エレン〟は安心して眠ったんだね……』
     兵長が帰った後、ハンジに電話すると優しい声が小さく溜息をついた。兵長と同じく、人果と寄り添ってくれる人。いつも明るい彼女が、今日だけはぽつりと本音を口にした。
    『人妻が陰で密かにブームになってるけど、本当はね、最後まで責任持って食べてくれる人じゃなきゃ飼って欲しくないんだよね』
    「そうなんですか」
    『うん。彼らは食べられる事に喜びや幸せを見出だすんだ。しかも大好きな飼い主のためにせっせと美味しくなる。なのに『可哀想』とか、情か何か知らないけど人間の身勝手な解釈でその責任を放棄し、土に埋めるとか本当最悪。微生物の餌にするためにいるんじゃないよ』
     悔しげな声。
    『味が落ちて残すのはもっと最低。解っていた事だろうって』
     ハンジの葛藤は止まらない。ずっと悔しかったのだろう。しかし、選ぶのは飼い主である以上、いくら言葉を尽くしても理解はされなかった。
     はぁと大きく息をつくと、悪かったねと謝る。
    『これからの君の選択を非難したいわけじゃないんだ。結局はこれも私の我が儘だ』
    「いえ、勉強になります」
    『……あいつ、兵長はね、初めての〝エレン〟が眠った時、一番に電話して来たよ。「オスは食えるのか」って。驚くよね、オスは枯れた後、人果の根元に植えると肥料になるんだ。そうして巡ってる。だけどあの男は食べたいと言った。美味しいメスでさえ、普通に大切に飼っている人たちは忌避することを、あの男はしたいと』
    「よく解ります」
     よく。深く頷くと、うんと優しい相槌か聞こえる。それでこの話はお終いなのか、明るい声が先を話した。
    『人果はね、見た目はほとんど変わらないまま眠りにつくんだ。少しでも美味しく食べてもらいたいっていう進化なんだろうねぇ』
    「年老いてもいいからもっと長く生きればいいのに」
    『〝進化〟とは、その過程でより良いものを得るために、何かを捨てることである。彼らもまた、選んだのさ』



     夜、ベッドで横になり、天井を見上げる。
    「――」
     今日一日、〝リヴァイ〟は元気がなかった。思えば、〝リヴァイ〟は熟すまでにオスを三も五も食べると言っていた。自分を熟させるために枯れるオスを見て、ずっとあんな顔をしていたんだろうか。
     なら、オスを与えなければいいのか? 熟せないメスはどうなるのだろう。それに、存在意義を奪われたオスは、早く枯れるより幸せなのか。
    「……人果がただの『果物』でしかなかったときは、こんなこと思わなかったのにな」
     ぽつりと呟く。
     彼らは何一つ変わってないのに、食材が自分のペットになった途端、かける感情が変わってしまった。


     ――…夢を見た。
     大人の自分が家に帰ると、机の上でリヴァイが幸せそうに眠っていた。今日も可愛い。のに、違和感。
    「あれ、リヴァイさん……?」
     透き通ってる? 起こすようにそっと身体に手を伸ばすと、

     ヒヤ……、

    「――眠っちゃったんだ」
     そっか……。やわらかい、吐息の声が漏れる。
    「最近ずっと眠そうだったものね」
     髪を撫で、慈しみながらそっと服を脱がせていく。結局、リヴァイは下手くそなポンチョを愛用し続けた。
    「ずっと可愛くて、ずっといい匂いだったね」
     剥き出しの、まっさらな身体に手を合わせる。
     いただきます。
     ――カリ、
    「うん、美味しいよ、リヴァイさん。美味しい。そうだな、初めて食べたときよりちょっとだけ優しい甘みだけど、大人になったオレにはちょうどいいよ。ありがとうな」
     シャリ、シャリ、シャリ、
     ……その、噛みしめるエレンの後ろ姿を、子供のエレン(オレ)がじっと見ていた。



    「――…、」
     は、と目が覚める。いつの間にか寝ていたらしい。むくりと身を起こす。
    「、」
     ――ドキドキと小さく鼓動が跳ねている。高揚。すぅと大きく深呼吸してベッドを出ると、いつもの朝食を作った。
    「あ、卵買い忘れてる。マジかよ……」
     冷蔵庫を開け、唸る。結局今朝はふりかけご飯のみになった。昨日兵長が持ってきてくれた昔ながらのコロッケ、美味すぎて昨日のうちに五個全部食ったのが悔やまれる。
    物足りない。
    「もっと食いてぇー…」
     机に突っ伏し、ぼんやりしていると〝リヴァイ〟が近付いてくる。
    「なに? 遊びたいのか」
     さらさらのほっぺをつんつんとつつくと、違うと首を振る。むにむにと小さな手で開くように唇に触れてくるから何、と言おうとすると、隙間からずぼっと手を突っ込まれた。
     もご…、
    「?」
     え、なにこれ。きょとんと眼を見開く。
    『、』
    〝リヴァイ〟は片手を突っ込んだまま、身振り手振りで俺を食べろと言ってくる。なんだよそれ。ふっと笑う。昨日落ち込んだはずなのに、どこまでいっても食べられるのが至上。これが人妻。
    「本当に食っちまうぞ~」
    『!』
     笑いながらぱくりと腕を全部口に含むと、口腔内でべろべろと舐める。うーん、甘い。くすぐったいのかリヴァイはじたじたすると、腕を抜き、ぴゃっと数歩下がる。そしてはっと気付いたのか、またさっと手を差し出してきた。くくっと笑う。
    「大丈夫、まだいいよ。ありがとうな。今食いたいのは肉なんだよな~」
    『、』
     嘯くと、なるほどと小さな顔がこくりと頷く。肉が好きなのを理解しているらしい。面白い。
    「でも、いつか。オレはちゃんと美味しく食べるから安心しろよ」
    『♡』
     その言葉に〝リヴァイ〟はニコニコすると、美味しくなるよう、エレンの隣でぽかぽかの太陽を浴びた。
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