俳優エレリの小話。「よぉ」
「お久し振りです」
俳優であるエレンとリヴァイは、この度制作が決定した『進撃の巨人』の現場で久し振りに再会した。
主役と人類最強役。どちらも重要なキャラクターであり、人気もあるので打ち合わせは当然のように長引いた。
「はぁ、腹減った。リヴァイさんはこれから予定ありますか」
「いや。帰って寝るだけだ」
「なら一緒に飯でもどうですか。オレ進撃のアニメ録画したんですよ。一緒に観ませんか」
エレンは気さくに誘うと、リヴァイもそうだなと乗ってきた。
元より旧知の仲ということもあり、話は即決まった。帰るとデリバリーを頼み、つまみながらアニメを観る。エレンは面白くてつい仕事も忘れ夢中で観ていたが、リヴァイは眉を寄せるとぼそりと口にした。
「“人類最強”か。嫌な役だ」
「……、えっ? 何でですか、めちゃくちゃカッコいいですけど」
意外な言葉にエレンは驚く。なんてったって人気No.1キャラだ。誰でもなれるわけじゃない。倍率も驚くほどだったと聞いた。
「一兵士なら問題ない。俺も本当はそっちで応募した」
「初めて知りました。でもなんで」
「ハーメルンの笛吹き男」
「?」
目の前では『悔いなき選択』という番外編が流れていた。
「大切な仲間が無残に食われた。これが調査兵団の現実だ。なのに自分と同じ目にあわせると知りながら、希望に満ちたガキどもを地獄へ連れていく男だ」
憧れて調査兵になる子供もいただろう。物憂げな顔が、笑顔を浮かべる無邪気な子供たちを見つめる。
エレンはじわりと嬉しくなった。
「オレは、そんなリヴァイさんだからこそ兵長になってもらいたいです」
監督の見立ては確かだった。今更に実感する。
「あー、楽しみだなぁリヴァイさんに蹴られるの」
あえて茶化すように笑うと、呆れた顔が小さく笑みを浮かべ、頷いた。
「まぁお前は自由人だからな。気が楽か」
「そうですよ。好き勝手やるんでちゃんとついてきてくださいね!」
「ぬかせ」
あははと笑うと、一気に楽しみになった撮影に思いを馳せた。