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    kino_fic

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    kino_fic

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    鍾タルワンライ・第七回目【契約】
    所要時間:3h

    (!)注意
    ・魔神第1章3幕までのネタバレ

    眩暈の所為にしてもいいですか(鍾タル) 例外を認めてはならない。越境を許してはならない。妥協してはならない。それは人を弱くする。魔神とてそれが変わらない原則なのだということを、いやというほど思い知っていた。
     彼が横たわる却砂材製の寝台は、何から何まで一級品が揃えられているようだった。さぞ素晴らしい寝心地だろう。一般人が横になればどんな不眠の持ち主であろうとも、そのまま昏々と眠れるに違いない。しかし実際、この寝室の主である男は何者かが近寄ればすぐさま飛び起き、喉元に刃を突き付けることができてしまうだろう。しかも、嬉々として。
     今、公子の枕元に立てている状況も、凡人となった身の上でも使える程度の仙術を行使しなければ叶わなかった。寝込みを襲おうとしたのが悪いという口実で歓喜のまま襲いかかられては堪らない。たとえそれで生じた損害をすべて彼が被ることになるのだとしても、だ。
     この歳相応以上にあどけない寝顔の持ち主が、かくも苛烈な気性をしていると誰が想像できるだろうか。平素を知らなければ騙されてしまうに違いない。否、平素を知っていても尚、騙される人間は後を絶たないのだ。策謀は性に合わないと嘯くかんばせがどれほど甘く映るのかを、この男はさほど気に留めていない。
     ちいさく唸りながら寝返りを打つ男を見下ろした。頬に敷布の皺のあとが薄らと残っている。時折小さな切り傷がある以上には傷を見せたのことのない、その場所に。どうにも、――いけない。指をきつく握り込む。無意識に、己の眉間に皺が寄ったことを後から自覚した。細く息を吐く。「これ」が目的だったとはいえ、実際、直面してみるとやはり居心地がよろしくない。やりづらいことこの上ない。しかし確証が得られた。
     やはり、己はこの男に劣情を抱いているらしい。それも慕情の縺れた、六千年もの間、碌に扱ったことのない厄介な部類の感情として。自覚したいものではなかったが、無自覚のまま暴走するわけにもいかなかった。それゆえに、凡人ならざる手段を用いてまで、合意無く無防備な男の姿を見に来たのだった。結果、見事にこの手は今にも己の理性の支配下を抜けて、その頬を、その乱れた髪を撫でつけたがっている。丁寧に慈しみたいような、乱してしまいたいような、あるがままを眺め続けていたいような。矛盾している。その矛盾こそ、己の抱く感情の何よりの証左だと言えた。
     確かめて正解だった。慣れない感情によって不測の事態を招いてはいけない。知っていれば多少なりとも防止策は取れるだろう。感情に任せて、間違っても彼と関係を築いてしまってはいけない。恋人などもってのほかなのだから。
     あれはある種の契約関係と呼べる。己にとっては相手が、相手にとっては己が唯一であり、互いを最大限尊重するという共通認識を持つための関係の名だ。己は辞したとはいえ璃月の人々の神、彼はスネージナヤに魂を捧げる武人。はじめから前提条件が崩れている土台に何かを築こうとすれば瓦解することが目に見えている。そのようなことはあってはならない。当然の結論だった。
     ――ただ、惜しいと思わないかと言えばそれはまた、別の話で。つ、と一度だけ。ほんのささやかに頬の表面を指先でなぞった。物理的干渉を最低限に抑えていても感じるものは多少あるらしく、むずがるように公子の眉が寄った。惜しむ間もなく、指を離す。これが最初で最後だ。もう二度とこの肌に触れることはないだろう。敏い男に気取られる前に背を向けた。
     その時。殺気を感じ、岩元素のシールドを殺気の矛先が向けられていた頬の近くに小さく展開する。振り返ってみれば、既に目を開け身体を起こしている公子が、己のいる場所をじっと見据えていた。飛んできていたのは殺気だけでなく、水元素の小さな塊らしい。
    「……鍾離先生、だろう? そうだと言ってもそうじゃないと言っても、姿を見せないと俺は信じないし、次は心臓を狙う」
    「ふむ。……姿は見えないようにしたつもりだったが」
    「元素は丸見えだ。神の目の扱いには慣れていないようだね」
     俺としたことが元素視覚に対する対応を失念していたらしい。溜息を吐いて仙術を解くと、公子も殺気は押し留めてくれたようだった。この場で戦闘を起こすような真似をしない程度には既に意識が覚醒しているらしい。
    「それで、一体どういうつもりかな? 今更、俺の寝込みを襲って殺そうとするだなんてつまらないことを鍾離先生がするとは思えないんだけど」
    「もしその通りだと言ったら?」
    「少し、失望はする。でも、俺を殺したいならまたとない機会だ、日と場所を改めて正々堂々と殺し合いをしようと言うつもりだよ」
     それはできかねる、と告げると心底残念そうな溜息が返ってきた。どうやら本気でそう考えているらしい。この男らしいといえばこの男らしいが。公子はひとしきり残念そうな仕草を見せてから、くい、と顎を上げてこちらを促すように見た。どうやら煙に巻かれるつもりはないらしい。
    「散歩のようなものだと思ってくれていい」
    「深夜徘徊なんて、呆けが回っているんじゃないかな」
     打てば響くように返ってくる言葉が心地良い。この状況ですらそう思えるのは相当にやられているらしい。好きに捉えればいいと言わんばかりに肩をすくめた。邪魔をしたな、と告げてそのまま背を向ける。姿をくらまそうとした瞬間、ぱしゃん、と殺気のない児戯のような水の飛沫が背中にぶつけられた。殺気がなかったものだから反応が遅れたせいで上着は僅かに濡れてしまったらしい。
     犯人は悪びれなく笑って、広々とした寝台の上をぽんと叩いた。
    「寝つきの悪い先生は誰かが寝かしつけてやったほうがいいのかもね。ここで寝ていく? 寝心地いいよ、このベッド」
    「は、」
    「ほら。まあ、嫌なら無理強いはしないよ」
     とすん、と二度目の誘惑がやわらかく鳴る。
     嫌ではない。困ったことに。だが、公子から向けられているこれは、何なのだろうか。信頼か、見くびられているのか。いずれにせよ、公子はまるでただの人間を見るような目でこちらを見つめていた。
     体温が上がっているわけでもないのにくらくらとする。気が付けば、まるで引き寄せられるように寝台に腰を下ろしていた。上着くらいは脱いでくれよ、と笑う声に眩暈がする。
     ああ、まったく勘弁してくれ。そんなにも容易く、お前は俺をひとにしてしまうのか。こんなの想定外だ。
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    kino_fic

