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    yy_skit

    @yy_skit モーメントが上手く使えなくなったので、ここに入れてみることにしました。

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    yy_skit

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    wkオレ3開催おめでとうございます!!!!!
    エレリ成分少な目でモブ視点ですが、少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです///

    楽園 この世界には、【楽園】と称される島がある。
     正式にはパラディ島というが、運よく降り立ったものは皆口を揃えて〝楽園″と言うので夢の島の意味も込めて楽園と呼ばれていた。
     どう楽園なのか、何がそこまで皆を魅了するのか。行ったものにしか解らない。
     だから船乗りは一度はパラディを目指すのだが、探し辿り着いた者はいない。不思議なことに、名前も存在も広く知られているのに、地図にも計器にも映らないのだ。
     この日も船乗りの男は大まかな場所に船を走らせ、小舟で釣りをしながら習慣のように探していると、夢中になり過ぎたのか気付くのが遅れた。空の翳りが強くなる。どんどんと風も強くなり、不味いなと慌てて釣り具をしまうがもう遅かった。
    「!!」
     ザァザァと大雨に降られ、波に煽られる。天が裂けるような雷の音に耐えながら必死に船にしがみついたが船ごとひっくり返された。
     あぁ、死んだ……――
     
     目が覚めると、どこかの浜辺にいた。
    「生きて、る……?」
     砂にまみれながら起き上がると、全身筋肉痛のような疲労感がある。長年連れ添った船はない。ため息をつき、命あっただけマシかと周りを見渡すと、場所を確認する。
     人の気配はない。見る限り砂、岩、森……しかし、人の通れる道のようなものはあり、無人の島ではない事は伺えた。
     耳馴染みのない鳥の声を聴きながら森に向かい歩く。青々とした草を踏み歩くと森には南国で見かける芳醇で瑞々しい果物が鈴生りに実っていた。
     ごくり、
     腹が減って我慢できず、木に手を掛ける。何度か失敗して落ちたが気力だけでひとつ捥ぎ取ると降りるのも我慢できずその場でかぶりついた。
    「っ」
     甘く濃厚な果汁が喉を滑り降りていく。美味しい…っ!!!
     こんな美味しい果実は初めてで二つ三つと夢中で食べた。べたべたになった手を見ながらぼんやりと放心する。生きてるんだな……
     美しい羽根の鳥が優雅に飛び、宝石に似た昆虫が蜜を求めて集まってくる。野生の動物も美しい毛並みをしていて、カラフルなトカゲが近くを這うのを見ながらぼんやりと〝楽園″などと思うなどした。
     全てが美しく生きている実感が湧かない……
     もしかして本当に死んだのだろうか。
     焼けるような夕日が沈み、紫から紺に変化する空さえ現実味はなく、のろのろ木を降りるとまた浜辺へと戻る。
     楽園だった。しかしとてつもなく孤独を感じて人の気配を求め彷徨っていると、岩場のほうで人の気配がした気がして走って近付いていく。
     その人物は、自発光する石を組み込んだランプを掲げ、岩場を歩いていく。服装からして海賊であろう長身の男。長い髪の陰から黒の眼帯が覗いていて、小さな船乗りには考えもつかないような修羅場を乗り越えてきた事が伺える。
     もしかして危険な人物だろうか。しかし、危険でも人の声が聴きたかった。慎重に岩場を進み、あの、と声を掛けようとする。
     それより先に、ぱしゃん、と水面が跳ねた。
    「ぇ――…、」
     月明りにゆらりと青の陽炎。
     見たこともない美しい青はゆらゆらと艶めかしくさえ見えるゆらめきを見せながら近付き、なんと水面で起き上がった。
    「っ」
     息を飲む。人魚、だ。
     黒く短い艶やかな髪に、真っ白い肌。宝石のように美しい青の尾びれ。しかし、頭には山羊のように長く禍々しい二本の角を生やした、恐ろしいのに世にも美しい人魚。
     海賊の男は近くにランプを置き、岩場に座る。自身の着ていたコートを脱ぐと傍で広げ、その上に人魚を抱き上げ座らせた。
     月明りで見た男の顔は無精髭があったものの精悍に整っており、どこかで見たことのあるようなと既視感を覚えつつもその逢瀬にぼうっと魅入った。
     男は腕を伸ばすと、顔を包み込むほど大きな手のひらで人魚の白い頬を撫で、親指で赤く色付く唇を撫でる。まるで情事の仕草にドキリと鼓動を逸らせるとどうすべきかと悩んだ。
     無粋な真似はしたくない。人さみしいという気持ちは吹き飛んでいた。
     夜が明けたらにしようと踵を返そうとしたとき、首筋にチクッと何かが触れ、虫かなと思う頃には倒れ込んでいた。
     あれ、動けない……
    「――」
     誰かに抱えられながらゆっくりと意識が沈んでいく。複数の声が聞こえた。
    『エレン、こいつ誰か知ってるか』
    『何だジャン。来たなら言えよ』
    『だからッ今着いたんだろうが!!』
     近くで元気に叫ぶ声。うるさい……
    『まぁまぁ。昨日嵐だったから流れ着いたのかもね』
    『チッ……まぁ知らねぇなら、明日まで眠らせて俺らの船に積んで帰るとするか』
    『そうだね。それでいい? エレン』
    『あぁ、悪いなアルミン』
    『俺に礼は無――いや、いい。リヴァイさん、お邪魔してすいませんでした』
    『お前たちの顔を見られるのは悪くない』
    『、あ、はい』
    『…おいさっさと行けよ見んな』
    『うるっせぇっ』
    『あはは』