    DONE鍾タルワンライ・第十四回目【抱擁】
    所要時間:1.5h

    (!)注意
    ・魔神第1章3幕までのネタバレ
    ・先生のケツを狙うような言動をする公子
    空いた隙間に綺麗に嵌まるものだから(鍾タル) 公子殿、と唐突に名を呼ばれて手が止まった。外しかけた神の目に指を添えたまま、視線だけを男に向ける。なんだ、気が変わりでもしたのだろうか。
    「俺を抱いてくれないか」
    「えっ、いいの?」
    「……待て。性行為の話ではないぞ」
     露骨に目を輝かせた俺にすかさず否定が入った。まるで俺が非常識なことを言ったかのような胡乱な目つきに逆に言い返したくもなってくる。今このタイミングで言うそっちの方が悪いんじゃないだろうか。肉体関係を持っている男二人。いつも性行為に及ぶ鍾離先生の自宅の寝室で「抱く」といえば連想するべきものはひとつに決まっているのに。
     なぁんだ、と肩を竦めた。どこかで断るのが面倒になってきたり、変な気を起こしたりしてその気になってくれやしないかと何度か戯れに持ち掛けたことはあった。だが、一度も承諾を得たことはない。何がそこまで拘るのかはよくわからない。無理矢理とか、何かしらの手段を用いることは考えなかったわけじゃないが、後が怖いので実行したことはなかった。強者に挑むことは好きだが負け戦がしたいわけではないので。
    1944

    kino_fic

    DONE鍾タルワンライ・第十二回目【ピアス】
    所要時間:1h+15min

    (!)注意
    ・魔神第1章3幕までのネタバレ
    未必の故意など知らずに笑う(鍾タル) 習慣というものは当人の自覚よりもずっと執念深く居座り続けるものだ。毎日の何気ない行動は、日々塗り重ねられて自分という存在を形成する。他国で盛んな油彩の絵画がそれに近いのかもしれない。それは何千年でも、二十年かそこらの歳月でも大きくは変わらないだろう。
     公子と性行為に及ぶことがひとつの「習慣」となってから暫く経つ。感情を伴わない即物的な欲求を正面からぶつけられたので、応えただけ。それだけの関係であり、特別、公子に対して何らかの感情を抱いているわけではなかった。向こうもそう変わりはないはずだ。単に都合が良いだけの利害の一致。――だが、好きな部位がひとつだけあった。
     彼の耳が、どうにも好ましい。赤朽葉色の髪からのぞく、雪国の人間らしい白い肌。武人としては勲章であり、戦士たる証とも言える傷痕は彼の身体の至るところに残されているが、耳にはひとつとして残されていない。唯一、左耳にぽつりと小さな穴が開いているだけ。平時は耳飾りによって隠されたそれを目にしたことがある人物はそう多くはないだろう。それが行為のとき、興奮すると薄く朱が差す。裸体を晒されるよりもずっと、それが淫靡で仕方がないように思われた。
    1821

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