    ―プツン―


     もう一度目が覚めると、見慣れた港に行き着いていた。
    「おい、こんな砂辺でどうした。お前さんのことみんな探してたぞ。釣りに行ったまま戻らないってな」
    「あぁ……うん……」
     曖昧に頷く。そうか、戻って来たのか。ぼうっと考える。
     夢の島、パラディ。あそこはきっとそれで、でも、体感した今も現実として受け止めきれない。
     今までパラディに行き着いた者が【楽園】としか称せなかったのも頷ける。あの恐ろしくも素晴らしい時間が、口に出し語った瞬間、聞いた人間の中でただの『おとぎ話』へと落とされてしまう、そんな残酷さが彼らの口を閉ざした。
    「エレン……そうだ、『エレン』」
    「? どうした?」
    「いえ、」
     エレンで思い出したのは、数年前滅びた国の、王配の妾の子。王子として受け入れられつつも幼い頃不運にも海で亡くなったと聞いたが、確か似たような翠の瞳をしていた。
     ――なんて。
     どれもこれも、現実味がない。はぁと大きく息を付く。
    「あーあ、船も無くなっちまったし、どうするかなぁ」
     ぼやくが、言うほど悲壮感はない。あんな美しい世界がこの世にはあると知れたからだろうか。
     のんきにポケットを探ると、何か小さな粒が入っている。波に煽られ小石でも入ったか。
     取り出してみるとそれは紅色の粒で、キラキラと輝いていた。
    「?」
     首を傾げていると、声をかけてきた男が素っ頓狂な声を上げる。
    「おっ、おい、そりゃぁ珊瑚じゃねぇか? 宝石珊瑚! 質はまぁ小粒だしまずまずだが、お前さんの船代くらいにはなるよ!!」
    「えっ」
    「こんなことあるんだな……さっき街で最高級の宝石珊瑚を持ち込んだ男がいてな、大騒ぎになったもんだよ。血みたいに真っ赤な色でな、是非買い取らせてくれってヤツが今も交渉してる」
    「……そうか」
     夢の島、パラディ。証言通り夢のように美しい島だったが、彼らが守っているのは『秘密』なのだと知り、大きく伸びをする。今日俺も、その一人になった。
    「景気もいいことだしいい夢も見れた。堤防で釣りでもするかぁ。おやじ、釣り道具貸してくれない?」
    「はぁ。お前さんはのんきだなぁ」
     家族に連絡だけはしておけよ。呆れつつも貸してくれる気らしい。はーいと間延びした返事をしつつ宝石珊瑚を太陽にかざすと、夢の残り香を胸いっぱい吸い込んだのだった。

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